第3話 梅ちゃんの逃亡。

 父の実家は、農家でした。


 りんごにお米に長芋にニンニクに枝豆にとうもろこし……

 とにかく、いろんな野菜を作っていました。


 当然、農繁期には家族総出でお手伝いです。


 農繁期。

 それは、なんと言っても田んぼの稲刈りとりんごの収穫。

 幼い頃から、祖父母にくっついて山や田畑に行っていた私。

 農家の仕事を苦に思ったことはありません。

 お手伝いすると、お金も貰えました!

 どケチな梅ちゃんは、高校生の私に2000円のお小遣いしかくれませんでした。

 この頃の相場は、3000円~5000円かな。おこづかいの少ない私にとって、農繁期のバイト代はとっても大事です。

 

 さて、ある年の稲刈り。

 嫁である梅ちゃんが、珍しく田んぼにやって来ました。

 バイクに乗って、遅れて登場。

 まるで、ヒーローのようであります。

 大分遅くやって来たのに、一時間ちょいしたら

「トイレに行って来る」

 と言って、とうとう戻って来ませんでした。


 祖父母も、父も、私たち子どもも

『やはり、逃げたか……』 

 そう思いました。


 だって、田んぼで働く私たちは、いちいちトイレのために家に戻りません。

 田んぼの隅で、あるいは、軽トラックの陰で『野しょん』をします。

 (野しょんという言葉があるかわかりませんが、野原で小便の略です)

 

 大きくなるにつれ、田んぼでの『野しょん』を恥ずかしく思いましたが、家に帰る術のない私は、羞恥心を抑え込み仕方がないことと受け入れていました。

 同級生に見られないことだけを祈り……

 それが、一昔前の農家スタイルでありました。

 (少なくとも、我が家はそうでした)


 梅ちゃんは、この日を最後に田んぼに手伝いにくることはありませんでした。

 いや、正確には山仕事も、畑仕事もすることはありません。


 農家の嫁のお勤めを放棄したのです。


 そう、梅ちゃんは自由人!!


 

 

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