男子校に入学したはずなのに、幼馴染と同居のマンションがカオスな件
夕方から、幼馴染と先輩とクラスメイトと家電屋ってどうなの……。
時は、約一時間半前にさかのぼる。
「サーイエッサー!」
「そういうの良いから。
それより、あんたを見られてあたしに恋人がいるってなるとね、少し面倒なの。だから、女装して。」
「……は?」
一瞬何言ってるのかさっぱりわからなかったが、頭がじりじりと追いついてくる。
「あー、うん、たぶん、はい。」
「というか、いまだにアレの中身がカヅキだって確証が薄いんだよな。ということで、目の前で着替えてみろ。」
「お、お代官様ぁ、そ、それだけはなにとぞ、なにとぞぉっ!」
そんな羞恥プレイ、誰がしたいというのだね?
「ひっひっひっ、ういやつよのぉ。」
逆にノリノリだし。
結局、何とか交渉で風呂場を使わせてもらった。
「カヅキー?置いてくぞー?」
「ハイハイ今行くー。」
「はいは一回!」
よくわからないところでキレたカオリの方から、チャック付きの袋の中に洗剤を二つ混ぜたものが飛んできた。風呂場に投げ入れ、袋に向かってつまようじを
「鍵かけて。」
「はいよ。」
しもべ君がカギをかけている間、カオリは少し考えると、
「そういえば、お隣さんへのご挨拶もしないとね。タオル買わなきゃ。」
などと珍しく安全なことを考えている。お隣の……田中さん?こいつの機嫌には気を付けるんだぞ。
そんなことを考えていたら、目の前に見覚えのある金髪ポニーテールが。
「カヅキ……?」
土曜日だって女装を欠かさない模範生、アオイの登場だ。
「あれ、アオイ?もしかして、お隣の田中さんってアオイのことだったの?」
「いや、お隣も何も、うちのお隣は101号室がロックのおじさんで、反対側が空き室のはずだけど……。
も、もしかして、カヅキと奥の子はロックのおじさんの親せきだったの?」
「いや、空き室に越してきたんだよ!」
ていうか誰だよロックのおじさん。
「あー、なるほど!あと、後ろの女の子って、もしかして『陸上部の美姫』?」
だから誰だそれは。
「なんでも、チーターのような短距離走に、軍馬のような長距離走だとか!」
「そ、そうそう。あなた、よく知ってるね。」
カオリが調子に乗っている……。
「あと、ノミのような高跳びとゴリラのような投擲……。」
「それ以上言ったら殺す。」
誰だその噂を流した奴は。命が惜しくないのだろうか。
ゴウンゴウンと大きな音を立ててエレベーターが動いている。マンションというには本当にぼろいなここ。
「ごめんって。うちもうわさを聞いただけだから、こんなにかわいいと思わなかった。」
これが可愛いなら俺はフンコロガシをもかわいいと言えるだろう。
「それで、二人はこれからどこへ?」
「家電を買いに行くんだ。」
このまま下手にしゃべらせると、親友の身が危ないので、俺が割り込むように返答する。
「うちもいくわ!」
アオイは、自室のカギを開けると荷物を放り込み、「準備完了!」と言った。俺が言えたことじゃないけど、女装したまま行くの?
チーンッ!
耳をつんざくような大音をたててエレベーターが到着する。なぜかヒカル先輩が下りてきた。
「あれ、ピカピカどうしたの?」
「ブルーこそ!」
「なんか、新しくふたり引っ越してきたみたいで、その人たちが家電で、一緒に行くの!」
途中の説明はぶりすぎだろ。
「なるほど!」
わかっちゃうのか。ここらへん、天然のヒカル先輩らしい。たぶんわかってない。
「というか、二人は幼馴染か何かですか?」
俺は気になったので聞いてみる。
「引っ越してきたのはシュガーかぁ!びっくりした!ここのマンションが一層にぎやかになるね!」
「そうですね……。」
カオリがたじろいでいる。こんなところにいたかカオリキラー。
「私とブルーはこのマンションに住み始めてからの友達だよ!じゃあ、一緒に行こう!」
そういえばこの人もたいがい会話に
「えっと、どこまでですか?」
「帰りまで!」
こうして、この四人で家電屋に行くことになった。というか、ヒカル先輩元の用事はいいのだろうか。
「この、タコ焼き器とかほしくない?あ、こっちにあるゆで卵専用鍋は?」
「ピカピカ、そんなに使い道限定されたものいらないでしょ。」
「じゃあ、こっちのゆで卵以外に三つの機能を持つ鍋とかは?」
「その三つって何ですか?」
カオリがイラつき始めてる……。怖い怖い。
「ゆで卵と、温泉卵、ポーチドエッグ、ほうれん草のお浸し!」
それしか使えないとか超要らねぇ。ていうか、温泉卵とゆで卵をわけるんじゃない。
「カヅキ、こっちの多機能レンジでいいな?」
「そ、そうだね……。」
「シュガー!私のは?」
「残念ですが用途が限定的すぎます。使えません。」
「うわーん、ブルー!シュガーが使えないっていったー!」
「はいはい、事実だから仕方ないね。」
アオイもなんか慣れた感じでとどめを刺しに行く。
「これで冷蔵庫と洗濯機とエアコンとレンジは買えたから、あとテレビだね。」
「カオリさん、一つ質問いいですか?」
「なによ。」
「買ったもの全部俺が背負う必要あった?」
「配達料がもったいないだろ。」
「大きい物から買う必要は……?」
「サンドバッグが逃げるだろ?」
ですよね知ってた。
「シュガー、すこし持ってあげようか?」
「お、お願いします。」
「じゃあ、これで!」
そういうと先輩は片手で冷蔵庫を持った。……は?
「ささ、つぎいこー!」
元気だな……ていうか、俺がチア部に誘われた理由って筋肉じゃなかったっけ?この人いるなら俺要らなくね。
とおもったら、目の前を学ランを着た男の子が同じように大量の荷物を持って行った。あの男の子も怪力だけど、なんかそれ以外に好きになれない不思議な感じがする。なんでだろう。
「冷蔵庫、洗濯機、エアコン、レンジ、テレビ、掃除機。
これで全部かな?」
手ぶらのカオリはやたら元気そうだが、俺は死にかけだ。
「カヅキ、うちそろそろテレビ重いんだけど。」
「バカ言わないでくれアオイ。こっちの腕ももう限界だ。」
「私もさすがに冷蔵庫重いかもー。」
それはそんなもん持って走り回っていたからだろう。
「みんな情けないな。ほら、帰るよ。」
お前の情けが一番ないだろ……とか言ったらマラソンとかさせられそうだから言わないが。
「そういえばシュガー?」
「なんですか?」
「明日、大会みたいなのに行くんだけど、スタンツの下側やる子が、腕怪我しちゃってさ。
代わりに出てくれない?」
そういうのは、前日に言うことじゃないでしょうが。いや、ちょっと嬉しいけどさ。
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