男子校に入学したはずなのに、夏休みの最後に地獄が待っていた件

 風邪……というか、超能力の副作用の熱も治り、残りの期間は部活に励んだり、みんなとカラオケに行ったり。仕方がないからアヤカさんとのバイトも続けたりと、いろいろなことをした。


「ああ、よきかな、夏休み最後の一日なり。」


「高校生の夏休みって感じだったよな。それにほら、宿題だって割とやってて楽しかったしさ。」


「そうだな。絵にかいたような、高校生の夏休みだった。」


 あとは、明日持って行くものをカバンに詰めたら、クーラーの効いた部屋で、アイスでもかじりながらカオリとゲームでもしよう。


「カヅキー、前回出番なかったから、差し入れ持ってきたぞー。」


 アオイがスイカを持ってきてくれた。それなら、アイスでなくこちらのがいいか。


「おうおう、俺も混ぜてくれ。」


 存在を長いこと忘れられていて、初登場なのになじんでいる、同じマンションのロックのおじさんも、夏なのにおでんを持ってやってきて、みんなでゲーム大会をはじめ……


「おいカオリ。」


「ん?なんだ?」


「最初、なんて言った?」


「いや、どうしてそんなことを。『高校生の夏休みって』……。」


「違うそっちじゃない。」


「『宿題だって割とやってて』……。」


「宿題なんてないだろ?」


「嫌だなカヅキ、あるに決まっているじゃないか。ホレ。」


 カオリが、ごそごそとカバンからプリントの山を取り出し、見せつけてくる。


「ア、アオイ。冗談だろ?」


「いや、あるよ。ほら。」


「ろ、ロックのおじさん……。」


「あるに決まっているだろ?」


 そ、そんな……。


「カヅキ。そこはロックのおじさんが持っていることを突っ込むところじゃ……。」


「悪い、アオイ、うるさい。今それどころじゃない。」


 自分の学生カバン。補習の時は別のカバンを使っていたので、夏休みが始まってから一度も明けてないそれの中を開けると、約ひと月洗い忘れたお弁当箱と、プリントの塊が出てきた。


 だが、バカのカオリでもすぐに解ける内容。それが補習でパワーアップした俺に溶けないわけがない!


「範囲は、新しい単元の予習だ。自分が知らないことを、一から探求するのって本当に楽しいな!」


 カオリの珍しく純粋な光を宿した瞳に反比例して、俺の心は汚く染まる。


「か、カオリ様?例えばですけど、俺が宿題やっている間、そのプリントを俺の前に置いておいていただくのは……。」


「何言ってるんだ?自分でやらなきゃ、意味がないしつまらないぞ?」


 珍しくこいつが至極まっとうなことを言っている。反論の余地が欠片もない。


「カヅキ、自分でやらなきゃ意味ないぞ。」


「そうだそうだ。」


 アオイとロックのおじさんにもそうたしなめられる。てかおっさん。あんた何もんだよ。


「仕方ない。見せるのはできないが、教えるのはやってやろう。」


 カオリが、何かグラフを書き始めた。


「これが、今から登校の時間までの円グラフだ。うちはこのスケジュールで教えてやろう。」


 といって、グラフの3分の1ほどを埋める。

 すると、カオリとロックのおじさんは、


「じゃあ、あたしはこっからここな。」


「俺はいつでも暇だ。なんせ、音楽家だからな。」


 というロックのおじさんはよくわからないことも言いながら、というかすべての音楽家に失礼なことを言いながら、円グラフを埋めてくれた。


「さあ、そうと決まれば特訓開始だ!」




「カオリ、そろそろ寝たいんだが。」


「まだ全体の20%しか終わってないぞ。それにそろそろ交代の時間だ。」


「次はウチか。」


 カオリが、隣で仮眠をとっていたアオイを起こす。


「ていうか、シオリさんが一番勉強とかできるんじゃ……。」


「お姉ちゃんなら金星に買い出し。」


 相変わらず全人類を置き去りにする人である。


「てか、カヅキ。それしか終わってないの!?言っとくけど、時間はもう33%過ぎてるんだぞ!?」


 人に八当たるつもりはないが、カオリの教え方がいまいちだった。


「そこを、チョイっとすると、ちょいちょいっとなって……。」


 それじゃわからん。


「仕方ない、一肌脱ぎますか。」






「アオイ、これでコーヒー20杯目なんだが。」


「まだ40%しか終わってないだろ!がんばれ!」


 ふらふらする頭で、プリントに、恐らく文字を書き込んでいく。半分ぐらい見えないが。


「って、もう交代の時間か。ロックのおじさん、起きてくれ。あなたが頼りなんだ。」


 そういってギターだかベースだかを抱えて寝ているロックのおじさんを叩き起こした。


「おう、俺の出番……って、これしか終わってねえのか。俺の本気、見せてやろう。」


 夜中なのにサングラスのおじさんは、両手の親指で自分を指し、ギターのチューニングを始める。不安になってきた。


「これ、終わりますんだよな?」


 おっと口が滑った。


「おう、もちろん。俺の手にかかればあっという間よ。」


 その指が、ギターにかかった。






「カヅキ、おはよー。」


「どう?終わった?」


 カオリとアオイが起きてきたとき、俺は……


「ヘイヘイヘーイ!みんな、乗ってるかーい!俺は!超!ノリノリだぜーい!」


 すべてを理解していた。宿題なんて単純なものに限らず、この世の全てをである。


 そんな俺が、何が起きたか説明しよう。時は、おじさんがロックを引き始めた直後にさかのぼる。






「おいおっさん。俺は今宿題がしたいんだ。邪魔をするなら帰ってくれ。」


「シャイだな、お前は。いいか、音楽を聴きながら作業することで集中が上がるっていうだろ。それなら、生演奏なら、もっと効率は上がるはずだ!」


 そんなわけないが、今は一刻でも惜しかったので、ロックのおじさんを放置して勉強を始めたときだった。


「わ、わかる、だとっ!?」


 さっきまでアオイの横でふらふら書いていた間違いをすべてさっと消し、新しい答えを書き込んでいく。


「これが、これが音楽の力なんだな、ロックのおじさん!」


「そうともさぁ!」


 あの問題も、この問題も、見た瞬間に答えが頭の中に出てくるのだ!何この感覚最高!


「これなら、間に合うッッッッ!」


「よっしゃぁ!」




「……というわけだ。」


「なるほどな。カヅキ。ちょっとプリント見せてみろ。」


 よくわからないが、怖いし黙ってカオリにプリントを差し出す。


「全部当たっているじゃないか。おかしいだろ。」


 まあ、自分が頭がいいとは思っていないし、ロック聞いただけで頭よくなるならみんなそうするけどさ。


「つまり……どういうことだ?」


「尺の都合で解決編は次回だ。」


 最近メタい話増えたよな。

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