男子校に入学したはずなのに、新キャラの異世界姫がヤバい件

 俺が目を覚ました時には既に空はオレンジだった。あれだけ疲れていたんだ、仕方もないだろう。これでまた出席日数はピンチになったわけだけど。


 保健室の先生は、寝疲れて寝ていた。子供かよ。


 起こすと面倒くさそうなので、毛布だけ掛けてやり保健室を後にする。部活に遅れて出席……今日は休みだったわ。


 ホッとして荷物を取りに教室に帰ると、普通に授業が続いていた。


「す、すみません遅れまし……た……?」


 人はいるのだが、みんな目を閉じて、寝ている。あー、はいはい。今度は超能力とか魔法とか系の厄介事か。


 こういう時は、ユミコかユウキを頼るのが正解だ。呪いの山にも対抗したユウキを起こして、その後にユミコを回収するとしよう。


「おいユウキ、起きろ!」


 ユウキを揺さぶると、思っていたより難儀したが目を覚ました。


「カジュキ……?えへへぇ。」


 こ、これは、呪いの山の時と同じ、なんかの作用だろうか。


「目を覚ませユウキ!今、何が起きているんだ!」


 こうやって言うとシリアスに聞こえるが、実際には寝静まった人に満ちた教室で、女同士がイチャついているというとんでもない絵である。


「これはユウキだからやるんだぞ、これでも食らえっ!」


 そう言って、ユウキにRTXの瓶の中身を丸ごとアーンしてあげる。


「!?!?!?」


 ユウキは目を白黒させながら正気に戻ってきた。


「か、カヅキ?何があったんでしたっけ?」


 辛さが原因では無いはずだが、記憶に混乱が見られるが、基本的には無事なようだ。


「分からない。みんなが謎の爆睡をしていて、俺が教室に大きな音で入った程度じゃ起きる気配はない。」


「催眠術だわ。さっき、ウチの制服を着た知らない人が教室に来た気がするもの。」


 なるほど、さっきのセレスとかいう異世界姫か。


「仕方ない、何とかしてみんなを起こしてもらおう。RTXが使えるのはユウキかカオリが限界だ。」


 しかも、カオリに使うと俺が攻撃を受ける。致命傷になりかねない以上、なるだけ避けたい。


「お師匠様を起こせば対抗してもらえるかもしれないわね。」


「ところであいつって何組だ?」


「カヅキが知っているんじゃないの?」


 二人して無駄な時間を過ごし、ようやくユミコを見つけるころには……って、まだ昼じゃねぇか。何が起きているのだろう。


「もーにん。」


 のそのそと、割と普通に起きたユミコが言ってきた。そして、状況の説明をしている途中でレイナ……いや、ユウリも走って来た。


「レイナが起きねえからな。今はうちだけで自動運転モードだぜ。」


 とか言ってる。そう考えると、勇者のパーティーみたくなってきた。ユウリは剣士、ユミコは魔法使い、ユウキは僧侶……いや、巫女とか尼とかいったほうがいいか。


 剣士の剣が柳刃包丁だったり、魔法使いが超能力者だったりするのはご愛嬌だが。


「旦那様はニート。」


 こら、OL向けエロ漫画の題名みたいな言い方をするんじゃない。


「もしくは遊び人ね。」


 ユミコに俺の思考を解説されたユウキまでそんなことを言う。ていうか、俺のプライバシーは?


