男子校に入学したはずなのに、ストーカー対策に一芝居する件

放課後。


「お姉様ー!

 今日もワタクシがお姉様と一緒に帰りにまいりましたよぉ!」


「あー、ごめんなさい?恋人との時間をとる予定なの。」


「その恋人、消しますわぁ!」


 かかった!


「おいおいー、私たちの愛を引き裂こうったって、そう簡単にはやらせないぞー!」


「だめですわぁ!お姉様にはワタクシさえいればいいですわぁ!」


 今のところ順調だ。


「じゃあ、私の恋人と会って、何か一つ勝負をしなさい?それで、レイナが勝ったら好きにしていいよ。」


「わかりましたわぁ!それで、その恋人は今どこに!?」


 朝捨てさせたはずの刃物をどこかから取りだし、手の中に握りこんでいる。怖いって……。


「体育倉庫だよ。いつも二人で会う時は、そこって決めてるから。」


「ひゃうぅ!女の園での!禁!断!の愛ってやつですわねぇ!」


 既に半分以上言ってることが分からないのにここまで怖いのはなんでだろう。


「あー、じゃあそれで。いいよもう。」


「ど、どんな、お姉様と、うらやまけしからん!なんて、ことをー!」


 初対面の時のどもり方は演技じゃなかったんだ。


 今更ながらにそんなどうでもいいことを再確認する。


「殺るdeathですわぁ!」


 言葉だけなら「やるですわぁ!」と健康かつどんなことにも積極的な模範生に聞こえるのに、思い浮かぶのはなんでこの字面なんだろうね。


「お、おいっ!まてっ!」


とりあえず演技はしておく。しかし、その必要も無いぐらい遠くに、既に走っていっていた。


「これでよし、と。」


 体育館に向かってのんびり歩く。


「まだまだですわぁ!

 刺してちぎって引き裂いてやりますわぁ!」


 レイナのはしゃぐ暴れる声が聞こえてくる。セリフ?そんなものは聞こえない。


「その体を億の欠片にして世界中にばらまいてやりますわぁ!」


「出来るもんならやってみろよぉ!」


 ついでに、ユウリ先輩の楽しげな声も聞こえる。決して煽っている訳では無いはずだ。女と女装って怖い。


「はぁ、はぁ。せっかくお姉様のために座敷牢まで用意しましたのぉ!

 これからの甘い時に貴方は不要ですわぁ!」


 何も聞こえない。そう、何も聞こえないのだ。


「お前、霊向きだな!

