男子校に入学したはずなのに、○○と遊園地を楽しむ件②

「うふふっうふふふふっ!」


 ここはお化け屋敷……の、そとだ。決して中に入ったりなどしていないし、ましてや中に先客がいたり、音が漏れたりしてきている訳では無い。


 たしかに知り合いに幽霊はいるが、それよりもはるかに怖いのだ。


「おにゅえ様とデートですわぁ、うふふふっ!」


 レイナである。この笑い方すっげぇ怖いからぜひやめて欲しいんだけど、本人に言ってもあまり効果がなかった。


「なぁ、普通にお兄様じゃダメなのか?何度も言うけどさ。」


「ダメですわぁ!本来であればお姉様はいついかなる時もお姉様ですわぁ。でも、お姉様の特例により特別におにゅえ様まで譲歩しているんですものぉ。」


「じゃあもういいや、なんでも。」


 それにしても、こいつ普段幽霊と生活しているくせに、遊園地のお化け屋敷程度で楽しめるんだろうか。


「なぁ、お化け屋敷、ここじゃなきゃダメ?嫌な予感しかしないんだけど。」


 「恐怖!監獄廃墟病院学園の館」とか、絶対に作ったやつ頭悪いだろって感じのチンケなお化け屋敷だが、それでもここはTDL。さっきのジェットコースターのように、何が出てくるか分からない。


「そ、そんなに楽しみたいなら、外観を楽しむってのはどうだ?」


「そんなの、最初にやるに決まってますわぁ。」


 そう言って2人で外壁の周りを歩き始める。レイナが手を繋いできたが、それぐらいは許してやろう。この手を絡めるの、なんて言ったっけ。


 ……って、まるで本当にデートしているカップルじゃないか。こいつの手は柔らかくてもちっとしてて、手だけでもなんとも言えない可愛らしさに溢れている。


「レイナ……?」


「どうしましたぁ?」


「い、いや。なんでもないっ!」


 落ち着け、今俺はハグしていいか聞きそうになっていた。危ない危ない。でも、こいつならお願いすればそれぐらいいくらでも聞いてくれるんじゃないか……?いや、落ち着け、俺!


 ヒヤヒヤしながら、ようやく半周、お化け屋敷の周りをまわる。レイナから意識をそらせるためにお化け屋敷を見ると、あることに気がつく。


「なぁレイナ。最初からここまで、お化け屋敷の出口って見たか?」


「見てないですわぁ。だってここは出口のないお化け屋敷ですものぉ。いつもはとっても混んでて入れないんですわぁ。」


 そういえばこいつはTDL上級者だったか。こいつでも入ったことないってことは、余程人気のアトラクションなんだろう。


「でもここ、すごく不思議なんですわぁ。ここの周りが混んでくると、いつの間にか開いていて、気がつくと、いつの間にか行列が消えて閉まっているんですわぁ。」


 怖すぎだろそのお化け屋敷。というか、なんでこんなに危ないところなんだろう、と思ったら「東京デンジャラスランド」なんだから、仕方ないか。一応、反対側を歩いて回ってはみたものの、結局出口はなかった。


「まぁ、地下とかから出口がどこかに繋がっているんだろう。」


「地下にも出口なんてありませんわぁ。」


 もういやだ、この遊園地。ユミコは何に5億も払ったんだろう。お土産?


「見てくださいですのお姉様!箒ですわぁ!」


 何かと思ったらレイナが輪ゴムであやとりして作った箒だった。手先器用だな。


「お姉様ぁ、いい加減行きますわぁ。」


 早くお化け屋敷に行きたくなったらしいレイナがずんずん突き進んでいく。俺を巻き込むな俺を。





 レイナに連れられるままに中に入っていくと、中は普通のお化け屋敷だった。少し古いろくろ首が若干の機械音を感じさせながら動いてたり、近づくと飛び出すゾンビやらキョンシーやらから逃げたり。


 強いて言うなら、スタッフが居ないことがネックだが、けが人の管理とかはどうしているんだろう。あと、いかにもメイクなそこら辺の赤い血糊はいいけど、端っこの赤黒いシミは何?そっちの方が明らかに怖いんですけど。


 こうして、長い長い1階が終わった。


 2階に上がると、今度は廃墟のようになっていた。名前の由来は分かるが、コンセプトぐらい統一すればよかったのに。何故わざわざごちゃ混ぜにしようと思ったんだろう。


 3階では、病院のような学校のような、そのふたつを足して二で割ったような微妙な空間だった。なんで病院と学園をまとめちゃったかなぁ。せめて、廃墟と病院をまとめればいいのに。


 お化け屋敷と言うよりもなんかの宗教のような空間でそれでもレイナは一々機械にびっくりしては


「お姉様ぁ!」


 と言いながら抱きついてくる。


 当たってる!当たってるから!何がとは言えませんけど!





