男子校に入学したはずなのに、入部わずかで大会に出ることになった件
男子校というものは基本的に封建社会であり、推薦などを持たない一年生がメジャーな競技で大会などに出場するのはとても困難であり、嫉妬やいじめの対象にもなりうる。(俺調べ。)
……で、明日大会だって?しかも、ぶっつけ本番に近い形で?何の拷問かしら?
取り合えず、マンションにつくと、俺が料理をしている間にカオリが風呂に入る。やだなぁ、このシャワーの音。
こないだの水族館のこともあって、思春期男子に意識するなという方が難しい。いっそ指でも折ってくれれば大会に出ずに済むし、カオリへの意識も薄まると思うのだが……。
プルルルル
電話だ。ちなみにこれはカオリが家から持ってきたものらしい。あいつの家も複雑で、おばさんがどこかに行くからここに引っ越すことになったんだとか。
さらには、それを聞いたうちの母親が、女子の一人暮らしは危ないからと俺をつけたらしい。けどあいつ、俺よりはるかに強いぞ?
「はい、佐藤です。」
「あー、シュガー?」
「どうやってうちの番号調べたんですか。」
「さっきカオリちゃんに教えてもらった!」
カオリキラー要素が、悪い方向に働いている気がする……。
「それで、どうしたんですか?」
「それが、明日の大会なんだけどね。」
お、中止か?中止なのか?
「1週間前に出したメンバーで出ないといけないから、ケガしちゃった子の服で出てもらいたいのよ!」
えぇ……。この学校の先輩たちは、みな女子力ならぬ女装力が異常に高い。先輩たちなんか、みんなおしゃれな香水とかつけちゃってるんだ、勘弁してほしい。
「でもほら、サイズとか。」
「確認済みだよっ!」
キラキラした先輩の顔が思い浮かんできて逆にげんなりする。
「明日、直接持ってきてくれるらしいから、安心して!」
俺、女子が苦手なのは元からだけど、これ、女装男子も次第に苦手になってないか?
翌日。
「シュガー!」
いつも通り女装した俺のもとに、元気いっぱいのヒカル先輩からユニフォームが届けられた。
「おはようございます。」
大会当日なのも相まって胃が猛烈に痛い。
「元気ないねシュガー。そんなシュガーに朗報だよ!シュガーの服は、絶対にパンチラしません!」
「えっと、どういうことですか?」
「それがね、ケガした子が家でセメントを扱っていたら、スカートの上にこぼしちゃって、そのまま固まっちゃったんだって。」
どういう状況でセメントなんて使っていたんだろう。
「あー、その子のお父さん、セメントをよく使う仕事なんだって。」
セメント詰めとかじゃないだろうな。
「いっとくけど、ヤクザじゃないよ。単なる工事系の仕事の人。」
「それは安心しました。」
「ヤクザはその子本人。」
「安心が一気に霧散しました。」
この服絶対よごせねぇ。何ならきれいにして返さないと……。
「ね、つまりパンチラしなくてすむよ!」
それ以上のよくない情報が降りかかっている気がするのは気のせいですかね。というか、俺だけカチカチのスカートってどうなんだろう。
「これ、服カチカチで大丈夫なんですか?」
「この番号しかでられないんだよね……。」
分かりました分かりました。やるよやりますやりますとも。
「これ来て出ればいいんですね?着替えてきますよ!」
「わーい!ありがとう!」
俺が喜んで引き受けてるとでも思っているのだろうか。
この人ピュアすぎるだろ……。大学とか行ったら悪い男(いや、女か?)に騙されるのは目に見えている。ボーイッシュ先輩に見張りでも頼んどこう。
大会が始まり、開会式に出た。やけに人が多いなと思ったら、周りみんな女子じゃん。○×女子、とかいう名前の学校も来てるし。
男女平等に競技するのが正しいのかと言われるとそれは違う気もするが、そこに混ぜて貰えないと大会が出来ないぐらいには競技人口が少ないのだろう。
女子嫌いとは言え、そこは感謝しなくちゃな。
俺だけスカートがカチコチの中、大会長の長い話を聞き終わり、自分たちの座席に帰ってきた。
俺たちの番は午後1番らしい。さすがにこの情報は昨日の時点で聞いていたので朝早起きして作った弁当がある。カオリの分は少し少なくしてやったので、今頃テレビにでも八つ当たりしているころだろう。
他のチームの発表は、1番目の人達が上手すぎて、見ると自信を無くしそうだからやめた。
緊張するなぁ。胃薬飲もう。
サラサラと粉の胃薬を飲んで、冷静に考えたら今日だけで5袋ほど飲んでいることに気がつく。
それでもまだ痛いってどういうこと?
うっ、今度は緊張で腹を下しそうだ。慌てて薬を飲むと、今ので最後のひと袋だったと気が着く。というか俺、緊張に弱すぎでしょ。
「シュガー、そろそろ出番だよ。」
ヒカル先輩の心配そうな声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ。」
なんとか、それだけ返事をする。
「次は、常楚女子高等学校です!」
というか、女子校ってことにして登録してたのか。だから、深く調べられるとまずい別の番号使えなかったのかな。
「プッ。」
でも、今のアナウンスのお陰で緊張が解けたのも事実だ。
先輩たちの後ろについて、ステージというか、床運動用の床のような所にかけ下りる。もちろん、隊列は崩さずに素早く並ぶ。
遠目には、怪我をしてしまった先輩がこちらに笑いながら手を振っているのが見えた。本人は応援しているつもりなのかもしれないが、ヤクザに笑いかけられるとか怖すぎるんでできればやめてください。睨まれても嫌だけど。
「ワン!ツー!」
ひかる先輩の掛け声で音楽が始まった。
結果は2位だった。
何でも、俺が最初に見てドン引いていた学校は女子で全国上位常連の強豪校で、ここら辺の中では1番強いらしい。
「惜しかったなぁ!」
ヤクザ先輩が怪我をしていない方の腕で背中をバンバン叩いてきた。くっそ痛いんだけどやけに人の事叩きなれてない?
「さすがシュガー!安定感あったよぉ!」
「ありがとうございます!」
褒めてもらえるのは素直に嬉しい。
「さすがカヅキ!あたしの幼なじみだ!」
「さすがお姉様ですわぁ!陰ながらの応援が報われましたわぁ!
お前ならやり遂げると信じていたぞ!」
「親友がこういうのに出るのは嬉しいわね。」
「感無量。祝福。」
「おめでとう!さすがみんなを集めただけあるな!」
お、おまえら……
「なんでここにいるの?」
「ワタクシがみんなを呼び集めたんですわぁ!」
恥ずかしいところを見られたなぁ……。
「そういえば、カヅキ。」
「ユウキ?どうしたの?」
「明日から実力テストって言ってたけど、大丈夫?」
なるほどぉ、だから大会なのにほかの一年の応援がなかったんだね!
……え?
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