男子校に入学したはずなのに、幼なじみ♀︎が学校にいる件
ユミコに告白のような何かをされた次の日は、何も無かった。そして週が開けた月曜日、学校に行くとユウキとアオイが心配そうにしていた。
「おいカヅキ、お前またなにか1人で抱えてないか?」
「土曜日の午後、お師匠様が楽しそうにしていたのと反対に、すごく落ち込んでいる印象があったけど、何かあったの?」
そのお師匠様に求婚されました。なんて、口が裂けても言えない。男子校だからこそ、言いにくいことがある。同性愛とロリコンだ。今回は後者に該当するだろう。年齢は高3らしいけどさ。
友人だからこそ、言って引かれたらおしまいだ。ネットにも、男子校でも言わない方がいいってなってた。
自分の中でもあの日何があったのかあまり思い出したくもないが、それでもそれを意識するほどに、無表情かつ、幼い体型ながらに
さらに、アオイはともかく、ユウキにはなおのこと言えないだろう。ユウキはユミコのことを尊敬しているふしがあった。今日も、「セータートルネード」と書いてある栞を持ってきているぐらいだ。
さて、どうしようか悩んだ末に、最終的に思い浮かんだ案はたったひとつ。考えるのは辞めよう。逃げよう。
冷静になったら、ユミコとだってもう会うかどうかわかんないし。
「あれ、お嬢ちゃん?迷い込んじゃったのかな?パパとママはどこにいるか分かる?」
聞いたことのある声と嫌な予感。振り返る途中から見える茶褐色の、少しだけ長さのあるポニーテール。相対するはかなり低い位置に設定された紫色のショートカット。
それぞれ、カオリとユミコだ。お前ら何故ここにいる。ツッコミ待ちなのか?とりあえず隠れる。
けれども、2人が知り合いではないということはすぐに証明された。腹が立ったらしいユミコが、バックドロッブをするようにしてカオリを窓から投げ捨てたのだ。
恐らく一度下まで落とされたカオリは、それをジャンプして復帰してきて……ここ、何階だっけ?3階だよな?いや、それより。戻ってきたカオリはユミコをラグビーボールのように投げ捨てる。ここはプロレスリングじゃないんだぞ。
本来は(勝手に設定された)婚約者としてユミコを助けるべきなんだろうが、そもそもお前らがここにいる事が異常事態だろう?
俺は推理のために頭脳を高速回転させる。
恐らくこうだ。ユミコは俺の事を気に入り、第2のレイナとして俺の事をストーカーし始めた。一方カオリは、以前話していた俺に似た人と俺自身を見間違えて、駅から何も考えずに俺の事をおってきた。結果、男子校に潜り込む形となってしまった。
しかし、周りがみんな女装していたせいで、ここが男子校だと気が付かなかったのだ。
そしてユミコを小学生と勘違いし(中学生?ないない)今に至るのだろう。
俺がコソコソと隠れていると、後ろから急に金髪の美少女が声をかけてきた。
「カヅキ?こんな所で何やってるんだ?」
心臓をバクバク言わせて転げ回りながら、声でアオイだと気がつく。
やめてくれ。今は物凄くえげつない2人に探されているんだから。
「なにってそりゃ、この状況見てわかるだろ。メタルギアソルトごっこだよ。」
「ほんとに何やってるんだ……。あれは、かくれんぼじゃなくて銃ゲーだろ?」
どうやら、メタルギアソルトはステルスゲーだと知らないらしい。
「ところで……なんだその可愛さは?」
「う、うるさいな。ユウキが『カヅキが沈んでいるから、化粧で元気づけてあげよう。』っていって、カヅキに見せるためのモデルをウチがやってるんだよ。」
なるほど、本当に良い友達を持った。毎回思う。
あと、男子同士、いや、この場合は女子同士かな?でも、可愛いって言われるのは恥ずかしいものなんだな。顔真っ赤だぞ。
「まぁ、ありがとう!