 それにしても、ここは本当にスタッフが演じているお化けがないなぁ。せめてそっちの方がリアリティが出て面白いと思うんだが、コストの問題とかかね。


 4階は、外観で見て何となく察していたが、少し狭い。もちろんコンセプトは館だ。


「なあ、レイナ?」


「どうしましたぁ?」


「俺、歩きながらここの地図を頭の中で作っていたんだけどさ。」


 もちろんハッタリだ。俺はそんなに頭が良くない。


「この建物、出入口なくね?」


 こっちは事実だ。広さ的には、相当細いエレベーターでもない限り出られないだろう。こうしている間にも、最上階の中心はどんどん迫ってくる。中心には何があるんだろう。これで最後の行き止まりでミンチとかにされたらたまったもんじゃない。


 中心のドアはいかにも館な感じだったが、謎の雰囲気が漂ってくる。嫌だなぁ。


「おいレイナ。俺が開けて先にはいるから、後ろから入ってこいよ。」


 普段ならこんなことは、口が裂けてもどころかそのまま頭を真っ二つにされても言えないが、今日は手を繋いだり、アレを触ってしまったりなど罪悪感もあるから、先に突入することにしてやる。


「さすがお姉様ぁ、男らしいですわぁ!」


 それならぜひお兄様にして欲しい。


 ガチャッ、ギィィー


 いかにもな感じの扉の音と共にドアが開くと、奥にはスタッフがいた。別に、お化けを演じているわけじゃ無さそうだ。


「出口のないお化け屋敷、完走おめでとうございます!」


 明るいなおい。


「ここでは、先程も言った通り、出口がありません!」


 元気に言われても困る。


「そこで、ここでは脱出手段として、ミニロケットとパラシュートをご用意しています!ぜひご自由にご利用ください!」


 なるほど、文字通り想像の上を行く脱出方法だな。まぁ、この人の言う通りここからしか出られないんだろうけどさ。


「それで?着地はどこになるんだ?」


「ランダムです!」


 なめんな。まぁ、一生出られないとかそういうオチよりはいいけどさ。


「地球上の。」


 ランダム要素デカすぎるだろ。


「お姉様ぁ、ワタクシはもう装着完了ですわよぉ!」


 レイナが既に置いてあったバックパックを背負っている。


「わかったよ、しゃあないなぁ。」


 こう見えてもいろいろ経験している以上、覚悟はすぐに固まった。


 せめて陸地の、できれば都会に落ちることを祈ろう。嫌なところとしては、南極北極、紛争地帯と砂漠、海上かな?


 レイナが俺にバックパックを背負わせてくれる。


「発車します。ご注意ください。」


 俺が背負った直後に、そういう音声が出て、バックパックの上面から火がふきでる。


 ……?上面って言った?


「お姉様ぁ、ロケットが熱いですわぁ!」


 ……こいつ、上下逆にしやがったな。


 ロケットの爆音と共に体が下に吹き飛び、床と壁を突き破って外に飛び出す。


 ドンッッ。


 大爆発とともにロケットが四散して、空中に体が投げ出された。


「おい、これどうすりゃいいんだよ!」


「お姉様、パラシュートですわぁ!」


 とりあえずバックに着いた紐を適当に引くと、パラシュートが開いた。


 た、助かった……。


 と思ったのもつかの間、パラシュートが絡まって急加速をし始める。


「お姉様、五重塔ですわぁ!」


 横を見ると、レイナが、俺のパラシュートのロープであやとりをしていた。


 こいつのせいで死んだらこいつをぶっ飛ばそう、そう心に決めた瞬間だった。

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