第28話 洋一⑥

 あずさの婿殿登場。ちょい役です。

 では、どうぞ。

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 午後はあずさの夫になる祐治ゆうじくんと合流し司法書士のところへ向かう。俺に所有権のある今のこの家は個人間売買であずさ夫婦に所有権移転する。


 本当はタダでもいいんだけど、そうすると法律上だか税制上だかに違法性が出るんだと。よくわかんないから、税務も得意だっていう司法書士に任せることにした。


「向井さん、ほんとありがとうございます。助かりました」

「いやいや礼には及ばないよ。それよか、婿に来ていきなり同居よりは夜の営みもスムーズでいいんじゃない? あずさ、声でかそうだし」


「なっ! 洋兄ちゃんは何をいっているの! もうっ、ばかばかばかばーか!」


 ずっと揶揄れっぱなしだったからな。一矢報いてやれたかな? シモネタだったけど……


「うるさいよ。んで、もうそろそろ夕飯も考える時間だけど、どっかで食っていくか?」


 書類、書類、書類でかなり時間を食ってしまった。一緒について来たエレンもナイマもただ座っていただけなのでだいぶダレている。


「ううん、今日はね。祐治が美味しいお肉買ってきてくれているからお庭でBBQだよ!」

 向井家と坂嶺家はくっついて家が建っているが、他所んちはずっと離れているのでBBQしても煙問題はないんだよな。夜はここいらは涼しいし気候的にも無問題。虫については諦めよう……。


「ねえ、洋一。ばーべーきゅってなに?」

「屋外で炭コンロ使って肉とか魚、野菜類なんかを焼いて食べる行為、かな?」

「え? お家があるのに野営するの?」





「BBQって野営調理とは違ってたろ?」

「うん。全然違って狩りも採取もしないしお肉もお魚もみんな美味しかったよ!」


「洋一様。今度またわたくしたちだけでもやりましょうよ!」

「そうだな。自宅ではできないからキャンプでも行ってやってみるか? そうするとますます野営色が濃くなる気もするけどなぁ」


 ともあれ楽しんでくれたようで何よりだ。

 明日にはここを発つからもうここに帰ってくることはない。不用品処分込みであずさ夫婦にはこの家を買ってもらった。思い出もあるけど全部持っていくわけにはいかないからね。全部とっておきたいけど、そうはいかないしな。

 明日の出立までに自宅に持っていくものを厳選して段ボール箱に詰めなくてはならない。


「さて、風呂も入ったことだし少しのんびりとしよう。この家での最後の夜だから……な」

「では、おふとーんにまいります? 洋一様」


「いかねぇよ! いま、のんびりするって言ったばっかだろ⁉ おま、聞いてのか?」

「むう……」


 ……やば。すねたナイマがちょっとかわいかったりして、流されそうに……いやいや、いかん!


「はい、洋一にはびーる。ナイマにはうっすいちゅーはいね。わたしはすとろ○ぐゼロで、ね!」


「こら、エレン⁉ それば没収。お前もうっすいのにしておけ。魔力ないとものすごく酒に弱いんだからな。そもそも酒なんて飲まないでもいいんだからな?」


「だって……初めてのあの夜が忘れられねいのですもの、うふふっ」

「まあ、あんときは……確かによかったけど、な」


「むう」

「もちろん、ナイマのときもかなり良かったぞ?」


 一体何の話を俺はしているんだ?


「もうおしまい。エロ話じゃのんびりできねえよ!」

 そういうのはもう少し夜が深まってからでも十分だと思うのだよ? そもそもスルこと前提なのは気にしてはだめだ!


「それじゃよ、昨日は俺の両親の話をしたから、今日は二人の親の話を聞かせてもらうのってどうだ? 本当は俺も嫁にもらうなら挨拶しにいかなきゃならないのかもしれんが……」

 まあ、異世界になんて行けないしな! そこは仕方ないってことで⁉


 ――この時点では吸血ナイマ姫の覚醒を露ほども考えることはなかった洋一であった――




「では。わたくしから話しましょう……すぐ終わりますよ?」

 すぐ?


