男子校に入学したはずなのに、○○と遊園地を楽しむ件①
「うぎゃぁぁぁぁああああ!」
遊園地には、絶叫系マシンなる一部の酔狂なユーザーのためだけに作られた特殊なマシンがある。これは、そういうものである。
こういったマシンには、ある共通点がある。絶対に安全だということだ。大事なことなのでもう一度言う。絶対に安全であることが最低条件である。
「生還率98%!?乗ったら降りて来れないジェットコースター!」
この看板は、そういう常識を(もちろん悪い意味で)ぶち壊してくれた。こんなリアルな数字を出されるぐらいなら、まだ、「乗った人は誰も帰ってこない」などと言われた方がマシだろう。
しかもこの看板、タチの悪いことにコースターの先頭に着いているから、本当にタチが悪い。ここまで来たら降りれない恐怖の使用。なぜユミコはこんな場所を借りるためだけに5億なんていう大金を叩いたのだろうか。
「上へ参りまぁす」
エレベーターの様な音声とともに左へ曲がる。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあぁぁ!」
隣のカオリの声はともかく、人間そちらに行くとなると、ついそちらに身構えてしまうから、それをぶち壊してくれるのは作った人の性格だろう。
「右へ参りまぁす」
その声とともに急降下して、上からは水が降ってきた。水が降ってくるなら出入口に看板立てとけよ!とも思ったが、そもそも俺はここの出入口がどうなっているのか知らないから、書いてあるのかもしれない。
キイイィィィ!
良かった。止まった。360度のちょうど頂点じゃなければ、どんなに安心出来ただろうか。
「故障しました。」
ふざけんな!
隣が静かになったので覗いてみると、カオリは叫び疲れて寝ていた。気絶じゃないあたりこいつもすごいよなぁ。
「席を離しまぁす。」
そんなアホな音声とともに座席が射出される。もしかしたら本来は真上に射出することで無事にパラシュートかなにかが開くものなのかもしれないが、悲しいかな、今は360度のど真ん中である。
つまり、真下に向かって加速するのだ。そういえばこの前、物理の授業で落下が何とかって言ってたなぁ。理解してはないけどさ。
「カ、カオリ!起きろ!」
下側のコースターのレールが迫る中で、カオリを叩き起す。
「んぁ!?おはよう。カヅキ。」
いや、そんなのんびりしている時間はないんだ!お前の力じゃなきゃ線路突き破っての生還はできない!
もうダメだ、ぶつかる!
「席を回収しまぁす。」
その一言とともに、落下より早く先回りしていたジェットコースターが突っ込んできて、上手くクッションで座席を受け止めてくれた。どうやらこれは、このジェットコースター最大の見せ場だったらしい。
が、俺は回収されたものの、カオリは線路に大穴を開けて寝ていた。こいつは絶対に頭がおかしい。(物理)
俺はコースターから下りると、スタッフに詰め寄った。きれいなお姉さんだったが、さすかにこれは説明してもらわなくては。
「どういう事だこれは。」
「やっぱり、寝てるお客さんはダメですねぇ。これでも、空気抵抗を計算せずにコースターの速度を設定していた頃よりはマシになったのですが……。」
「そうじゃなくてだな。」
「でもでも、お客様のおかげで生還率が少し上がったんです!これで営業停止を逃れられます!」
これ以上生還率下がったら営業停止だったのかよ……。
随分とマイペースなお姉さんにそれ以上言う気にはなれず、貸切だから後続も来ないので線路からカオリを回収する。
本当に傷1つないのはもはやドン引きするに値するが、そもそも今回はこいつがそれで助かったのだから良かったとしよう。
他のみんなはこの頭悪い乗り物に俺たちを乗せたことで満足したのか、どこかへ行ってしまっていた。そもそも絶叫系でこんなことが起こるのは普通の人間なら想定外である。
あいつらを普通の枠に入れるかどうかはかなりの悩みどころだが、それでも想定しないだろう。
寝ているカオリをベンチに横たわらせ、先程水に濡れたので、体を冷やさないように乾いた上着をかけてやる。膝枕してやるのはサービスだ。
結果としては1時間もせずに目を覚ました。頭は打ってないらしい。こいつを何回か載せればあのお姉さんも喜ぶんじゃないかとも思ったが、あんな酔狂なマシンに乗せられるのはカオリももうごめんだろう。
「おはよう。 もう昼過ぎてるけどな。」
「お、おはよ……。」
ていうかコイツ、寝起きはめちゃくちゃ可愛いのな。一緒に住んでてもいつもこいつのが起きるのが早かったから気が付かなかったが、女子の割には筋肉質な体には、間違いなく女子のやわらかさがあり、無理矢理でも意識させられる。
落ち着け、相手はゴリウーだぞ。
そうやって自分に言い聞かせているうちに、割と強くカオリを抱きとめていたことに気がつく。そして、近くなったおかげで、カオリの顔が真っ赤なことになっていることにも。
「おいお前、やっぱり風邪ひいたんじゃないのか。顔が熱っぽいぞ。」
「まぁ、ある意味病なことには変わりないんだけど……。」
「仕方ないな。あっちに保健室あるみたいだし、しっかり寝てるんだぞ。」
「うーん、そういう意味じゃないんだけどなぁ。」
なにかブツブツボヤいているが、おそらく熱で変な夢でも見ているのだろう。1番近くの休憩室まで、今のこいつで歩けるだろうか。
「ほら、運んでやるから。捕まってろよ。」
そう声をかけると、前からカオリを抱っこしてやる。こいつを抱っこするなんて、もしかしたら初めてじゃないのか。意外と幼なじみでも初めてのことってあるんだな。この前の同棲といい。
TDLでは、「なぜか」体調不良者が多いので、保健室が多く、名医が揃っているらしい。某国の大統領はここで手術をしたとかしてないとか。
カオリを保健室の女医さんに預けると、
「あなたがいると病人が休めないでしょう。」
などと意味不明な怒られ方をして追い出されてしまった。俺ってそんなに休まらない人間かなぁ。
キャラクターが入っているだけで外の自販機より50円近く高いペットボトルのスポドリを2本買って、1本は女医さんに、カオリに渡すようにお願いし、もう一本は自分で1口飲む。
あー、疲れた。筋肉って重いのな。これが分かっただけでも収穫だ。あとは、これをカオリに言わなければ生還できる。生還率98%ってやつだ。
そういや、他のみんなはどこにいるんだろう。俺は俺で乗りたいアトラクションもあったが、みんなを探すことを先にした方が良さそうだ。
でもなぁ、ここ、最初に言ったように東京ドーム10個分の面積がある。ぶっちゃけ、手に負えない。全員ばらばらに行動していても偶然会うのはかなりの確率だろう。
さっきのコースターで被った水のせいでケータイはバッテリーがバチバチ言ってるし、素手で触るとビリビリするので放置だ。
「次の行動に移ります。」
すぐ近くで声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
振り返ると、誰かに押されたかのようにとたとた歩いていたレイナが見つかった。
「やっと見つけましたわぁ!愛は偉大ですわね、お姉様ぁ!」
男子の格好をしてる時に言われたくないセリフベストワンだが、見つけてくれたことはありがたい。
「愛とかなんとかは分からないが、俺もみんなを探していたんだ。どこにいるんだ?」
「こっちですわぁ!」
ふと、動きに若干のぎこちなさが消えていることから、ユウリがいないことに気がついたが、たまには別行動でもしたいのだろう。
俺が手を引かれてやってきたのは、お化け屋敷だった。
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