第113話 ほろ苦い思い出

「心理カウンセラーの先生みたいなこと言わないでよ!」

 六年生の少女に泣きながらそう言われた。


 女の子が興奮していたので、私なりに言葉をかけたつもりだった。

「自分のこと嫌いになっちゃ駄目だよ」

「明るくて元気なあなたもいるじゃない」


 そんな言葉の数々は、心理学の教科書に書かれた励ましの言葉に似ていたのかもしれない。


 ごめんね。

 こんなありきたりの言葉しかかけてあげられなくてごめん。

 私の言葉には、なんの力もないんだなって思い知らされた。

 

 それでも、彼女との関係は悪くならなかった。

「先生、修学旅行のお土産買ってきてあげる」

そう言うから

「お土産は買ってこなくていいから、修学旅行の楽しいお話聞かせて」

と、答えた。


 彼女は、最初目を丸くしていた。

 それから、ゆっくりと微笑んで友だちと遊び始めた。


 修学旅行の楽しいお話を聞けないまま私は異動してしまったけれど、彼女は今どうしているかなと気になっている。


 



 

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