男子校に入学したはずなのに、最初一週間でめちゃ疲れてる件
ピンポーン。
朝一番、家のインターホンがなる。やだなぁ。これ、絶対
ピンポーン。ピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポーン。
怖い怖い!!
だが、当然のごとく恐怖はここじゃ終わらない。
コンコンコン。
今度はノックを始めた。トイレノックと呼ばれる2回でなく、きちんと3回連続でやってくるあたり、地味に律儀だ。
コンコンコンコンココココココココカララララララ
怖いって!途中から銃弾ばらまいてる様な音になり色々恐怖が限界だった。
やばい、母親が起きる!合わせたら後々絶対確実に面倒になる。
あと、なにより女装がバレかねない。これが一番の恐怖だ。
「待て待て待て!わかった!出るから!出ますから!」
慌ててドアに出ようとするも、階段から転げ落ちる。
「なんだい?朝からうるさいねぇ。ミンチにするよ?全く……。」
この、「ミンチにするよ?」が口癖の暴力を固めたような太っ……ふくよかな女性が、ウチの母親。朝一番から殺伐としすぎでしょ我が家は。
「い、いや、ちょっと少し、色々ありまして……。」
「はっきり喋んな!ミンチにするよ?」
「ちょ、ちょっと、テンション上がりすぎた友達が朝から来ちゃったみたいで……。」
「仕方ないから上げてやんな!でも、次来たらミンチにするって伝えておくんだね!」
このままでは、世界ミンチ大戦が始まってしまう。レイナさんも刃物好きだったし。
「わ、わかった!ちょっとまってて!?」
「朝飯用意しとくから、さっさと食っていくんだね!」
その声を聞きつつ、慌てて外に出る。最悪の想定としては、うちの妹とレイナさんが遭遇し、そこからの「その妹、消しますわぁ!」だ。
うちの妹は救いようのないトンチンカンだが、消しますわぁされるほど悪いやつじゃない。
「い、今出るから待ってて!」
「わかりましたわぁ!」
確認したのは今頃だが、やっぱり尋ねてきたのはレイナだった。ていうか、何しに来たんだろう。
「お姉様の朝ごはんを作りぶふっ!」
とりあえず余計な言葉が飛び出したので口を塞ぐ。
「ふぁふぃふふんへふふぁ!」
「とりあえず、女装のことは、黙れ。」
割と
「おっ、お兄様の嫌がることをするつもりはありませんわぁ。」
「よし、それでいい。」
それなら本当は付きまとわないでほしいけど、それで他の人が消しますわぁされたら困る。
「それで、何をしに来たって?」
「お兄様の朝ごはんを作りに来たんですわぁ。」
「そうかそうか。男子の姿の俺は嫌いだから帰りたいのな?」
「ちがいますわぁ!」
聞かなかったことにはしてくれないようだ。
「お兄様の朝ごはんは、愛妹の手作り味噌汁と相場が決まっておりますわぁ。」
「決まってねぇよ、なんの相場だよ。」
そしてどこの相場だよ。
「にしても、この家にはお兄様のお母様以外の女の匂いがしますわぁ。」
匂いでわかんのかよ。家の外から。怖ぇよ。
「きっ、気のせいだ。それより、ミンチにされちゃうから早く帰りな?」
「カヅキィ、今日だけは特別に、お友達にも朝ごはん食べて言ってもらいなぁ!」
「はいですわぁ!」
余計な時に余計なことを言う母親だ。ユイに何かあったらどうするつもりだ。だが、もしかしたらぎりぎり起きてこないかもしれない。それに賭けよう。
「お兄ちゃんおはよー。なんか早く起きちゃった。」
知ってた!こうなることは何となく知ってたよ!
そーっと隣りをうかがうと、
「おじゃましますわぁ。」
といったレイナがキレたり、切ったりする様子はない。
「あれ、お前暴れたりしないのか?」
安心していいならその材料が欲しくなった俺は、思わず聞いてしまう。すると、レイナは大きく溜息をつき、
「全然わかっていないですわぁ、お兄様ぁ。
ワタクシはお兄様に幸せになってほしいだけですのよぉ。」
とのことだ。付きまとわれるのは本気で怖いし、やめてほしいということは全然わかっていないらしいですわぁ。……はぁ。
もちろんそんなことで、地雷を踏む、というよりも地雷原へのダイビングなどしたくないので絶対に言わないが。
「しかし、女嫌いで有名なカヅキがまともに話せる女子ができるとはねえ。
カオリちゃんが限界かと思っていたよ。」
母親の中でのカオリの立ち位置は少し気になったが、今はおいておこう。
「いや、これはそういうんじゃないから。」
きちんとしとかないと、刃物なりなんなりがこんにちはするのだ。
「お兄ちゃんも高校デビューってやつ?」
まあ、高校入って言って人生初の女装はデビューしたけど!そうじゃなくて!
