魔王討伐までがチュートリアル

ちくわぶ太郎

1章 チュートリアル

第1話 異世界に招待されたので行ってみた

 9月の昼、遮光(しゃこう)カーテンを閉め切り真っ暗になった部屋で一人ゲームをしている男子高校生がいた。


「よし、もう少しで撃破だ...ん?」


 彼の名前は間宮冬志(まみやとうじ)。17歳にして廃ゲーマーとなった。現在4日目の徹夜中で、目の下には大きなクマができている。


 そんな彼のもとに一通のメールが届いた。


『あなたは勇者に選ばれ、城に招待されました。了承(りょうしょう)しますか?』


 文章の下に選択肢が出てきた。


「...なにこれ、フィッシングメールかよ。今時こんなのにかかる奴なんていないだろ」


 そう言い、冬志はメールを迷惑メールに登録した。しかし、またメールが届いた。


『あなたは勇者に選ばれ、城に招待されました。了承しますか?』


「いや、だからしないって。ていうかなんでメール送れるんだ。」


 不審に思いつつも、今度は『いいえ』を選択してみる。


 しかしまた届いた。嫌な予感がしたので仕方なくメールを無視し続ける。その間もメールは20秒間隔で届き続ける。メールの数が65件に到達した瞬間、


「うるさいわ!20分もピコピコとメール送りつけやがって!ゲームに集中できないんだよ!選択肢用意しておいて選択できないってどういうことだ!最初っから用意するなそんなもん!なんだ?『はい』押せばいいのか!はいどうぞ押しました!二度と送ってくるなよ!」


 限界が頂点に達し、とうとう『はい』を選択してしまった。


 すると、足元が赤く光りだした。眩しさに目をつむると、


「お主が勇者か」


 目の前に煌びやかな玉座とそこに座るいかにもな王様がこちらを見下ろしていた。周りには兵士が並んでいて、横を見ると白いフードを被った女性が息を切らして倒れていた。そして冬志は、ゲーミングチェアに座っていた。


「あぁ、その者がお主を召喚したのだ。このヘリコニア王国で最も優れている召喚士のはずだが、まさか60回ほども失敗するとは思わなかった。お主、名は何という」


 それを聞いて召喚のシステムに疑問を抱きつつ召喚士に同情の目を向け合掌する。


「あ、えっと、間宮冬志です。なんで俺が呼ばれたんですか」


 声が少しずつ小さくなっていった。それもそのはず。冬志が高校に通ったのは入学式までであり、人と話すのは2年ぶりなのである。


 しかしさすが王様。そんなことを気にせずこの世界で起こったことを話してくれる。


 ここは4つある王国の一つ、ヘリコニア王国。3日前、西の果てにある山の山頂に城と共に魔王が現れ、それに合わせるように魔物の出現が多くなった。各国は周辺の町村に騎士を派遣して魔物をなんとかしのいでいたが、このままではまずいと、勇者を呼び出したらしい。


「どうじゃ、勇者として魔王を討伐してくれんか」


 正直、嫌だ。俺は暗いところが好きだし、なるべくなら動きたくない。メールで承諾したとはいえ、いきなりこんな明るいところに連れ出されて少しイライラしている。どう答えるか考えていると、


「頭の中で『ステータス表示』と唱えてみよ」


 勝手に話が進んでいく。この世界の人は選べない選択をさせる趣味でもあるんだろうか。面倒くさくなってきたので言われたとおりに念じてみると、目の前に画面が現れた。ゲームとかでよくある『職業』の名前がずらりと並んでいる。


「その中から好きな職業を一つ選ぶのだ」


 言われるがままに職業を選ぶ。終盤以降は楽そうという理由で『テイマー』を選んだ。説明にテイムしたモンスターのスキルを使うこともできると書いてあった。その上、数に応じて獲得経験値が上がる機能付きだ。なぜか周りの騎士たちが少しざわついたが...


「トウジ殿(どの)、お主がこの世界を救うことを信じておるぞ」


 王様は気にしない素振りで続ける。


「二つ、確認してもいいですか?」


「...どうした」


 初めて会話が成立したかもしれない。


「僕は元の世界に帰りたいのですが、帰る方法はありますか?」


「言い伝えでは魔王の討伐によって勇者が光をまとい消えていったといわれている。おそらく元の世界に帰ったのだろう。それ以外は聞いたことがない」


 なるほど。まあ想定内だ。大事なのはもう一つの方。


「えっと、もしかして、がっかりしてませんか?」


 恐る恐る聞いてみ...うわ、あからさまに嫌な顔された。


「目のクマ、お世辞にも筋肉質とは言えない体つき。どう見てもはずれだなって思いましたよね」


 国王、何も答えない。


「僕は元の世界に帰りたいので、善処はしますけど...」


「ではトウジ殿(どの)、お主がこの世界を救うことを信じておるぞ」


 話の途中だし、都合が悪くなったら同じ言葉を繰り返すのやめてくれ。


「まずは町のギルドに行き、状態を整えてみるとよいだろう」


 ギルド...ゲームによくあるクエスト受けたりパーティ組んだりするところかな。最後にようやく投げやりながらもまともなヒントをもらい、騎士に連れられ追い出されるように城を後にした。


 ようやく一人になり、大きなため息をついた。


「めっちゃ緊張したぁ...途中から空気ピリピリしてたし、下手したら牢獄行きだったんじゃないか。なんか、定型文があるNPCと話してる気分だった...有無(うむ)を言わせないという固い意志を感じたなぁ。まあお金は貰えたし、とりあえず宿を探そう。太陽がまぶしすぎる」


 そう言い、一緒に転移されたゲーミングチェアを押しながら歩き始めた。


 こうして廃ゲーマーの異世界生活が始まった。

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