母親の愛人に虐待され続け、異父妹に婚約者を奪われそうになりました。

克全

第1話:虐待

「ギャフ」


 悔しい、こらえようとしても余りの痛みと衝撃で呻き声が出る。


「情けないですぞ、ブリジット様。

 この程度の剣も避けられないようでは、王家から辺境の護りを預かるファインズ辺境伯家の次期当主としては失格ですぞ」


 大した腕もなく、バカ女を誑かすしかない女たらしがよく言う。

 お前などは女子供を痛めつける程度しかできない卑怯者でしかない。

 真っ当な騎士が相手だと逃げるしかない腐れ外道でしょう。


「グッはっ」


「また何か余計な事を考えておられましたね、ブリジット様。

 そんな事では男と同じようには戦えませんぞ。

 女の身で騎士の資格をとり、辺境伯家の当主になろうとは、並大抵のことではないのですぞ、ブリジット様」


「そのよう事、お前などに言われなくても分かっておるわ」


「分かっているのなら、もう少し性根を入れて練習して欲しいモノですな。

 その程度の動きでは、とても本気とは思えませんぞ」


「師匠ヅラするな、私はお前などを剣術指南役とは認めていないぞ」


「おや、おや、おや、もう当主ヅラですか。

 残念ですがファインズ辺境伯家の当主はブリジット様ではないのです」


「そうだな、だがアドリーヌが当主でもない。

 今は王家が派遣したカーカム男爵殿が、大将軍格として辺境の護りと統治を代行されている。

 アドリーヌが勝手に雇ったお前の剣術指南役は取り消されたのだ」


「……どうやら、ブリジット様にはまだ鍛錬が不足しているようですな。

 もっと骨身に染みた鍛錬をしないと、母親から受けた愛が理解できないようです」


「何が母親から受けた愛だ。

 父上を裏切って女を誑かすしか能がない卑怯者を咥え込むような奴、母親でも何でもない、貴族夫人の誇りを持たない恥知らずだ」


「……今の言葉は次期御当主と言っても聞き捨てなりませんね。

 母親を悪し様に罵るのは家族の自由ですが、女を誑かすしかない卑怯者とは、私の事を言っているとしか思えませんね。

 まだ騎士の資格も手に入れていない未熟者に、正騎士の資格を持つ私が、いわれのない事で非難されて黙っている訳にはいきませんな。

 今この場で決闘を申し込ませていただきますぞ。

 くっくっくっくっ、口は禍の元ですな、ブリジット様」


 言い過ぎてしまったか。

 いや、だが、誰も証人がいない状態で私が騎士の名誉を傷つけたと言っても、カーカム男爵殿や王家が認める訳がない。

 もしかして、籠絡した家臣を偽りの証人に立てる気か。

 今までのように私を傷つけるだけではないのか。

 身体中に青あざを作り、骨を折り、未熟をあざ笑うだけではないのか。

 父上の敵も討てずにこんな所で死ぬのか?!

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