男子校に入学したはずなのに、女子転校生に絡まれる件(二回目)

「もう夏休みも終わりかぁ。」


 廊下に立たせるなんて今どきはやらないでしょうに、といったら、リラにバケツまでプレゼントされた俺は、まだまだ暑い廊下でぼやく。


「ぢごくぢごくー!」


 音だけ聞くとなんとも物騒なことを叫びながら真っ赤な髪の小柄な女の子……そうだ、ここは女子校だから「子」は女しかいないのか……が走ってきた。


 長いツインテールは、上向きにはやさないと地面につきそうである。


「きゅ、給水所―!」


 俺の前で立ち止まると、右側のバケツの水を飲み干す。


 俺の抱いた感想は一つ。


「なんだ、こいつ……。」


「アイヤー!君、給水所じゃなくてアニメに出てきた『ローカに立たされる』ってやつアルね!」


 アルって……。それこそアニメに出てくる中国人じゃないんだからさ。


「アタイの名前はマーズっていうアル!かせ……中国からの留学生ヨ!」


「今火星って言ったよね?」


「言ってないアル。」


「まさかだけどアルってつければ中国人と勘違いさせられるなんて言う、頭悪すぎるカン違いとかしてない?」


 さすがに俺でもそこまで馬鹿じゃない。ルナという前例がいるし。


「ウチのクラス、すでに金星人いるけど。」


「お前バカなのカ?金星に人類なんているわけないアル。」


 じゃあお前はどうなんだ。


「アタイは立派な中国人アル!中国国籍はないケド……。」


 ないのかよ。


「じゃあどこの国籍なんだ?」


「ドミニカ国籍ヨ!」


 世界でもトップクラスに国籍とりやすい国じゃねえか。


「ちなみにどうやってとったんだ?」


「お金の力は偉大アル!」


 国籍買える国なんてあるのか。


「それで?火星から何しに来た?また男の殲滅とかか?」


「お前頭大丈夫アルか?ほかの星への侵略はマナー違反アル。」


 ルールじゃないのね。


「じゃあ何しに来たんだよ。」


 もう男を隠すのも面倒になるザルっぷりである。


「そりゃもちろん、地球の物資を根こそぎいただくためアル。」


 とんだ平和主義だが、俺にできることはない。宇宙人と戦うのはルナでこりごりである。


「アタイのパンチは岩をも砕くアル!アイヤー!いったァ!」


 そう言ってベニヤの壁を殴り、崩れ落ちる。そうか。火星は地球より重力がはるかに小さいから……。


「今日のところは出直すアル!鍛えてくるから、二年後に待ってるアル!」


 そう言って彼女は二度と現れることはなかった。火星の一年は地球の1.8年。高校生活は、三年で終わるのである。たぶん。






「お前、いつの間にバケツを空にした!」


 マーズが飲み干したために、俺のバケツが空になっているのを見つけたリラにめちゃくちゃ怒られた。


「飲み干しました。」


「それ、普段雑巾とか洗っているバケツだぞ?腹痛くないか?」


 まあ、飲み干したのは俺じゃない。


「……とりあえず保健室行っとけ。」


 こうして釈放された俺は、保健室のドアを開けると……。


「何やっているんですか。」


 重度の腐女子の保健室の先生が、床に絵をかいていた。もう今日はイベント多すぎて勘弁してほしいんだけど。


「サンタさんを呼ぼうと思って。」


 床に書いてあるのはいかにもな魔方陣。これじゃ呼ばれるのはサタンさんである。


「あれ?ちょっと、突っ込んでよ!」


「疲れてるんです。朝から、音楽だのバケツだの火星人だので。」


「精神科の救急ね。それなら早く言ってちょうだい。」


 この人にだけは言われたくない。……だけってわけでもないけど。


「それで?何しているんですか?」


 仕方がない。救急を本当に呼ばれても敵わないし、聞いてあげよう。


「これはね。最近はまっている異世界モノの腐を呼び出す装置なんだよ。」


「精神科の救急ですね。それなら早く言ってください。」


「これはガチだもん!」


 こうして、しばらく待っていると、魔方陣が書き終わり、光り出した。


「なんともお手軽ですね。」


「魔法の言葉とかを考えるのが面倒だったから、ご都合主義で通すのよ。」


「これはひどい……。」


 こうして、女の子が召喚された。ご都合主義なので詳細な説明は省くし、そんなのはここの読者は求めていないだろう。たぶん。


 簡単にだけ言うなら、白いシルクを着た美少女。名前はセレスらしい。光魔法とかつかえるらしい。男を二人召喚したつもりの先生は泣いていた。


「二行で説明終えたけど、これからどうするの?」


「なんか、慣れてますね……。とりあえず、今はまだあなた方を信用する気になれません。しばらくは単独で行動させていただきます。」


 こうして、保健室にある制服だけ着て彼女は去っていった。まあ、光魔法を使えるらしいし、大丈夫だろ。


「私は疲れたんで寝ます。」


 こうして俺は、しばしの休息をとった。

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