06.「流石にそのままじゃ街中を歩けないだろ」

調査の報告を終えてギルドを出る。


今回の仕掛けが他の場所にも仕掛けられているなら大規模な魔族による侵攻の可能性を示唆しているが、まあそんなのはギルドの仕事なので一冒険者には関係ない。


山中くまなく調査するにしてもBランクくらいの冒険者を大規模に集めてやれって感じの仕事内容だしな。


つーかめんどい。


あいにく俺は平和のために滅私で働く勇者様じゃないんで。


本当に切羽詰まったら都市組合からギルドに動員がかかるか、もしくは国から騎士団あたりが出てくるだろう。


辺りはすっかり暗くなっていて、路地の左右に並ぶ店先には灯りが点っている。


大通りは人に溢れていて、ぶつからないように進んでいるとたまにすれ違う人間がこちらを確認するように顔をあげる。


相変わらず同行者が周囲からの視線を集めてめんどくさいが流石にもう諦めた。


そしてそんなイリスじゃない方の同行者はそ知らぬ顔で後ろを着いてきている。


一応旅の同行は断った体になっているはずだけど、この街から出る時になったら普通に一緒にいそうで嫌だなぁと思いつつ道を進み宿に到着した。


「それでは、ビダン様、イリス様。本日はこれで失礼致します」


「おやすみ」


と挨拶をするイリスに違和感を覚えながら、聖女様を見送った。




数日後。


もはや慣れ親しんだ光景のように二人の前を歩きながら思う。


正直することがなくて暇だ。


しかしイリスや聖女様になにか希望があるかと問うのも違う気がするのでこうして道を歩いている。


もし一緒にいるのがアリスならそんな意図はすぐに見抜かれて、買い物にでも腕を引かれたんだろうなと無意識に考えてから眉がピクリと揺れた。


ギルドにでも行くかな。


もしくは道具屋を覗いてまわるか。


どっちも急を要する訳ではないが、時間を潰すことくらいはできるだろう。


そんなことを考えながら大通りを歩いていると、なにやら門の方に人だかりが出来ているのが見える。


その取り囲む人間のざわめきから、緊迫した状況が伝わってきて聖女様が俺を追い越して前に出る。


「どうかなさいましたか?」


「聖女様!」


取り巻きの一人が叫んで自然と人の塊が二つに割れる。


その群れの中心には荷車に載せられた血染めの死体がひとつ。


どこかで見たような光景だった。


服ごと腹を裂いた傷口は、遠目にも致命傷に見える。


格好を見るに冒険者ではないので商人か、もしくはこの街の住人だろうか。


おそらく街の外で魔物に襲われて、逃げてきたんだろう。


そんな血塗れの男が叫ぶ。


「彼女を助けてくださいっ!」


俺が死体と判断したそれはまだ生きていたようだ。


もしくは男が錯乱しているか。


どちらにしろ俺なら諦めろと告げる。


そんな状態だった。


しかし彼女はそんな男の血塗れの手を握って答える。


「大丈夫ですよ」


そして荷車の脇に膝を下ろし、目を伏せて祈りを捧げた。


すると瞬く間に傷口が塞がっていき、女性の表情が穏やかなものに変わる。


これが聖女の奇跡か。


神の奇跡の代行、聖女が持つ力のひとつ。


知識としては知っていたがやはり伝聞と実際に見とでは別物だ。


それは今まで見たどんな治癒師の治療よりも強い力だった。


これなら斬り落とされた腕くらいなら簡単にくっつきそうだな、なんて感想を抱く。


確かに旅の同行者にいたら便利そうだ。


聖女様とあがめられるのも納得できる能力だな。


そんなことを考えていると、人混みが割れて治療された女性が運ばれていく。


おそらく教会で経過を見るんだろう。


「お待たせいたしました」


戻ってきた聖女様がこちらに頭を下げる。


「待ってないがな」


どうせ置いていってもすぐに追い付かれる。


だがまあ、今は行動を別にする意思はなかった。


「行くぞ」


「何処へですか?」


不思議そうに問う聖女様に答える。


「流石にそのままじゃ街中を歩けないだろ」


彼女の手も服も血でベッタリで、どう見ても着替えが必要だった。

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