「ええ。すぐです。わたくしは以前にも話しましたが魔人族の中でも魔女と呼ばれている種族で、唯一の王族です。魔女というだけあって女しか生まれません――」


 父親の役割は種付けオンリーなので、まず会わないが、もし会ったとしても父親との認識は皆無だそうで。

 母親も、出産までは母親だけど産んだ途端すべてほかの魔人の乳母任せで子育てはしないそうだ。国を背負ってるから仕方ないんだろうけど寂しいもんだな。


「以上です。非常に希薄な親子関係なので、わたくしは洋一とは楽しく温かい家族関係を築きたいので、時期が来ましたら種付けお願いします」

「あ、はい。よろしくおねがいします?」


 まあ、しばらくは三人でエロエロ生活を楽しむことにはなりそうだけどな‼


 ――向井洋一、この数カ月後に邂逅する剣聖バビとの間にあっさりと子を作り父になることをまだ知らない――



「じゃあ、次はわたしね。えっとね、うちの両親は……………





 死ねばいいのに





 って感じかな? マジ死ねよ! このカス! な、親でした」


 エレンはごくごく平凡な商店勤めの親のひとり娘として生まれ育てられたが、一五の成人の儀の際に勇者スキルが発現してしまった。


 自分の娘が勇者になったことを両親は喜び、そして……エレンを売った。


 両親の懐には王国から莫大な金員が渡されたことであろうと思われる。

 実は人間族社会では勇者とは名ばかりで、対魔族戦の強大な兵器という認識しかないそうだ。

 エレンは国を、民を救うために敵を殲滅するだけの教育という名の洗脳を受け戦地へと送られた。

 出立の日にエレンの両親が見送りに来たなんてことも一切なかったようだ。


「いまはね、洋一に会えたからわたしを生んでくれた感謝こそあるけど、それ以上の感情は皆無だなぁ。あるとすれば兵器として売られ捨てられたという気持ち以外はないなぁ~ だからかな? あんな親は死ねばいいと思うの」


 ……えっと。俺、軽い気持ちで二人の両親のこと聞いたんだけど、俺含めてそれぞれ重くって。


「だからね。わたしも洋一と温かい家庭を築きたいから……子供を作る練習をいっぱいしようね⁉」

 最後はいつものようにエロ話になるんだよな。ま、俺たちらしくっていいか?


 ――向井洋一、この数カ月後に邂(後略)――



 話が終わったところでうちの可愛い女神さんたちが甘えてきたので、ま、いつも以上にかわいがってあげたりなんかして……ピカピカと股間に花火がたくさん上がってさ……たまや~ってね。あ、目を逸らすのはやめて? 謝るから? ね?




 で、まあ、その……なんだ。夏場の夜明けは早いねってことだよ!


 最後に無理やり三人でくっそ狭い風呂に入って夜明けすぎに就寝する――って、寝たと思ったらインターフォンが鳴るわ鳴るわ鳴るわ……



「おはよ! 新妻あずさちゃんだよ! 玄関開けてよ、洋兄ちゃん!」


 お前まだ籍入れてねえだろ⁉ まだ新妻じゃねえじゃん! つっかうるさい! 


「おう。やかましいあずさちゃんよぉ、朝っぱらからなんだよ?」

 玄関の鍵を開けてやると、勢いよくあずさはドアを抜ける……


「なに言ってるの? もう九時……ひっ! くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 光速で戻っていった。


「ん? あれ? そういや、俺全裸だっけ?」

 のそのそと寝室に戻るとエレンもナイマも全裸で寝ていた。


「……ま、いっか」

 なんだか記憶も意識も曖昧だけど、眠いし、もう一回寝た。




 標高が高いこの場所は、朝晩は涼しくてエアコンも不要なことがよくあるが、日中は普通に暑い。そして今、くっそ暑くジリジリと日差しが顔を焼く。


「くぉうわっあぁあっっっつい……カーテンがずれてんじゃん。ちくしょ」


 カーテンが僅かにずれており、真夏の日差しが俺の顔にだけレーザービームのごとくあたっていた。暑いってか痛い。


「ふわぁ、起きよ……おら、お前らも起きろ⁉」

「ほふぁ~ おはよう……洋一」

「ふにゅ……おはよう……ございまちゅ。洋一様」


 たぶん――というか絶対にの時間帯ではないと思う。

 あと、なんとなくだけど今朝なにかやらかしたような気もしないでもない。思い出せないだけで。

 昨夜脱ぎ散らかした服をとりあえず身にまとい、一階にある洗面所に向かう。



「やっと起きてきた……洋兄ちゃん、にエレンちゃんとナイマちゃん! こっちに来なさい!」

 何故かあずさが居間にいるし、なんだか怒っているような様子がする。なんで?


「どうしたんだ? 朝……じゃないな。もう一二時か⁉ どうりで腹が減っているはずだ」

 日が昇りだした頃に寝たから七~八時間は寝たんだな。良い睡眠、健康的だな!


「どうしたもこうしたもなにもないでしょ⁉ もう! お昼ごはんは用意してあるから一緒に食べながら話すわよ!」

 もはや怒られているのか優しくされているのかわかんねぇぞ?


「いや、美味いな」

「ほんとあずさちゃんのご飯美味しい!」

「えくせれんとでまーべらすです!」


「ほ、褒めたってないも出ないわよ? あ、洋兄ちゃんおかわりは?」

「頼む。いや、あずさはいい奥さんになるな! 祐治くんが羨ましい!」

「え? えへへ、えへへ♪」


 あずさは機嫌良くなったが、俺の両側の二人の機嫌が氷点下……涼しくて、ね?



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次回最終話でございます。

まだ★を付けていらっしゃらないご貴兄にはこの機会にどうぞ……

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