男子校に入学したはずなのに、旅先でロシア戦闘機に追われることになった件

「ふざけんなぁぁあ!」


 俺たちは追われていた。ロシアの国旗を付けた戦闘機に。


「レイナ!打ち返せ!ルナのレーザー借りてただろ!」


「もうエネルギー切れですわぁ!」


 全国の児童養護施設に、シオリさんが毎年クリスマスプレゼントを配っていたのだが、それを今年は忘れてしまったため、俺たちが手伝うことになった。


 ジェット機のエンジンとスカイダイビング用のスーツを合わせたようなバカの発想で作られた機体で。


 しかし、カオリがどこかへ飛んで行ってしまい、ヒカル先輩も同じことを繰り返してくれちゃったため、スーツの数が不足。俺とレイナが二人で行動することになった。


「何だって俺らがこんな国際問題真っただ中のデリケートな土地に足を運ばにゃならん!」


 最初はそんな文句を言う元気もあったものだが、今となっちゃそれもできない。戦闘機にターゲットを取られないようにぐるぐる回りながら飛ぶのが限界だ。


「おいレイナ、エネルギーの回復は!?」


「太陽光で15分ですわぁ!」


 15分もこれから逃げ続けるのか!?


 どうやら、逃げる方向の選択をミスったらしく、どんどん寒くなるうえに、着いてくる戦闘機は増え、地面だけが離れていく。


「空気が薄くなっている気がするが、呼吸は大丈夫だな!?」


「もちろんですわぁ!」


 すでに寒さで頬に薄く氷が張っているが、幸いにも俺もレイナもタフだからな。


「お姉様ぁ!いま一か所落としましたので、あと一か所ですわぁ!」


 高度1000メートルはくだらないであろうところからプレゼントを落とすレイナサタン……サンタは、もうそんなに配っていたらしい。


「あと一件か、飛ばすぞ!」


 ジュインッ!


 すぐ横を戦闘機が撃ってきた機関銃のようなものが通り過ぎる。普通相手を確認するだろ、とも思ったが、ジェットエンジンに括り付けられた子供たちが来たら、普通は撃ち落とすか。


「レイナ、急降下するぞ!」


「はいですわぁ!」


 そういって、操縦かんらしきものを一気に前に倒し、急降下する。


 体全体に強烈なGがかかり、くらくらしたせいで地面に激突しかけた。


「レイナ!そろそろ充電は終わるか?」


 俺が絵面的に自分の股間に向かって叫ぶというきみょい(奇妙でキモイ)ことをしていると、今度は対空砲火がエンジンをかすめる。


 飛んでるだけの子供相手にここまでやりますかロシアさんよ。


「お、お姉様ぁ?」


 どうやらGのせいでしばらくオチていたらしいレイナが目を覚ます。


「早く撃ち返してくれ!まったく、なんであいつらあんなに撃ってくるんだ?」


 アニメなんかで見るより断然速い機動飛行を繰り返し、グワングワンレイナと共に振り回される。


「たぶん、あれのせいですわぁ!」


 レイナが指を刺した先には、一機の戦闘機が飛んでいる。ペイントがいろいろ施されているので、おそらくエースか何かなのだろう。だが、よく目を凝らすと、他の物がある。


「レーザーの焦げ跡でハートマークを作ってあげたのが気に入らなかったみたいですわぁ。」


 俺は黙ってレイナからルナの髪飾りを奪うと、


「目的地上空です。航空案内を終了します。」


 と優しくアナウンスしたのち、プレゼントごとレイナを落としてあげた。


 さてと。じゃああとはここから逃げ出せたら勝ちってことだな。難易度高すぎるけど。


 ルナのレーザーをちょぴちょぴ使いつつ、逃げまくっていると、海に出た。やっとだ、やっと日本に……。


 そこで俺は気が付いた。今は朝。太陽があるのは右手側だ。


 俺の運命が狂い始めたあの日と同じ、方角ミスである。前からは編隊を組んでさらにいくつもの戦闘機が来ている。


 こんなの突破できるのアイアンマン位だろ。戦闘機数十機に囲まれてどうにかしろってどんなミッションだよ。


 クッソ、これから逃げ切ろうと思ったらアレを使うしかないのか……?でも、アレは使いたくないしなぁ……。


 そんなことを迷っている間にもどんどん前から迫ってきている……。


「あーもう!帰ったら絶対シオリさん訴えてやる!」


 鉄板なセリフを叫びつつアレのボタンを押す。アレの名はブースター。いわゆる戦争用の飛行機につける、エンジンの割り増しみたいなものだ。もちろん、長時間の使用はできないけど……。


 ウイーン!


 ジェットエンジンの横からさらにエンジンが生えてすごい勢いで回転を始める。こんな仕組みだったのかよ。


 前からくる戦闘機とすれ違おうとすると撃ってくるのは確実なので、体に強力なGがかかることは覚悟して思いっきり操縦かんを右に倒す。


 カオリのパンチで吹き飛ばされたぐらいの衝撃に頭がくらくらするが、さっきのレイナのように気絶したら、それこそ詰みだ。


「どいしょおぉ!」


 性能の高さだけは信用できるシオリさん製エンジンを全力でふかし、超高高度まで登り、追いかけてきていたほうの一群の上を抜ける。


 ひぃ!撃ってきた撃ってきた!俺じゃなくてレイナを追えよ!


 いつの間にか海上に出ていたが、よく見るとあれは……イージス艦じゃねえか!


 最近ニュースによく出るし、普段はニュースを見ないカオリも「こういうのと戦ってみたいよなぁ。」とかいうよくわかんないことを言いながら見ていたりするから覚えている。


 あれで撃ち落とそうってか。高1のガキ相手にキレすぎだろ。とおもったら、目の前から他にも何か来ている。まだ来るか!……ん?


「カヅキー!これ楽しいなぁ!」


 前から来ていたのは、前回寝ぼけて飛ばされたはずのカオリだ。


「これ!中国で豚まん買ってきたんだけど、要るか?」


 俺はツッコまん。ツッコまないからな。


「お前の後ろから来ているのってなんだ?戦闘機!?」


 俺が慌てて振り返ってきていた銃弾をかわすと、カオリはそれに気が付いたのか、


「実はドッグファイトってのやってみたかったんだよね!」


 といって、俺とすれ違いざまに一気に体当たりをして撃墜している。おみごと。


「じゃあどんどんいくぞー!」


 こういうときだけは暴力系幼馴染も便利だ。さっさと逃げさせてもらおう。





 で、どうしてこうなったのだろう。


「あなたは領空侵犯をしております。直ちにロシア側へとお帰りください!繰り返します!あなたは……。」


 俺がのんびり一人で飛行していたところ、今度は自衛隊に目をつけられてしまったようだ。俺の一人の時間ってどうしていつもこうなんだ?


 しかも、自衛隊は少数精鋭。ロシアの機体ですら振り切るのがいっぱいいっぱいだったのに、どうしろと?


 数時間後に偉人協会の舩坂さんという優しそうなおじさんに保護されるまで、俺はあほみたいなスピードで日本上空を飛ばし続けていたのだった。

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