男子校に入学したはずなのに、合宿の水着がビキニな件
身支度をしたら早速練習、ということで、バスで砂浜まで移動した。
「そういえば、口頭で伝えたけど、合宿中の水着に関しては、ビキニまたはそれに準ずること、皆覚えているよな?」
ボーイッシュ先輩がそういうと、一部の者はしぶしぶ、一部の者は大はしゃぎでそれに頷く。
喜び指数はスリーサイズと比例していた気もするが、気のせいだと思おう。
「むっつりスケベ?」
自身は何より身長の時点で足りていなさそうなユミコがこちらに殺気を送ってくる。女子苦手とはいえ目が行くのは本能です、許してください。
「お姉さまはどちらかというとこういうのが趣味ですわよねぇ?
なんかこれだと、うちまでヤバい奴に見えないか?」
レイナが着ているのは……なぜかスク水。しかも、名前とクラスがおなかにでかでかと書いてあるタイプの。ユウリは気乗りしないらしいが。
「おまえそれ、サイズ感おかしくね?」
普段から嫌というほど抱き着かれているのでうすうす気が付いていたが、こいつ、着やせするタイプなんだな……。
「カヅキ、待たせたな!」
一方、海水浴場における場違い二人目。カオリの競泳水着である。しかも今は禁止されているサメ肌の。なんでそんなの持ってるの。
「カヅキ……似合っているか?」
「アオイはもう少し自分に自信を持ってもいいと思うわよ。」
そう言いながらでてきたのはアオイとユウキ。ここ二人は最近いつも二人でつるんでいる気がして、若干疎外感があるが、それでもやはり大事な親友だ。
アオイは黄色くてレースの付いたビキニ。なんやかんやと真面目なこいつは先輩の言葉をきちんと守っていたらしい。というか、いつそんな連絡されたっけ。
ユウキは無地で赤の、同じくビキニ。ちょっと俺には刺激が強すぎるので、おかげで着替えられない。
「それで、カヅキはどうするの?」
ごにょごにょとユウキが気を使ってくれる。それもそのはず。さすがに、他のチア部の人がいる以上、海パンというわけにはいかない。が。
「実は、ウチにブーメランパンツしかなかった。」
諦め半分に告白すると、カオリが吹きそうな顔をしている。ていうか、本当にこれどうしよう。
「これを使いなさい。」
そういって、銀色のウエットスーツのようなものを差し出してきたのはルナだ。コスプレの一件以来、若干ぎくしゃくしていたので、まさか声をかけられると思ってもいなかった俺は驚いてそちらを見る。
「これ、装着者の意思を読み取って、光学的に姿を変えるの。これなら、あんたが……その、男だってバレないでしょ。」
そう言って渡してきたルナは……俗にいう、白スク水だった。今日日、そんなもんそっち方面の女優ぐらいしか着ないっつーの。
「おまえ、絶対水に入るなよ?」
「嫌よ。金星には水なんてないのよ?」
あとで起こる大惨事は予想できたので、こいつのレーザーの犠牲者のための線香でも買っておこうか。
まあ、文句を言うのもあれだし、素直にコルセットの上から銀色のウエットスーツを着込む。
「これであとは、こんなイメージで……。」
最近見させられた女子……広島でのカオリの体をイメージして……。
「こんな感じでどうだ?」
我ながらうまくイメージをできたと思ったが、なぜだろう、周りの目が冷たい。
「お姉さまぁ、それはさすがに……。」
「チャレンジャー。」
「私は何も見ていないわよ?」
「今すぐ逃げることをお勧めするぜ……。」
みんなが口々に言う。なぜだろうか。カオリの方から殺気の塊のようなものが……。
ゴシャァ!バスの天井に頭をめり込まされた。
「貴様……なぜ、どうしてうちの体で、しかも全裸なんだ……。」
「葬式のとき、宗派はある?」
ユミコの声をゴングに、俺はカオリ……だけに限らず、様々な女子からボコボコにされた。
「さすがにお姉様でも、さっきのは味方する余地がありませんわぁ。」
いち早く機嫌を直してくれたのはレイナだが、なんかこれ、自分に都合のいい女子を見定めているみたいで、自分が悪い男な気がしてきた。
「やっぱ、むっつりスケベ。」
ユミコでさえも、さすがにまだ引いているようだ。そして否定できん。
「まあ、何となくわかっていたけどなぁ。」
ユウリはまだ怒っているようだが、レイナに体を引きずられているようだ。
ちなみに、さきほどスマホを覗いたところ、「これ着て今度、デート行こう?」というアヤカさんからの謎の水着写メが送られてきていたのでそれをイメージした。
というかあの人と俺、連絡先交換したっけ?
