男子校に入学したはずなのに、○○部に入ることになった件

 次の日。学校に行く途中、カオリに言われたとおり、いつもと違う道を通ることがないよう、細心の注意を払ったが、やっぱり登校路に変なところなんてあるはずがない。


 昨日も、先週の金曜日も、木曜日も、同じ道だった。やっぱり間違ってるのはカオリだ。


 火曜日はやたら色っぽいクラスメイトたちの中で体育をしないといけないのが胃痛の種だが、今日は保健で性差についてやった。


 今日の内容は男子についてのピックアップだったけど、みんなやたら顔が赤かった。それこそ、ユウキやアオイも。どうしてだろうね。


 もちろん今日のメインイベントはそんなことでは無い。部活動見学だ。


 なんでも、昨日どうしても見学ができない部活があったらしく、割と少なくない人数がそこの見学に行くらしい。是非とも便乗しよう。


 体育館のステージ前に集合し、先輩たちを待つ。しかし、先輩たちは驚くべきところから現れた。ステージの上だ。


 誤解がないように解説すると、ステージの「壇上」にいたのではなく、物理的に上の方から落ちてきて、綺麗に着地を決め、ポンポンを持って踊り出したのだ。


「チーム、サンリリー!」


 うん。これ、あれだわ。


 チアリーディング部だわ。


 男子チアリーディング部は某大学が有名だが、高校にもあると言うのは初耳だ。しかもみんな女装がうまい。


「みなさん、今日は私たちのためにお集まりいただき、ありがとうございます!」


 リーダー格の先輩が話はじめる。たしか、1番最初に落ちてきた先輩だ。


「皆さんは、チアリーディングにどのようなイメージを持っていますか?」


 といった内容から、チアリーディングとチアダンスの違い、かける思いや競技実勢などを教えてくれた。結構すごいチームらしい。


 しかも、多分だがデフォルトで女装なのだろう。最近じゃ女装姿をとる訳には行かない(主にカオリのため)俺は、常に女装でいられるのは、いいなと思った。


「あら?この子、結構筋肉ついてない?」


 いつの間にか一人一人の間を回っていた先輩たちのうちの1人が俺に目をつけた。


「ほんとだ。この子が入れば、スタンツが上がりやすくなるかも!」


 なんか、見学だけのつもりなのに、入るみたいな雰囲気になってきている。


 周りのタメの人たちも、いいなぁって顔で見てくるし。俺はちょっと見に来ただけのつもりだったんだけどなぁ。


 すごく断りずらい雰囲気になってしまった。


「ねぇ君、仮入部だけでも来てみない!?」


 はぁ……。


「まぁ、仮入部だけなら……。」


「ありがとう!そんな君の前向きな気持ちが、チアスピリットに繋がるよ!」


 うわぁ、眩しい。眩しすぎて目がくらみそうだ。


「私の名前は本城ヒカル!よろしくね!」


 名前まで眩しい人だ。俺も流されるようにして自己紹介してしまう。ていうか、最近先輩系の知り合いにインフレがかかってないか?ユウリにユミコにヒカルさん……。


 後輩っぽい、だけならレイナが当てはまるが、あいつは同学年だ。


「さ、佐藤カヅキです……。」


「佐藤カヅキ君!かっこいい名前だね!あだ名はやっぱり、シュガーでいい?スメムーは嫌でしょ?」


 あだ名までつけられたら中々辞めるとは言えない。これがここのやり方か……っ!


「スメムーってなんですか?」


「スメルムーンだよ!スメルは香、ムーンは月でしょ!」


 なんとも雑な名付けだ。しかも、カヅキの字が違うのだが……。


「じゃあ、はい、ユニフォーム!明日はこれ着て、放課後直ぐにここ集合ね!」


 あれ?なんか話がまとまりつつある。そりゃ、女装があっても変な目で見られない部活ならいいっちゃいいけど……。


 結局、なんだかんだ言った末に、今月の予定だけ渡されて帰らさせられた。


 家に帰ってから、動画サイト「ヨウツーベ」で件の大学のチアリーディング部の動きを見てみることにした。


 そしてここで気がつく。あれ?誰も女装していなくね?


