男子校に入学したはずなのに、急に○○に行くことになった件

「ごめんねカヅキ。あなたとは、いい友達だと思っていたわ。」


 悲しそうな目で言うルナが、俺にレーザーを撃とうとしたときだった。


 バタンっ!


 レーザーが発射される直前、保健室のドアが開く。そこには、ユウリとシオリさんが立っていた。シオリさんは、何かを手に抱えている。


「えっ、ヤバっ!」


 それを見たルナは、急に下を向き、地面にレーザーで穴を開けた。


 シュー、と縦長の穴が地面奥深くにまである。これ何メートルあるんだよ。


「カヅキ、トイレ。」


 ドアの影に隠れていたらしいユミコが俺にそう告げ、俺はトイレにダッシュした。


 トイレから戻ると、ルナは、髪飾りをとり、両手を上げていた。


「抵抗なんて無様なことはしないわよ。」


 すると、シオリさんが口を開く。


「君は何かを勘違いしていない?私がしようとしたのは、ユウリちゃんの体を通り抜けさせることで量子的に減衰したレーザーで君の髪飾りを破壊することだけだよ?」


 なるほど、手に抱えていたのはそのための盾みたいなものか。ユウリが幽霊であることを利用すれば、確かに出来るかもしれない。


「私のレーザーは幽霊にもダメージがあるわ。万が一にでも女を殺したら私が捕まっていたのよ。気をつけなさい。」


 ユミコがいそいそとその両手を縛っている間にも高圧的に言い放った。全く、お行儀の悪いことだ。というかコイツ、実は結構優しいのな。


「カヅキ、ここはもう私の負けよ。本当は捕まった時点で死なないといけないんだけど、あなたが私を殺しなさい。」


 いや殺さねぇよ。


「うん。」


 ユミコも頷いている。その後、すまきにしたルナで遊んでいる。


「くっ、転がすなら転がせ!」


「だが断る。」


 なんか一気に張り詰めた空気が和らいだな。ユミコのおかげだ。


 すると、シオリさんが口を開いた。


「ねーねー、私が作った未来予知マシンはそれとはちょーっと違う予定らしいんだけど。」


 またなんか厄介そうだな。


「お前らもそう思うだろ?」


 ユウリがそう言って頭だけ天井に突っ込むと、天井の上でドタドタっと音がしてみんなが落ちてきた。俺の真上に。


 このいつものメンツはなぜいつも俺が気がつくと近くにいるのだろうか。それとユウリさん?さっき天井の方行った時気がついたけど、あなたストッキングとか履いてないの?


「でも、どうやってそんな無茶なこと確かめるのですか?」


 相変わらずユウキが話を進行してくれる。それにしても、こないだの洞窟の1件以降、こいつの言った「だぁいしゅき」が頭から離れん。アオイもそうだが、なんか最近は2人ともより一層可愛くなっている気がする。保健室の先生には内緒で胃薬を貰おう。


「簡単な話さ!宇宙に行くんだよ!」


 シオリさんがいつものテンションでとんでもないことをぶち上げる。ぜひ、簡単の意味を辞書で引いておいていただきたい。


「はい、宇宙戦艦トマト!」


 その耐久性に非常に不安が残る名前だ。次にシオリさんはカオリの手を取ってトマトをひとつ握らせた。


「カオリちゃん、握力はいくつ?」


 カオリの握力って聞いたことがない。以前聞いたら、


「女子に数字を聞くんじゃない!」


 と言ってこれまたぶん殴られたが、そもそも恥ずかしい握力を出さないで欲しい。


「大体、30ぐらいです………。」


 と思っていたら、なんだ普通じゃないか。というかシオリさんには普通に答えるのな。試しに、保健室の冷蔵庫の中に先生がこっそり入れているリンゴを投げて渡す。


 パシャァッ!


