握手会で推しアイドルに告白した次の日から隣の席に座る目隠れ女子の様子がおかしいんだけど?
ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】
第1話「推しアイドルと目隠れ女子」
「――好きです、ずっとあなたのことが好きでした」
「ふぇっ!?」
両手を握り、心の底から思っていることを伝えると、目の前に立つ可憐な美少女はすっとんきょうな声を出した。
普段からパッチリと開かれた大きな瞳はさらに大きく開かれ、純白だった肌は真っ赤に染まってしまう。
小さな唇はアワアワと震えて何かを言いたそうにしながらも言葉がうまく出てこない様子だった。
猫耳を模した髪型が逆立ったように見えるのは俺の気のせいだろうか?
そんなことを考えていると、彼女と俺のことを見つめていた野次馬がざわざわと音を立てて慌て始めた。
中には俺の暴挙としか呼べない行動に歓声を上げるノリがいい人もいたが、ほとんどは戸惑った声を出しているようだ。
そして――ガシッと、腕をスーツ姿の男に掴まれる。
「
「えっ、でも……アイドルの握手会ならファンがこういったことをするのは普通では……?」
「ネコトは穢れを知らない純粋な子ですので、このような行動は困ります」
そう言われ、俺の手はネコトちゃんから離される。
「あっ……」
直後に聞こえてきたのは、アニメ声によるかわいらしい声。
ネコトちゃんの声なのだが、残念そうに聞こえたのは俺がそう思いたいだけだろうか?
まぁ多分、戸惑って出た言葉だったのだろうな。
「そ、そっか、ネコトちゃんは純粋だからあんなに顔を真っ赤にしているのか……!」
「真っ赤に照れるネコトちゃん、かわいすぎる……!」
「やっぱり拙者たちの天使は違うでござるな……!」
スーツ姿の強面おじさんに連行されるなか聞こえてきたのは、俺と同じネコトちゃんのファンである男たちの安堵する声だった。
どうやらネコトちゃんの様子に動揺してざわめき立っていたらしい。
まぁ、普通にあんな反応をされたら戸惑うよな。
告白した俺でさえ予想外の反応に内心戸惑っていたくらいだし。
普通のアイドルならいつものかわいらしい笑顔で流すところなのに、ファンからの告白程度であんな真っ赤に照れるなんてやっぱりネコトちゃんはかわいいなぁ。
そんな呑気なことを考えていた俺は、マネージャーさんから以後このようなことをしないようにと注意をされ、一緒に来ていた悪友二人のうち片方からは大爆笑をされ、もう片方からは蔑んだ目を向けられたのだった。
◆
「僕は未だに君のことが理解できないよ、
握手会が行われた次の日、教室に入ると昨日のことを引きずった
その表情からは大層呆れていることがわかる。
「お前、まだ言うのか……」
「当たり前じゃないか。全く、恥をかかされた気分だよ」
「悪い、お前にだけは言われたくない」
この笹倉湊という男、見た目は美少年なのだが中身はかなり腐っている。
というのも、男相手にはずばずば文句を言うのに、女子からは蔑まれたいというかなり変わった性癖を持っているのだ。
だからこいつの推しは、ネコトちゃんと同じグループの毒舌妹キャラを売りとしているアイドルになる。
昨日だって、わざとうざ絡みをして罵られることで頬を緩ませていた。
そんな奴に恥をかかされたとか言われたくない。
「俺からすればどっちもどっちだ」
「「一番の問題児が何を」」
「なっ――!?」
話に入ってきたもう一人の悪友、
それに対し翔太は不満そうに俺たちを睨んでくる。
「はいはい、私からしたらあなたたちは全員問題児だからね」
「……なぁ委員長、なんで俺だけ頭を叩かれたんだ?」
「あら、丁度いい位置にあったからじゃないかしら?」
綺麗な髪を両左右に結んだツインテールヘアーの小柄な美少女は、俺の問いかけに対してかわいらしく小首を傾げてとぼけた。
その手には一冊のノートを持っており、先程俺の頭を叩いた奴だ。
「委員長が暴力女な件について」
「わ、私がこんなことをするのはあなただけなんだからね……!」
「うわ、全然嬉しくない特別扱い。かわいらしくツンデレふうに言えばなんでも許されると思ったら大間違いだぞ?」
「残念、
わざとらしく肩をすくめる委員長。
委員長と聞くと真面目で堅物な印象を受けるものだが、この子は真面目だけどノリがかなりいい。
そして美少女なものだから、クラスでは大人気な女の子だ。
というか、多分学年で一番モテるんじゃないだろうか。
「頭を叩くのは湊にしてくれ」
「笹倉君にしたらご褒美じゃない」
「「あぁ~」」
「ねぇ二人とも、何を納得してるの? 僕は委員長なんかに叩かれても喜ばないよ?」
俺と翔太が納得すると、湊が不服そうに口を開く。
「僕は年下限定なんだ。同級生に叩かれたり蔑まれても嬉しくもなんともない」
「「「腐ってやがる(腐ってる)」」」
今度は俺と翔太に加え、委員長の言葉も重なった。
委員長がゴミを見るような目で湊を見つめるが、湊は気にした様子がない。
こいつの鋼のようなメンタルは是非とも見習いたいものだ。
まぁそれはそうと、委員長は全体的に小さいし童顔なのだから年下に見えてアリなんじゃないだろうか?
