第10話 魔女との邂逅(かいこう)

「楽しかったぁ」


 昼食を食べ終え、宿に帰る。


「ねぇ、明日はどうする?」


「ウル太郎たちと合流してから魔物と戦ってみるかな」


 パラキシアに着いた時にウル太郎たちを召喚して先に経験値集めに行ってもらっている。


「そういえば昼の魔物と戦うの初めてだな。テイムも試してみる…」


『テイムしたモンスター「ウルフ」が瀕死ひんし状態です』


 突然脳内に警告音とともにアナウンスが流れた。


「どうしたの?」


 なんだ、瀕死状態ってなにがあった。そんなに強い魔物が…?


「いや、まずは状況の確認だ。カルミア、ウルフの所に飛ばしてくれ」


「え、いいけど、私はどうするのよ」


 カルミアの召喚の弱点その一、自身の転送ができない。それが理由でパラキシアに馬車を使ったのだ。


「ごめん、走るなりしてきてくれ。ウルフが瀕死になったって連絡がきた。すぐに確認に行きたい」


「まったく、女の子に走らせるなんて。あとで服買ってもらうからね」


「…わかった」


 カルミアが手をこちらに向けると、足元が赤くかがやき、一瞬で瀕死のウルフの下へ移動する。


 そこには項垂うなだれたウルフと、そこから少し離れたところに…人がいた。


「あら、この子はあなたの子だったの。ごめんなさいねぇ」


 美しく腰まで届く白髪。黒いマントを羽織はおり、露出ろしゅつの多い黒い服装が豊満ほうまんな体を強調させている女性だ。


「だ、れですか」


 危険人物であることは間違いないが、正直どこを見ればいいかわからない。


「私?名乗るような名前はないけど、そうね。魔王様に仕える魔女、みたいなものかしらぁ」


 背筋に寒気が走った。


 人間が、魔王の手先?考えなかった訳ではないが、実際いるとは…それもこの威圧感。この辺りの夜の魔物よりも危ない気配がする。


「それで、今日はまたなんのご用で」


 必死に声が震えるのをこらえて、相手を刺激しないようにする。


「声の震えは抑えられてるけれど、体の震えが止まってないわよぉ。ふふ、可愛い子ねぇ。敵意と恐怖心に支配されそうなのに必死になってぇ」


「ほんとですよ。わかってるなら一刻も早く立ち去っていただけませんかね」


「まぁ、素直ねぇ。でも、それは出来ないわ。私はここで私の弟子の様子を見にきたのよぉ」


「弟子?」


「そう。でもここの門番さん、国に入れてくれないのぉ」


 そりゃそうだ。こんないかにもな奴が国を彷徨うろついていたら気が気じゃない。ナイス門番さん。


「だから、あなたを使っておびきださせてもらうわねぇ」


「…え」


 瞬間、冬志の体は空へ飛ばされていた。


「うわぁあああああ?!」


 雲より高い位置からの自由落下による高速紐ひもなしバンジー。地面に激突すれば当然死にいたる。


「危ない!」


 残り15m程に達した時、声とともに落下感がなくなり、全身に重力がのしかかる感覚がした。


 カルミアが直前で地面近くに転送してくれたのだ。


「あ、ありがとう。助かった」


「__師匠」


 カルミアが驚いた顔で黒衣の女をそう呼んだ。


「あらあらぁ、カルミアちゃん。よく来てくれたわねぇ。ありがとう」


「え、さっき言ってた弟子って、まさか」


 カルミアのことだ。


「カルミアちゃん、今日はあなたに会いに来たのよぉ。久しぶりだから、色々話したいことも…」


 直後、女の姿が消えた。


 先程女が冬志にしたことをそのまま返したようだ。


 しかし、


「危ないじゃないのぉ。師匠にそんな事しちゃいけないって、昔何度も教えたはずよねぇ」


 空間が黒くけ、女が何事もなかったように出てくる。


「自分を転送した…?」


 驚く冬志にカルミアが、


「あれは師匠…あの女の固有系スキルよ。自身を含むあらゆるものを指定した場所に転送する。でも、発動には少し時間がかかるし、範囲は自分から5m程度のものだけよ」


「あらあら、覚えていてくれてうれしいわぁ。でも、少しお仕置きしなきゃね」


 女の周りが広範囲に赤く輝き、ものすごい数の魔物が現れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る