男子校に入学したはずなのに、部活勧誘がマイルドな件
何とかしてユミコを下ろし、触ってもいない部分を触ったとかいう冤罪でゲションゲション蹴られたり転がされたりした後、何とかして、待っていてくれたアオイとユウキのもとに辿り着く。
「化粧無事に落とせたかーって、うおっ、それは何の化粧だ!?」
「痣の化粧かな。見ても汚く、つけられてはいたいことで有名な。」
「もしかして、お師匠様となんかあった?」
やけに勘がいいユウキに尋ねられるが、ここは適当にごまかしたほうがいいだろう。
俺とユミコがけんかしたことがばれると、ユウキが板挟みになったりしかねなくてかわいそうだからな。
「いやぁ、ついさっきそこの階段から落ちちゃってさぁ。」
我ながら苦しい言い訳をすると、
「いや、トイレは反対方向だろ?」
アオイさん、そこは空気を読んでくれ。
「いや、私にはここって心に決めた運命のトイレがあるの!」
と言い返してやると、二人ともプッと吹き出す。
いやまあ、ごまかせたことに関してはいいんだよ?いいんだけど、なんか釈然としないというか、できないというか……。
「まあ、終わっちゃう前に早くいきましょう?」
噴き出した後も笑い転げ続けるアオイの背中を押して、ユウキが言ってきた。
「そ、そうだね。」
アオイは笑い続けているので、俺はアオイを担ぐと、お姫様抱っこで運ぶことにした。
本当はおんぶとか普通の抱っこでもよかったんだけど、それだと胸のコルセットが当たって、ついに無機物質にまで興奮しかねない。
男友達どころか、コルセットに興奮するようになったらおしまいなのでだまってそっとお姫様抱っこにした。講堂につき、笑いすぎで顔が真っ赤なアオイを下ろし、適当な椅子を見つけて座った。
ここはどうも自由席らしい。
普通男子校なら留年があり、うちの学校も例外ではない。(女子高の方はないらしい)が、この学校に来てからは留年生を一度も見ていない。実数は少ないのだろうか。
なぜ留年生のことを考えたか。これは、この男子校の恒例行事で、毎年、一年で留年した人が部活紹介の場を一時的に乗っ取り、新入生に「優しく」教えてくれるんだそうだ。
男子校(全員女装だけど)ならではの行事にドキがムネムネする。
「こういう行事、初めてだよな。」
隣りにいるアオイとユウキに問いかける。
「そっ、そうだな。共学じゃ味わえないからな。」
「今年は何をするのか楽しみです。」
アオイもユウキも楽しみそうだ。というかアオイさん?いつまで顔を赤くしているんですかね?
辺りが真っ暗になり、壇上に人の気配がする。うっすら見えるシルエット的に、何かを持っているようだ。オーケストラとか、応援部とか、そこら辺かな。
カッと壇上だけが照らされ、真ん中にドレスの女性、もとい、女装した先輩が立っているのが見える。
どうやら、きちんと勉強をしないでいたせいで、部活も友人も全て失った人の話らしい。まぁ、高校なんだから留年でハブられるなんてないだろうし、ドレスを着ているのも変だろ。
それにしても、留年生と言う割には人数が多く、しかも色々な部活の人間が協力しているように見える。部活禁止の留年生には出来ないような多彩な内容ばかりだ。オーケストラに演劇、その台本。
まるで、それぞれが本職であるかのように。
ここで俺は天才的に再びひらめく。ここまで閃いちゃうとか、俺って天才?