「風早君、話があるのなら聞きましょうか?」
「いえ、なんでもないです」
俺の視線から何かを察したのか、わざと丁寧な言葉を使いながらニコッと委員長が笑顔を向けてきた。
笑顔で恐怖を感じさせるなんてうちの委員長は凄いものだ。
「一年生の頃の風早君は硬派で一部の女の子たちからは人気だったのに、どうしてこうなっちゃったのかな? 気が付いたら重度のアイドルオタクになってるし」
そう言って、委員長はジト目を翔太たちに向ける。
俺がこんなふうになったのは翔太たちと絡むようになってからなので、誰が犯人かなんて明白だった。
だけど俺は翔太たちに感謝をしている。
なんせ、ネコトちゃんという尊い女の子に出会わせてくれたのだから……!
今まで家の都合上武道が全てだった俺にとって、ネコトちゃんは初めてできた癒しだった。
あんな尊くてかわいい女の子は他にいない。
そんな子と出会わせてくれた翔太たちには感謝はすれど恨むことなんてないのだ。
「二人とも、その子たちから恨まれてることをお忘れなく」
「なぁ、その女子の中に委員長も入ってるんじゃないのか?」
「聞くまでもないでしょ」
「なっ――!? ち、違うもん! 私は別に風早君のことなんてなんとも思ってないんだからね!」
俺がネコトちゃんに想いを馳せていると、何やら委員長が顔を真っ赤にして怒り始めた。
なんの話をしていたのかは聞いていなかったからわからないけど、またツンデレの演技でもしているのだろうか?
――そんな疑問を抱いていると、教室のドアが開かれ身長140cm後半の小さな女の子が教室へと入ってきた。
その子はボブヘアーのような髪型で目が隠れるように前髪を長く伸ばしており、誰が見ても少し変わった女の子だ。
名前は
学校をよく休んだりする不登校気味の少女だ。
「早乙女さん、おはよう」
「――っ!?」
「あれ……?」
いつも通り挨拶をすると、肩をビクッと震わせて驚かれてしまった。
そして学生鞄を置くなりすぐに本を取り出して顔を隠す始末。
普段なら挨拶をすればペコッと頭を下げてくれるのに、どうしたのだろうか?
「頼人、何かしたのか?」
「いや、何も……」
「風早君が女の子相手に何かするわけないでしょ!」
俺が戸惑っていると委員長が勢い強く擁護をしてくれた。
委員長は委員長で様子がおかしいのだけど、時々こんなふうになることはあるので今はいい。
それよりも、何か早乙女さんに怯えられるようなことを俺はしたのだろうか……?
そう疑問に思った俺は、何度も授業中に早乙女さんの様子を盗み見てしまった。
すると、何か用事があったのか早乙女さんの顔もこちらを向いており、俺の視線が向くとブンッと音が聞こえそうなほどに勢い強く顔を背けられる。
昼休みまでの間何度もこれは繰り返されたので、俺は本当に何かしてしまったのかもしれない。
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