 死んだらあたしの元に来い!一人前にしてやるよ!」


「死んでもごめんですわぁ!」


 俺はしばらく、体育倉庫の丈夫な扉の影から、じゃれあっている……うん、じゃれあっているだけ!の2人を見守ることにした。目と耳を塞いで。


 しばらくして、静かになると、レイナが泣きながら床にころがっていた。


「ワタクシこそがぁ、ヒック。お姉様との蜜月をぉ……ヒック。」


「お前しつこいなぁ。やっぱり霊に向いてるぞ。

 刃物が聞かないって分かってから、37564回も刺してきたのは初めてだ。」


 2人ともおっかない。


「でも、ワタクシは負けましたわぁ。

 あなたは、私の前でお姉様への愛を証明しきったのですわぁ。」


 そういえば、そんな話もあったか。自分で作った設定だが、秒で忘れてた。


「あー、その事なんだが……。」


 俺は物陰から怖々と中を覗く。


「お前もお前で仕方ないやつだから、刃物を持ち歩いたり、俺の周囲に危害を加え ないなら、少しは近くにいていいよ。」


 相手が女子だということもあり、少し優しくしてしまう。


 やべぇ、目を輝かせ始めてる。この子こわいですわぁ……


「本当ですの!?もちろん、約束は致しますの!2番さんですのぉ!」


 そう言って抱きついてきた。人聞きの悪いことを言うんじゃない。


「なるほど、そういう事だったのかー。」


 急にした声にビビって、そちらの方をむくと、アオイとユウキが立っていた。


「水臭いことしてないで、早く教えて欲しかったわ。」


 2人とも、転がっている包丁とか女子とか、更には幽霊までいるのに気にしていないご様子。


 すげえ上に優しいなぁ……。本当に俺なんかの友達やっていていいのだろうか。アオイはかっこいいし、ユウキはかわいい。いや、男子なんだけどさ。


「さてと、帰るか。」


 俺がつぶやくと、加藤先輩は少し寂しそうにした。


「あたしは誰かに取り付かないと遠くまで行くことすらろくに出来ないからなぁ。」


「じゃあ、私に取り付くのはだめなのか?」


 たまには外に出ないと精神衛生によろしくないだろうし、俺としては恩があるからぜひとも恩返ししたい。


「あー、あたしと色々似ていないと取り付けないんだ。性格とか、性別とか。」


 なるほど……ん?性別?じょ、女性でしたか……。


「おいお前、今なんて思った?」


「な、なんでもないです!」


「よろしい。」


 おっかない先輩だ。


「ていうか、ユウキはともかく、アオイも、加藤先輩が女子って気がついてたんだ。」


 アオイは面識すらないはずだ。


「体育倉庫事件の時に、お前ひとりで職員室行っただろ?あの時にユウキから教えてもらったんだよ。」


「アオイだけ仲間はずれにするのもよくない気がしたので……。」


 まあ、そうだけど……。


「ていうか、お前はユウリ先輩のことをなんだと思ってたんだ?」


「幽霊?」


「間違っちゃいないけどさ……。」


 その時、俺に抱き着いたままマタタビ風呂にでも浸かった猫のようになっていたレイナが、


「もしかして皆さん鈍感ですのぉ?」


 と、ぼそっとつぶやいたが、視線で問いても何も答えない。


「それなら、うちなんかはどうだ?しゃべり方とかも似ているじゃん?」


「あー、お前の中に入ったら、けんかになりそうだし、第一、あたしはそんなに真面目じゃない。」


 なんとも微妙な表情をしたアオイだが、まじめともいわれたので引き下がる。


「おい、ヤンデレ少女、あたしと体少しでいいから共有しろ。」


「だそうですわぁ、ユウキさん。」


 ユウキにはさん付けなんだ。


「どう考えてもあなただと思うわよ、レイナさん。」


 ゆ、ユウキがこめかみに青筋浮かべてんの初めて見た。こわぁ。


「レイナの方だ。わかってんだろ。」


 幽霊ハンドで頭を小突くも、痛くもかゆくもないらしい。透けてるし。


「わ、わかりましたわよぉ!ちょっとだけ、先っぽだけですからねぇ?」


 何の話をしているんだっけ。


「いや、そんなの無理だから。全部入れたくなっちゃうだろ。」


 無駄に興奮させる会話をしながら、ユウリ先輩がレイナの中に入っていく。


「いやぁ、一気に全部入ってきたら、逝っちゃうじゃありませんのぉ。」


 俺は座り込む。理由は、聞くな。


「レイナの中っ、キッツ……。でも、あったかい……。」


「あっ、あっ、ダメですわぁ!」


 俺は耳をふさぎ、丸くなる。


「いっ、いっ、逝っちゃ……あっ。」


「これで……全部……。ふう、ようやく入りきったぜ。ん?カヅキ、何しているんだ?」


「えっ!?いやぁ?なんでもぉ?」


「しゃべり方がレイナさんみたいになっているわよ、カヅキ。」


 どうもユウキはレイナのことがあまり好きでないらしい。


「いや、今の、声だけ聞いたらどう見てもセッ……。」


 俺は、必死にアオイの口をふさいだ。


 唇柔らかっ。オレンジみたいないいにおいするし。


「ぶはっ、何するんだよ、カヅキ!」


「女の子が変なこと言おうとするからよ。」


 ユウキが代わりに理由を答えてこたえてくれる。まぁ、正確には女の子じゃなくて女装っ子だけど。


「それで、わざわざユウリ先輩に体なんて渡して、何するの?」


 俺は話題をそらすために聞いた。


「そんなの決まっているじゃない。」


「遊びに行くんだよ!」


 ユウキとアオイがセリフを割って答えた。

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