教室行って、私もユウキに化粧してもらう!」
主には、怖い2人組からにげるためである。
教室へ行くと、ユウキが待ってましたとばかりに出迎えてくれた。
「じゃあ、カヅキもお化粧しましょうね。」
なんか怖いんですけど。
ペタペタ。ぬりぬり。ペタペタ。ぬりぬり。書き書き。ポンポン。
「ねえ、カヅキ?」
ユウキが手を止めていった。何かシリアスな雰囲気がある。
「い、いや、何も隠してない。隠してないから!」
「そうじゃなくて……その……。」
何か問題でも起きたかのような顔だ。
「どうかしたの?何でも言って?友達でしょ?」
「う、うん……。」
ユウキは、弱気そうな顔から、覚悟を決めた顔になる。
「あのね。」
まさか実は昨日の結婚の話、聞かれていたんじゃ……。
「カヅキの顔、ものすごく化粧に似合わないわ。」
……。
「最初は違和感程度で、そこまで不気味さはなかったんだけどね?
つけているうちにそれが確信になって、今じゃごまかせない程度、そうねぇ、ぬりかべと小豆婆を足して2で割らないような感じになっているわ。」
せめて割ってほしかった。
「ごめんなさい。もっと早くに辞めておけばよかったわ。」
「ま、まあ、化粧なんて洗えば落ちるから、そんなに気にしなくても……。」
「化粧落としを忘れてしまったの。」
あちゃあ。それがないと本当の妖怪になることぐらいは化粧に疎い俺でもわかる。
「まあ、このくらいなら気にしないでいいよ。」
手鏡とかを見たわけじゃないが、ぬりかべ+小豆婆は大げさだろう。……大げさ、だよ、な?
「本当にごめんなさい。このお詫び、なんていってすればいいか……。」
「気にしないでいいよユウキ。失敗は誰にでもあるから。」
「そう、そうよね。」
「うんうん。」
「私がこの世に生まれてきたのが失敗だったんだわ。」
「そんなことないよ!
ユウキがいてくれて、すごく感謝しているよ?」
ずいっと柔らかな手を握って力説すると、ユウキは……。こらえきれずに笑い出しやがった。
「トイレで鏡見てくる。」
俺はくすくす笑うユウキが可愛く、逃げるようにして教室を出る。
「キャーッ!」
黄色い声援……。ではなく、甲高い悲鳴だ。叫んでいる人たちの顔が恐怖にひきつっている。
「えっ。」
俺の行く先から聞こえるというのと、何人かの視線が俺に固定されていることから、どうも俺への悲鳴らしい。そんなにひどいか俺の顔。
しかも不運なことに、ここでカオリに遭遇してしまう。
……いやいや、そんなこと……あるわけ……。
この顔は、どう見てもカオリだよな?
「あ、あなたは……!」
カオリが俺の顔を見て驚いているが、悲鳴を上げるのは俺の前でプライドが許さないのだろう。
「この前は幼馴染と見間違い、声をかけようとしてしまった。悪かった!」
と頭を下げてくる。もしかして、また俺の変装に気が付いていないんじゃ……。
でも、ここで俺だと言ってしまったら、ここが男子校だとばれてしまう。
そんなことをしたら、自分が頭いいとか思っちゃってるこの幼馴染を傷つけてしまうだろう。
馬鹿だが、そうポンポンと傷つけていいわけではない。俺は、このことについては黙っていることにした。
「いえいえ、お気になさらず!まったく気にしておりませんから!」
そういうと、カオリは顔を明るくし、
「ありがとうございます!」
とだけ叫ぶとたったか走っていった。走るフォーム、きれいだよなぁ。
今更ながらにカオリのきれいさを再確認したところで、あいつは幼馴染だけどさ。
それにしても、これからどうするかぁ。
しばらく悩んだ末に、今日はまだあっていない、いや、本来は会わないと思うんだけど、ユウリとレイナに会いに行くことにした。
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