「そういえば先輩、なんでビキニなんですか?」
陰で着替えていたので、みんなと合流し、集合したとき、同輩の一人がヒカル先輩とボーイッシュ先輩に尋ねた。
「なんかね、ビキニの方がお客さんからの評価がいいらしいよ!」
無邪気に笑うピンクのビキニを着たヒカル先輩は……でかい。一言で言ってでかい。
「要反省。」
そういってユミコに超能力で首を絞められる程度には見てしまった。というかこの威力、首折れません?
「まあ、それも実は建前で、うちって女子校だろ?年度によっては彼氏ができないことを焦る人がいるらしくて、ナンパされるためにこうしたらしい。まあ、長続きしないらしいが。」
ボーイッシュ先輩はそう解説した後に、ぼそっと、「まあ、私もそろそろ彼氏の一人ぐらい……。」とつぶやいている気もした。気のせいだとは思うが。
「先輩に彼氏なんて、私、認めませんから!彼女ならありです!」
質問した女子が返す。あれか、今や見慣れたお姉さまがどうのとかいう奴か。
「ほらー、そろそろ練習始めるよー。」
こうして俺たちと、なぜか来ているいつものメンツ、絶対に水着にならなかった一ノ瀬先生のみんなは踊りまくった。
「もう無理、動けない……。」
「砂浜での運動がこんなにきついとは……。」
夕方。
初日にもかかわらず、あちこちでうめき声が聞こえる。ぴんぴんしているのは、カオリと先輩たちだけ。ユウキ、ユミコ、レイナの普段運動しない組は疲れて寝ちゃってるよ。
以外にも体力のあった一ノ瀬先生はカオリと三人をバスまで運んでいる。
「カヅキ、ちょっと歩こうぜ。」
アオイとカオリのそっくりコンビが手招きをしている。
記憶にある中では初めて見た江ノ島と、奥には富士山も見える。
「いやー、疲れた疲れた。」
アオイがぼやく。
「明日もまだあるんだから、今日は早く寝ようぜ。」
そんな、運動後の気持ちいい疲労感と達成感のもと、砂浜をふらふら歩いているときだった。
「おねーさんたち、今暇!?」
「ちょっと、俺たちと遊ばない?」
夏の砂浜の定番、ナンパ男Aが現れた。ナンパ男Bも現れた。まだセリフのないナンパ男Cも現れた。ていうか、こういうのって普通昼に起こるイベントじゃないの?
というか、いくら科学の力でごまかしているとはいえ、一人男だって気が付こうよ。ナンパするなら。
「わりーな、今ちょっと急ぎなんだ。」
アオイがそう言ってもめごとなく帰ろうとすると、ナンパ男Cが、
「そういうなって。少しだけさ!」
そう言って、カオリの腕をつかんだのが失敗だった。
「放せっ!」
そう言って、ナンパ男Cの顔を殴ってしまったのだ。
「貴様ら、よくも!」
Aがナイフを、Bはスタンガンを取り出し、カオリに襲い掛かる。
「危ないっ!」
俺は叫んだ。
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