 どうやら、女装はうちの学校限定の装備か、最悪、今季限定の服装らしい。なんか残念だ。というか、本来の目的を果たせない。


 俺の本来の「女装している姿が部活によって正当化される」という目的が達成されない以上、このユニフォームは丁重にお返ししよう。そうしよう。


「お兄ちゃーん、ご飯そろそr……。」


 俺を呼びに来た妹がフリーズする。けれども、チアを流しているパソコンはフリーズしていなかった。


 チアリーディングの音楽が流れ続ける。


「予備軍?」


「なんのだ!よく見ろ!踊っているのは男だ!」


「お兄ちゃんが女嫌いなのは知ってたけど、男子校に行った理由って……。」


「違う!」


「私はそういうのあんまり気にしないよ!?」


 ユイ、頼むからそういうのはその真っ青な顔と謎の汗をどうにかしてから言ってくれ。


「とにかく、メシだな!今行くから!」


 その日の夕飯は非常に気まずい空気で終わった。





 翌日。


 授業が終わると、俺は脇目も振らずに大急ぎで着替えて体育館へ走る。仮入部だとしても最初に集合するのは1年だと、昨日ネットに載っていた。


 ……。


 誰もいねぇ。


 先輩たちはおろか、昨日一緒に仮入部届けを貰っていたヤツらすらいねぇ。俺なんて親からサインもらうのが嫌でユウキにわざわざ代筆を頼んだのに。


 仕方がないから、後輩の嗜みとしてそうじをはじめていると、五分ほどして、だべりながらほかの1年生がやってきた。


 皆女装とは思えないほど可愛い人ぞろいなので、若干緊張する。落ち着け、あれは男子だ。


 更に五分ほどして先輩たちが現れた。俺が掃除をしているのを見て、なぜか、目を丸くしている。俺たちが男子校流のやり方を知っていたからだろうか。


「なんで掃除!?」


 本城先輩が驚いた声を上げている。


「後輩として、やっておくべきかと……。」


 俺が始めたことなので、俺がそう答えると、


「んー、それは違うよ!」


 と本城先輩が返してきた。違う……とは?


「自分たちで使うものや場所は、自分たちで管理する!それが出来ないなら使っちゃダメだよ!」


 なんていい先輩たちなんだ……!俺は改めてこの先輩を尊敬した。


「わ、分かりました。それでも、後輩として先輩の敬意を含めて、今日はやらせてください!」


「その心意気、いいねぇ!じゃあ、今日はおねがいしちゃおうかな!」


 ヒカル先輩の意見に、他の先輩たちもウンウンと頷く。


「じゃあ、いつものアップから始めるよー!」


 俺らの掃除が終わるのをわざわざ見計らって下さった先輩の鶴の一声で、簡単な体力作り系のアップとストレッチをやる。


 みんな体柔らかいなぁ。


「シュガーは体力あるし力もありそうだけど、体がちょっと硬いねー。

お風呂上がりにストレッチしよっか!」


 仮入部の身にアドバイスまでくれるとは……!


 一瞬、部員を増やすための優しさかな?とも思ったが、他の先輩は「また始まった」みたいな顔をしているから、恐らくこれがデフォなのだろう。疑った自分の心の汚さを恥じる。


 そして、俺は心に決めた。この部活に入ろう、と。


 先輩たちは優しく、アットホームな雰囲気で、女装していても違和感がない。


 さらに、踊っているうちに心もワクワクしてきた。迷う必要なんてないだろう。


 だから、俺は宣言する。


「私、チアリーディング部に入ります!」


 すると、先輩たちが苦笑を浮かべた。


「実はね……。」


「な、なんですか?」


 もしや、ここまで来て入れないとかだろうか。


「こっそり、君の仮入部届けの裏に入部届けを挟んでおいて、君が書いたら、裏に入部届も書けるようになっていたんだ。」


 言いよどんだヒカル先輩の代わりに、他のボーイッシュな(男子だから当然だが)が答えてくれた。


 やられた……。

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