【幕間】お兄ちゃんが、男子校に入学したはずなのに知り合いに女子が多い気がする件
今日は久しぶりにお兄ちゃんの家に遊びに来た。とはいえど幼馴染のカオリさんと一緒らしいが。ウチの妖怪ミンチ女も何を考えているのだろう。お兄ちゃんの貞操が危ないではないか。
本人はばれていないつもりらしいし、お兄ちゃんも多分気が付いていないが、カオリさんがお兄ちゃんのことを好きなのはバレバレだ。
カオリさんははっきり言ってクソ強い。ミンチ女と戦わせてみたい。
「おにいちゃーん、遊びに来たよー。」
かわいい妹が遊びに来てやったのだ。いくらこのおんぼろマンションでも、もてなしぐらいは盛大にするべきだろう。泣いて喜べ、ひざまずけ、ってやつだ。
……出ない。
立派に居留守でも使っているのかとも思ったが、どんなに押しても出ない。仕方がないから、ドアをこじ開けてやろう。
かっこいいので、百均で見つけた「スパイなりきりセット」を取り出し、鍵穴に突っ込んでみる。ドラマではこういうのを回したり押したりしていた。
……やばい、抜けない。
「ま、まぁ、これだけじゃ誰がやったかわからないでしょう。」
指紋を消すため、ぺっぺっと唾をつけてごしごし拭く。これで良し。
「あれ、カヅキの家に何か用でもあるのか、お嬢ちゃん?」
振り返ると、胸があった。違った。少し見上げると金髪の女の人だ。確か、お兄ちゃんの学校を覗きに行ったときにアオイと呼んでいた気がする。近くで見てもこんなに美化されて表示するのは、ひとえに自分の脳みその優秀さなのだろう。
「えーっと、私はカヅキお兄ちゃんの妹ですが。あなたはどちら様でしょうか?」
そう。あくまでも初対面であることを意識して話す。
「んえ?えーっと、クラスメイト的ななにか……かな?」
「そうですか!てっきりお兄ちゃんの現地夫かと思いました!」
「待って、色々誤解してない?」
どうもこの人は、女装をすることでお兄ちゃんに取り入ったらしい。女嫌いのお兄ちゃんを落とすには、最善手だったのだろう。
「それで、妹ちゃんはどうしてこんな所に?」
「お兄ちゃんに久しぶりに会おうかと思って。」
「あー、カヅキなら今はお墓かなぁ。たぶん、しばらく待つぞ。」
え、お墓!?お兄ちゃん死んじゃったの!?
「な、なんで涙目になってるんだよ。ほら、カヅキの家なら、たぶん姉さんかカオリがいるから、入ってようぜ?」
待った。今、姉さんと言いました?カヅキお兄ちゃん、何人の女子(女装男子)を囲っているのだろう。
「カオリー入るよー。」
「おう、いらっしゃーい……って、ユイちゃんじゃないか。久しぶりだなぁ!元気にしてたか?」
「ご無沙汰しています。お久しぶりです。」
さらに奥から女の気配がする気がする。この家はどうなっているのよ。
「お手洗い借りてもいいですか?」
「もちろんだよ。廊下の途中を左に曲がるんだぞ。」
トイレのドアを開けると、中には大穴が広がっていた。
「キャッ!」
慌てて飛び退くと、後ろに案内として着いてきてくれていたアオイさんが柔らかな胸クッションで受け止めてくれる。カオリさんだとこうはいかなかっただろう。
「大丈夫か!?また姉さんだな……。」
どうも、この人のお姉さんは少々いかれクレイジー野郎のようだ。女子なら野郎じゃなくて女郎か?いや、それとも野女か?
「大丈夫です。一体これは……?」
「あー、これはうちの姉さんが作ったものでだな……。」
ズッダァン!
開けっ放しのドアの目の前に、急にトイレがあらわれた。中には、胸周りから何から、アオイさんを全て大きくしたような人と、逆に紫の髪でちんまい人が入っていた。恐らくサイズは私と同じぐらい。
「ちんまくない。」
あれ?声に出てただろうか。最近じゃ犬を被るのも上手くなったと思うんだけどなぁ。
「アオイ、余計なお世話。」
唐突に話したちんまい人は今度はアオイさんに何か言っている。
「私は超能力者。」
また面倒くさそうなのが……。なんてやつだ。
「名前はユミコ。あなたはユイ。」
1発で名前まで当てられてるし。
まあ、猫も歩けば棒に当たるって言うし、こういうことなのかもしれない。
「お姉様はどこですのぉ!」
ドアを開けて、赤い髪の人が入ってきた。また女の人だ。
「最近じゃお姉様と会えてないですわぁ、お姉様ニウムを補充しなければワタクシは死んでしまいますわぁ!」
なんだろうその世にも危なくなさそうな放射性物質は。
「えっと、こちらの方はどちら様ですか?」
私がアオイさんに聞くと、赤髪の女の人は即座に答えてきた。
「お姉様の愛人ですわぁ!」
そこで、お姉様と言うのが自分の兄が女装した姿でないか、という発想に至った。まあ、発想というよりもただの勘だが。
「待って、そのお姉様って、もしかして私のお兄ちゃんじゃ……。」
「いぐざくとりぃ」
ユミコさんが無表情で言い放つ。うん。帰ろう。
ドアを開けると、またも女の人だ。
「あれー?シュガーがちっこくなった!もしかして、シオリさんがまた何かやらかした?」
急に胸で鼻と口を絞め殺してくる。
「今回は私じゃない!その子はカヅキちゃんの妹!」
お兄ちゃんがちゃん呼びでカヅキちゃんになっててちゃんとしてない……そろそろ脳みそのキャパオーバーだ。
「もう私帰りますんで!」
そう言って窓から飛び出す。一階でよかった。外にはなぜか男物の下着がなかったが、気にしたら負けである。
「お兄ちゃんの悪女ぉー!」
力いっぱい叫んで、さっさと帰ることにする。
駅まで泣きながら走り、前から来た人にぶつかってしまう。
「キャッ!」
その人は、カフェの時のお姉様だった。
「うっ、ううっ。」
とりあえず、と案内された喫茶店で、お兄ちゃんが女を囲いまくっていること、それが悲しいことを話してしまう。
お姉様は私の相談があまりにも長くて迷惑だったのか、終始困った顔をさせてしまっていた。
「私、決めました。屑ゴミうんこなお兄ちゃんの学校なんかより、お姉様の学校を目指します!」
お姉様はボソッと、同じがどうのこうの、と言ったが、よく聞き取れなかった。
「まあ、何かを目指すのはいい事よ。頑張ってね。」
無理して作ったみたいな女喋りも、私をおちつけるためのものだろう。さすがお姉様。気遣いの神だ。
「そういえば、御名前を聞いても良いですか!」
私がそう言うと、お姉様は少し困った顔をしてお答えになった。
「キカヅ、よ。」
なるほど、お姉様の御名を聞くのはまだ早い、未だキカヅにいろ、ということか。
「わかりました!もっと精進します!」
私は、注文していたケーキを片っ端から食べ尽くすと、敬礼して駅から帰った。
また何かを忘れている気がする。なんだろう。
今回は、忘れるとのちのち大変なもの、そんなものである気がする。学校なんて目じゃないようなものだ。
えーっと、そうだなあ。切手は買ったし、お財布はそもそも交通費しかないし、頼んだケーキはメニュー全部分だったけど、全部食べ切ったし……。
あ、お会計!
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