最初に、この学年には留年生はいない。1週間も通っていて1人も見ないってのが既におかしいからな。
つまり、今年は留年生は出なかったのだ。しかし、それで恒例行事を無くすと、忠告するものがいなくなり、俺らの代の留年生が増える。それなら、いっそ全ての文系の部活を導入してやろうということだろう。
いや、よく見ると部活のシーンのバスケやバレーも本格的だ。恐らく、その部活の人だ。それにしては筋肉の付き方が薄い気がするけど……。
それと、今思い出した話だが、たしかカオリが、女子校ではこんな感じのことをやるらしいって言っていたな。これじゃ、あいつの勘違いも解けないじゃないか。
あいつは馬鹿だから、アイツが間違えて丸一日男子校に通っていたことは言わなきゃ気が付かない。絶対にバレないようにしよう……。
ともあれ、その後のステージでのデモンストレーションは特に何も無かった。強いて言うなら科学部がドラム缶で象の歯磨き粉実験をやろうとして強制退去になったぐらいか。
続いて、活動風景の見学もできる。見学なら、とユウキが運動部に見に来たり、アオイが文化部に見にいったりと、結構楽しい。
男子校なのに野球部もサッカー部もないけど。
さっきのステージにも出ていたように、バスケ部やバレー部なら存在する。バスケ部は少し興味があったが、ずば抜けてすごいって言うほど強いイメージは受けなかった。
さて。
「これで大体全部見終わったけど、次はどこに行く?」
残ってるのは、誰も見たがらなかった数研、物研といった、勉強がメインのところだ。
次にどこに行くかで悩んでいると、置いてきぼりにされたいつもの子が突っ込んでくる。
「おーねーえーさーまー!」
この子のハグには新鮮なトラウマがあるので避けさせてもらうけどさ。
「あべしっ!どうしてよけるんですのぉ!」
そうやって地面に激突して顎が外れても普通に話しかけてくるからじゃないかな?
「ユウリはどうしたの?」
とまっとうな質問をユウキがするが、
「体育倉庫に置いてきましたわ!」
と荷物扱い。いや、何となく知ってたけどさ……。
「まあまあ、それよりどこか面白かったところとかある?」
「お姉様の隣ですのぉ!」
「部活の見学では?」
「お姉様研究会ですのぉ!」
「そんなのないだろ。」
「いや、パンフレットには乗ってるぞ?」
会話を流して聞いていたアオイが言ってきた。マジか。
「なにそれ……。」
「お姉様の魅力を研究する会ですのぉ!」
「部員1名、部長、鈴木レイナ。」
またもアオイがパンフレットを見ながら教えてくれる。
「作りましたのぉ!」
マジかよ。色々ザルすぎるだろ。女子が3人も(レイナ、カオリ、ユミコ)侵入出来ちゃったり。
セキュリティー的に問題になる前に、先生に忠告した方がいいんじゃないかな。
結局時間が終わるまでに、どの部活にするか決められなかった。俺だけ。
アオイはバスケ部、ユウキは書道部、レイナとユウリはお姉様研究会(?)だ。というか、カオリがそのまま陸上部に入部届け出しに行く姿が見えたんだけど、受理されるのかね。
まあ、見た感じこの学校ザルだし大丈夫そうだけど。
今考えてみると、どこの部活に入るかなんて後からでも入部届け出せば入れるんだよな。後でいいや。
ふと、校門前にユミコの姿が見えた気がした。もう下校時刻だから(この学校の生徒なら)校門にいてもおかしくない。あいつは違うよな?
それで、なんだってあいつはこんな所にいるんだろう。紫髪は、比較的染めてる人の多いこの学校でも目立つ。レイナですら、若干赤っぽいぐらいなのに。
「ユミコ、何しているんだ?」
目立つのは恥ずかしいから、端っこに手招きして呼び出して質問する。
「浮気防止。」
「浮気って、もしかして俺の?」
「そう。」
そもそも婚約に承諾した記憶が無いんだが……。
昼休みに、こいつがあのカオリをバックドロッブし、仕返しに投げられてもなんともない所を見てしまっている以上、抵抗する意欲は最早ない。さっき蹴られたところもまだ痛むし。
どっかで隙を見て逃げよう。
「無駄。」
そうか、心読めるんだった。ほんとにどうしよう……。
「お家デート。」
ん?
「制服デート。」
はぁ……?
「下校デート。」
もしかしてさ……。
「両親への挨拶。」
いや、それはさすがに飛躍し過ぎでしょ。
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