「このお方は、私の運命のお方ですわ!」
何を言っているんだこいつは。
女子(一名は子じゃないが)どもがきゃいきゃい言っている間にさっさと撤退させていただく。いつか、カオリが置いていった二階の部屋から脱出用のロープが役に立つはずだ。あいつのくれるものは、大抵くだらないところで役に立つ。
こっそりと二階へ上がり、部屋の鍵を閉め、急いで女装する。忙しいわね、もう。
ロープを部屋の中の机に括り付け、排気口からロープを入れる。窓から垂らすと、泥棒にやられるからだ。
さてと、おさらばしますか。
地面に下り立ち、学校へ向かって歩く。最寄駅から、やっとの思いで電車に乗る。
「朝一番から疲れる奴だ。」
「そんなこと言わないでほしいですわぁ。」
「ひぇっ。」
いるよ。またいるよ。どうなってんのこいつ。
学校に近い駅に着くと、ようやく別れられ……あれ?
「おい、こっちは男子校だぞ。ついてくるな。」
「お姉さまへの愛のためなら、どこまででも行きますわぁ!」
そういう問題じゃないでしょうが。
「お前は、カオリと同じ女子高なんだろ?」
「そんなことより、お兄様の隣のクラスに通いますわぁ!」
カオリのことは「そんなこと」なのか。ぜひ交代してほしい。
「おまえ、女子だってバレたら、きっと大変だぞ。」
「お姉さまこそ、ご自分の格好を意識した方がいいですわぁ……。」
あれっ?なんで俺が引かれているんだろう。俺は別に鈍感系主人公ではない。というか、男子校でそんなことを気にする必要はないだろうに。
「とにかく、誰も刺さない、切らない。いいな?」
「刺さない、切らないですわねぇ。もちろんですわぁ!」
レイナの手持ちバッグの中に鞭のようなものが見えた気がするので、
「あと傷つけない。」
と付け足したら、後ろ向いて舌打ちしやがった。
「じゃあせめて、ここで私がぼこぼこになるまで、叩いて、傷つけてほしいですわぁ!」
駅で大声で変なこと言いなさんな。
俺は武器をすべて捨てさせると、学校に行った。駅のごみ掃除の方々、ごめんなさい。
教室にはすでにアオイとユウキがおり、俺が
「おはようございます……。」
と教室に入ると、駆け寄ってきた。
「カヅキ、顔が真っ青よ?大丈夫?」
「昨日もそんな調子だったろ、保健室いくか?」
二人とも、俺にはもったいないほどいい友人だ。丁重にお断りし、少しだけでも寝かせてもらう。
この二人は、おそらく俺とかかわっているとレイナに狙われる。そこで考えたのだ。これ以上気づつけられない人なら、レイナを追い払うのに協力してもらえるのではないかと。適任がいるじゃないか。
「加藤センパーイ。いるんですよねー。」
体育倉庫のドアを開け、大声を出す。
「ウチの正体わかってまでまた会いに来るのはこの7年間でお前だけだぞ、カヅキ。」
気が付くと隣に先輩が立っている。
「ひょえっ。」
心臓に悪い。
「お前、度胸あるのかないのかわかんねーよなぁ。それでも男かよ。」
「いや、それより先輩、お願いしたいことが。」
「あぁ?霊にお願いすることの意味を分かっているんだろうなぁ?」
「俺も霊の仲間入り的な……?」
「供えの花を捨てておけ。ありがたい物ではあるが、あの花、数年前からあって汚いんだよ。」
なんと簡単な取引なんだ。
「……わかりました。それで、お願いの内容なんですが……。」
頭っから疲れさせられまくった高校生活だが、俺は少しでも平穏に暮らしたい。
俺は、作戦を先輩に話した。
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