彼女の観察記

はる

第1話  須磨海岸

 小春日和に海風が、心地いい。

「きれいな貝殻、あるかな!」

 そう言って、彼女は波打ち際に向かって走って行く。

 振り返った笑顔は遠くからでも眩しかった。

 波打ち際からニメートルほど手前に彼女はしゃがみ込んだ。

乾いた砂の中から小さな何かを差し上げ僕に向かって走ってくる。

「きれい。紫色の貝殻」手には彼女の爪の半分ほどの二枚貝のかたわれ。

きれいな貝殻を見つけたことに気をよくしているのがわかる。

 からっとした笑顔で、

「くるくるした貝殻もあるかな?」

「巻貝だね。探せばあると思うよ」

 そう答えると僕に手を差し出し、

「こっち来て!」

と、僕の手を引き波打ち際に走ろうとした。

「そんな急に走れないよ」と、足を砂に取られながらついていった。

 波打ち際、ニメートルには無数の貝殻があった。

 ほとんどは踏まれて割れていた。その中に小さな貝殻は原型を留めているものがあった。

 彼女が見つけた貝殻と同じ大きさの貝殻を、僕も見つけた。紫色の貝殻。

 彼女は「あ〜」と、嬉しそうな声を上げた。また僕に差し出す手にはさっきよりもっと小さな巻貝だった。それは巻貝の周りが削れ落ち、貝の芯だけが残ったような巻貝だった。

 それから彼女と弓なりの海岸線に沿って波打ち際を歩いた。

 集めた貝殻を海水で洗おうと彼女は波に近づいた。

 よせてはかえす波に跳ねる彼女。

 貝殻を見せようと振り返る彼女。

 そして、また足元の貝殻を拾う彼女。

 

 遊び疲れて、遊歩道のベンチに彼女と座る。

 集めた貝殻を見つめる彼女は小さく笑っていた。

 海が青から朱色に向かっている。

 ゆっくりとしたリズムが彼女から聞こえてきた。

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