 カオリが持った途端、粉も残らない迄に粉砕されたんだけど。リンゴがジュースじゃなくてミストになってるじゃん。


「大体、30トンです……。」


 どうやって計測したんだろうね。


「じゃあ、この宇宙船の模型を握ってみて。」


 シオリさんがトマトを渡す。どう見てもトマトだ。


「ふんっ!うぎゃぁぁぁぁああああ!」


「と、このように強い衝撃からは自分で身を守るような宇宙船なの。相手の返り血で赤く染まるからトマトよ!」


 そんな天使みたいな微笑みで悪魔みたいなことを言われましても。


「ぶっ殺す!」


 相変わらず、カオリが幼なじみ系ヒロインが言っちゃいけないことを言って地面にトマトを叩きつける。すると、勝手に回転がかかり、カオリの顔面に向かって倍速ではね返る。カオリは目を回して後ろに倒れた。


「怖いですわぁ。ワタクシこんなもの乗りたくありませんわぁ。」


 あなたも人のこと怖いとは言えませんよ?普段からゾンビみたいなことばかりしてるし。


「あなたたち、そんなふざけたもので金星に乗り込むつもりなの?宇宙戦争になるわよ!?」


 ルナがガチ焦りしている。だが、たぶん大丈夫な気がする。


「シュガー、もう部活始まってうわきゃぁっ!」


 驚いたヒカル先輩が腰を抜かしいる。落ち着いてください。とはいえ、保健室がいっぱいで、恩人が縛られていたうえにカオリが血だらけで倒れていたら普通そうなるか。


「えっと、これは何事?」


 すいませんヒカル先輩。俺も知りたいっす。


「ともあれ、行くか、宇宙!」


 もうどうでもいいや。


 シオリさんの研究室からどうやってロケットを飛ばすのかと思ったら、まず手動で庭で組み立てるらしい。すみませんね、マンションのみなさん。


 飛ばすのは巨大パチンコを使うんだとか。なんというかここにきて技術が大暴落してないか?


「さあみんな乗り込んで!」


 ヒカル先輩が楽しそうにはしゃいでいる。でも作ったのあなたじゃないですよね?


 みんなが乗り込むと、最後にユミコが内側から、どう見ても木製のドアを閉め、シオリさんに役割分担でお願いされたユウキがスイッチを押す。カオリとレイナはもう飯を食うらしい。気が早いわ。


 1週間の旅と聞いていたが、特に何も無かった。いや、宇宙のキレイさとかをなんとかして感想に残したかったが、誠に遺憾ながら窓が無かった。


 シオリさんのスーパー技術で、トマトの中には重力があったし、外の様子は全部モニターで観察。プラネタリウムクオリティだ。


 普通の船に乗っているよりも退屈な宇宙旅行だった。そうとしか言いようがない。もちろん、このメンツでいるからには楽しくはあったが、宇宙にきている実感はゼロだった。


 金星に着くと、宇宙服的なものを渡された。金星の大気は人類に猛毒らしい。シラフで外に出られるのは金星人のルナとシオリさんぐらいだろう。なにこのチートキャラ陣。


 ルナが髪飾りを使って何かを合図すると、地面にドアのようなものが浮きでて、まぁ出るわ出るわ。


 わらわらわらと金星人が出てきて、ルナと何か話している。そこにシオリさんも乱入して金星語(?)を喋り始めた。比較的規則的な言語だから、1週間あれば余裕と言っていたのは本当だったらしい。本当に天才だったんだな。


「交渉終わったよー!もうこれでカヅキが殺されることもなさそう!」


 なんというラフ度。ていうかこれ往復二週間かけてついてきた意味ありました?


「じゃあ帰るよー!」


 なんだろうこのとんとん拍子具合は。絶対に何かろくでもないことが起こる前触れじゃないか。高校入学から始まった俺の不運度数からして、絶対に何か起こる。今度はカオリに告られるとか?


 いや、さすがにないだろう。もしくは、またユミコかレイナに襲われる?それならいつもそれに近いし……。最近の俺はモテ期が来ているのか、なんか反動で起こりそうである。


 ドキドキしながらも着陸するが、シオリさんの計画通り、場所は無事家の前。衝撃波も想定内。しいて言うなら同じマンションでいつもロックばかり引いているおじさんがびっくりして出てきたぐらいだ。ちなみにこの人の収入源は謎。


 その日寝るときも特にカオリとの要自主規制なトラブルもなく、普通に寝るだけ。


 本当に俺の思い違いなのだろうか。


 次の日、朝起きて、普通に女装して普通に学校に行く。何も問題ない。と、廊下を歩いているときに、声をかけられた。


「さ、佐藤さん!」


 また女の声だ。女難の相でもあるのかしら。ここは女子校だし、女子のが圧倒的に多いのは当然だけどさ。


「はい。」


 生徒だと思って振り返ると、後ろにいたのはマンボウメンタル先生こと、ウチのクラスの担任、一ノ瀬マキ先生だった。


「伝えなくてはいけないことがあるんです。放課後に、私のところまで来てはもらえませんか。」


 ……マジですか。


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