「いや、メイドだろ。」


 ユウリが締めくくると、とりあえず俺らは歩き出す。


「気配、直上。」


 ユミコがつぶやく。どうやら、セレスは屋上で何かしているらしい。まさかだけど、この世界を征服しようとかじゃないだろうな。


 みんなを眠らせて、生気を吸い取って……どうしよう。


 屋上のドアは、普段はしまっているのに、レーザーで焼け焦げた跡のようなものが残っている。そういえば、教室にルナっていたっけ。


 屋上に突入すると、セレスが太陽に向かって両手を上げ、隣にはルナが横たわっていた。こいつは金星人だから、催眠術の影響が少なかったのだろう。


「またお客さんですか。今日は呼ばれたりこられたりと、忙しい日です。」


 後ろを向いたままのセレスがそうつぶやく。


「心の中の言語が不明……。」


 ユミコがつぶやく。そりゃそうだろ。異世界人なんだし。


「私の目的の邪魔をするなら、あなた方にもお眠りいただこうかしら。」


 今気が付いたが、魔法行使の影響か、セレスは全身に汗をびっしょりかいている。頬も上気し、少しなまめかしい。


「旦那様、お相手はあとで私がしたげるから。」


 ユミコがそう言い、それで何を考えているかユウキとユウリも察したらしい。


「カヅキってこういうところ本当に男子よね。」


「レイナもきっと混ざってくれると思うぞ。うちは嫌だけど。」


 こいつら……


「そ、それより、お前の目的はなんだ!世界征服か、それとも元の世界に戻るための莫大な力か!?」


 俺が話を元に戻して推理を尋ねると、セレスはしばらくきょとんとした後に、高らかに笑った。


「おーっほっほっほっ。あなた、面白いことを考えますね。そこの金髪の子も同じことを言って危ないことをしてきたから、眠ってもらいましたけど。」


 クソ、こいつの狙いが読めない。


「あなた方、何か勘違いをしているのではなくて?」


 セレスは高らかに語りだす。


「私はただ、この世界をよりよく変えようとしているだけなのですよ?」


 てことは、世界征服の方か。よりによって。少しでも口で説得したいが……。


「ユミコ、戦えるか。」


「旦那様のキスがあれば。」


 OK。戦えるのな。


「あなた方はこの世界は暑苦しすぎると思いませんか?感覚がイカれているとしか思えません。」


 セレスは続ける。王族特有の傲慢思考かよ。イカれているのはどっちだ。


「そんなことない!この世界にだっていいところもきちんとある!平和だし、なるだけ多くの人を幸せにしている!」


「あなたは何を言っていますの?この暑苦しい世界で平穏を求めようなど!」


「お前こそ何を言っている!こうなったら力づくでも止めさせてもらうぞ!」


「「待った。」」


 今まで静かにしていたユウキとユウリから突然待ったがかかる。


「なんだよ、今説得中なんだ。」


「超能力特大で準備中。」


「魔法の行使中なのよ?」


 俺ら三人が口々に言うと、二人は顔を見合わせて……。


「カヅキ、会話がかみ合っていない気がするんだが。」


「お師匠様も、超能力はいったんストップしてください。」


 こいつら、何か気が付いたのか?


「なあカヅキ、今おまえ、お姫様が何をしようとしていると思った?」


「え、世界征服。」


「お姫様……えっと、セレスさまでしたっけ?何について話しているつもりでした?」


「故郷より暑い気温ですけど?」


 ど、どういうことだ……?


「だから、要するに、この姫様がきた世界に比べて、うちらの世界は暑すぎるんだろ。」


「それで、魔法で少しでも涼しくしようとしていたんだと思うわ。」


「なんちゅう力技な……。」


 だが、これで空がオレンジな理由や、セレスが汗をかいていた理由も分かった。


「私の得意な魔法は光魔法。この星全体の地表に届く光を減衰させて涼しくしていたところですよ。」


 ほんとに力技だな。効果範囲地球全部かよ。


「えっと、一応、世界のバランスとかもありますし、お姫様用に浦和家と西園寺グループで避暑地に家とか用意させてもらいますから、今後はお控えくださいね?」


 ユウキが収束に走る。


「仕方ないですね。きちんとした家を建てるのですよ。」


 こうして、秋の訪れが一歩早まった。それと、午後の授業は無事出席できた。


 保健室の先生は謹慎を食らっていたところを見るに、本当にただ寝ていたらしいが。

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