男子校に入学したのに、夏休みの補習後に女子と合宿な件

「お金稼ぐのって大変だなぁ。」


 あっち向いてホイの要領で何とかレーザーをかわしきった俺は、家に着くなり倒れこむように寝た。そして次の日は補習最終日。


 身もふたもない言い方だが、どうせ俺の補習シーンを長く綴ってもだれも興味などないだろう。


 普通に先生に土下座し、普通に事故でスカートの中に潜り込み、指定暴力幼馴染や超能力者にぼこぼこにされたりしただけだ。


 数少ない普通の親友二名は、成績良好のため今日は補習免除だし、どっかのヤンデレイナさんはこの暑苦しい中すり寄ってきてくれたので、背中にカイロを張ってあげた。もちろん素肌に直で。


「じゃあお前らー。二学期からは普通に学校来いよぉ。」


 もう普通とはなにかはよくわからないが、普通の体育教師の号令で長い長いように感じた補習が終わった。


「そういえばシュガー、明日からの合宿、何もってく?」


「へっ?」


 慌ててスマホを取り出し、スケジュール表をチェックすると、「海合宿!各自好きなもの持ってこい!」と書いてあった。好きなものってなんだよ。


「まさかだけど、忘れたりしてないよね?」


「すみません、そのまさかです。」


「仕方ない、今からシュガーの家で準備するかぁ!」


 えぇ、これってそういう流れなの。






「なぁカヅキ。なんでうちらまで呼ばれているんだ?」


「いや、俺が知りたい。」


 結果、俺の家にはまたもいつものメンツがそろっていた。


「婚約者は同行が必要?」


 ユミコが首をかしげるが、そもそもお前、合宿の部屋割りが俺と一緒になっていたぞ。お前チア部じゃないだろ。


「西園寺ホテル。」


 はいはいわかった、金の力ね。


「それで、他のメンツは?」


「えっと、私はお師匠様と親友の同伴?」


「右に同じだな。」


「ほら、お前がいないと、うち料理できないし、幼馴染ってこういう時は一心同体だろ?」


「じゃあ同体の俺を殴るお前はドMなのかな。」


「ごるあぁ!」


 ベキベキベキッと背骨を「?」マーク上に曲げられるが、気にしてはいられない。合宿は明日からだ。


「お姉さまの身の回りの世話は妹の役目ですわぁ!」


 いや、違うから。


「こいつが行くなら自動的にうちもついていくことになるだろ。」


 はぁ。これみんなついてきちゃうのかぁ。


「じゃあ私は保護者役ね!」


 なんかノリノリのシオリさんまでいるし。


 ていうか、このメンツの泊りってロクな記憶がない。セバスチャンさん事件とか、カオリとの恐怖の混浴とか。


「みんなと行けるなんて嬉しいよ!たくさん踊ろうね!」


 一応やることはチアのようだ。






「今年はずいぶんと人数が多いな。」


 学校集合で、バスの出入り口で人数をチェックしていたボーイッシュ先輩がつぶやく。


「お客さん的な立場の人が多いからねぇ!」


「ヒカル先輩、それ、呼んだ本人が言います?」


 ちなみに、引率は一ノ瀬先生だ。


「マキちゃん!今日もメンタルはマンボウかい!?」


 俺の突っ込みをスルーしたヒカル先輩は、次に一ノ瀬先生のもとへと向かう。


「こら!先生ってつけなさいっていつも……。」


「いいじゃん!まだ若いんだし!」


「うう、そんなこと言われても……。」


 バッグから胃薬を取り出す姿は、見ていてかわいそうになる。


「こらヒカル、そろそろやめてやれよ。」


 ボーイッシュ先輩が止めに入る。相変わらず、この人の名まえは覚えられない。


「そういえば、今回、どこに泊まるんだっけ?」


 後ろからカオリが声をかけてきた。こいつのせいで三時間ほどリクライニングができないらしい。


「西園寺ホテル湘南。」


 カオリの隣に座る勇気あるユミコが行ってくる。前の方では先生がびくっと飛び跳ねた。もはや財閥の名まえにすらビビるのか。まあ確かに西園寺財閥は怖いけど。セバスチャンさんとか。


「でも、なんで湘南ですのぉ?」


 俺の隣……いや、上に座っているレイナがユミコに聞くと、前の席のヒカル先輩が振り返って、言った。


「ほら、湘南って、海水浴場で有名でしょ?そこで踊れば観客には困らないし、砂の上で踊ることで体幹も鍛えられるじゃん!」


 チアには一生懸命のヒカル先輩のことだから、何か考えはあるかと思っていたが、そんな内容だったとは。


「それに、汗をかいてもすぐに流せるだろう?」


 ヒカル先輩の隣のボーイッシュ先輩も言ってくる。なるほど……。


「ていうのは建前で、遊べるからっていうのも大きいんだけどね!」


 なぜか荷台からシオリさんの声が聞こえた気がしたが、気のせいだ。大事なことなのでもう一度言おう。気のせいだ。


 さて、同じチア部でもこの前の一件以来こちらをかけらも見ないルナは、他の同輩と楽しそうに話している。ちょっかい出すのは怖いからやーめた。


「そういえば、アオイはコスプレってするの?」


 おそらく何も知らないユウキが、通路の反対側で地雷を投下した。ルナの方から、なぜかこちらに殺気が漂ってくる。


「どうした突然。やったことはないが、楽しそうだし、少しあこがれるよなぁ。」


 急にルナの顔が明るくなり、メモ帳に何かを書き込んでいる。アオイに合う服でも考え付いたのか。もしやあれ自作だろうか。


「うーん、私はちょっとなあぁ。自分が神職に関係する仕事なのもあるけど、巫女さんのコスプレとか見るとちょっと思うところがあるのよね。」


 たしかに、そういうものかもしれない。ルナはこの世の終わりみたいな顔をしている。感情せわしないな。


 トンネルのようなところに入り、しばらくしたころ。


「えー、あと5分ほどで到着となります。今一度、お荷物等のご確認をお願い致します。」


 運転手さんの合図でみんながいそいそと動き出す。それにしても、長いトンネルだな。海に行くのにこんなに長いトンネルがあっていい物だろうか。


 そのまま、トンネルの中でバスは止まった。


「あれ?なんかあったのか?」


 隣りにいるレイナに聞くと、


「お姉様ぁ、西園寺ホテル湘南は海中にあるのですわぁ!」


 と教えてくれた。


 バスを降り、あたりを見回すと、水族館のチューブのような構造になっていた。


「みんな!海に来たからにはあれやるよ!?マキちゃん先生カメラよろしく!」


 ヒカル先輩が音頭を取り、みんなを横一列に並べると、


「せーのっ、海だー!!」


 と叫び、みんなもそれに合わせながらジャンプした。


 ……これ、普通砂浜でやるもんじゃないの?

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