男子校に入学したはずなのに、身体計測でドキドキする件
俺は、朝起きたら、いつもなら真っ先に制服に着替え、朝食をとってから、学校に出る。
だが、高校生活二日目。早速そのルーティーンが崩されつつあった。まず先に朝食をとる。その後こっそりと女装をし、妹と母親が起きだす前に家を脱出する。
うちは、母親と妹との3人暮らし。父親は私立高校の教員をしており、家が少しでも職場に近いほうがいいから、とかいう理由で東北に家を借りている。
さて、はじめましての方に少しだけ解説しよう。なぜ俺が女装なんてしているか。
それは、うちの担任の新任の教師のためだ。うちの学校は男子校であり、ノリとか、勢いがすごい。
そんなところに新卒の教師を入れてみたら、トラウマになって不登校になり、そのまま退職、不幸な人生を歩むに決まっている。
だから、その先生が学校の空気に慣れるまではみんなが女装で過ごし、少しでも雰囲気に慣れてもらおうという粋な計らいなのだ。
さて、昨日買った包帯で、指の補修も完了。
たぶん、三日ぐらい放置すれば治ると思う。
薄く化粧をし、さらにこれまたコスプレショップで買った女装用のコルセットをつける。
これがびっくりするほど高くて、2万近くかかった。
カオリが笑いながらお金を足してくれなかったら、今頃母親相手に「女装が原因で……」と破産申告をし、大爆笑されていたところだろう。もっとも、カオリに大爆笑されたが……。
さらに、お金を出してもらった例として、また進化した女装姿をカオリに見せることになっている。勘弁してほしい。
今日もまた早い時間にこっそりと家を出ると、昨日の公園に向かう。今日も、昨日の通りカオリはいた。
……同じ制服の女子とともに。
俺の恥をこれ以上広めるためか?
……うん。逃げよう。
が。くるっと後ろを向いたとき、ちょうど向こうがこちらを向いたらしい。お前は野生の獣かよ。
「カヅキ?」
ふいにかけられたその声に、思わず体が、主に指がびくっと反応してしまう。指に刷り込まれた記憶というのは恐ろしい。
「こっちこっち!」
もちろん、陸上部のあいつから逃げ切るすべなど俺は持ち合わせていない。
すごすごと公園に向かうと、そこにいた女子が、
「こちらは?」
とか聞いている。
「こいつは、さっき話したうちの幼馴染のカヅキ。一応男だが、最近は女。」
「なんだその言い方は、昨日と今日だけだぞ!」
「どうせ明日もやるんでしょ。」
「まあ、たぶん、そうなると思うけど……。」
「じゃあもう最近でいいじゃん。」
なんか違う気がするけど、上手く反論できないし、また指折れれても嫌なので何も言わないでおく。
「そ、それで、こっ、このお方様は!?」
やはり、カオリ以外の女子には緊張で声が上手く出ない。
「あんた、また女声になってるぞ。いっそ本当に女でいいんじゃない?」
「いや、それはよくない!俺は今のところ男だ!」
こいつ相手だと大丈夫なんだが……。
「今のところって言ってる時点でかなりグレーじゃん。」
「そ、それで、いらっしゃる、どちら様、この、後ろに、おかたさま、お前のっ!」
「語順がおかしいって。あんた、女声上手いんだから、同性だと思えばいいんじゃない?」
「むっ、むっつり、じゃなくて、無駄っ!じゃなくて、むりっ!」
「ハイハイ。この子は同じクラスの鈴木レイナ。あんた程じゃないけど、男子が苦手なんだって。今のあんたなら大丈夫かなーと思って。」
「よ、ろよしくおねがいすましですわぁ!」
なるほど、似てる。
「まあ、今日は顔合わせ程度だから、得に用事とかはないんだけどね。一応、役に立ってくれてありがと。」
こいつから礼が出るとは、明日の天気は隕石か?
「いや、そんなことはいいよ気にしなくて。」
「ほんと女装が上手いわね。まあいいわ。うちら、1限身体計測なの。先行くね!」
そういえば女子校の方は始まるのが早いんだったか。だが、返事をする頃にはいなくなっていた。
今日も学校の最寄り駅で誰かとぶつかるんじゃないかと、きょろきょろしていたら、偶然ユウキに会った。
「急がないと、遅刻しちゃうわよ。」
とせかされ、手を引かれるままに学校へと向かう。なんか違う気がしたが、自意識過剰だといけないので口にはしなかった。
一限は、学校のガイダンス的な内容。どんな部活がある、とか、学校の地図はこうだ、とか。受験できた時と大幅に違う気がしたが、大幅に改装したのだろう。
新任の先生は緊張しているようにも見えたが、俺と同じように少しだけ明るく染めたポニーテールを揺らし、頑張っていた。この人、ここが男子校だって気が付いてないのかな。
一限終了のチャイムが鳴り、先生が、
「じゃあ、ホームルームはここまで、次は身体計測ですので、体育着に着替えておいてくださいねー!」
みんなの「はーい」という雑な返事を聞きつつ、先生は部屋を出ていく。みんな女声上手いな。
そんな、女子っぽいみんなの中で着替えるのが、急に恥ずかしくなってきた。
しかし、みんなもう着替え始めている。どこで買ったのかちょっと気になるほど過激なブラが宙を舞う。おそらく、スポーツブラに着替えるのだろう。
慌てて目を閉じる。何やっているんだ俺。ここは男子校!みんなはあくまで女装だぞ!男子とまで話せなくなって、本格的なコミュ障になったらどうする!
そうだ。それなら、緊張しないように、トイレで着替えよう。体育着をひっつかむと、目を閉じたままみんなをかき分けトイレへと走った。
何とか着替え終わり、保健室についた。みんなもうついている。
「遅いよ、危ないなあ。」
おそらくクラスで最も背が高いアオイが、心配そうに言ってくる。
「ごめん、お手洗いに行っていて……。」
「そういえば昨日も体調悪いって言っていたもんね。予備日にしたら?」
「そんなのあったんだ。来年からはそうするかもね……。」
「そうだね。」
微妙に身のない会話をしつつ、二限開始のチャイムを聞き流した。
身体計測は、それぞれのカードに記入し、のちに先生が集めるシステムだった。プライバシー保護の観点からか、個室で、自分で測るらしい。
「身長168センチ、体重57キロか……。」
ほぼほぼ高1男子の平均だが、このクラスでは背が高いほう、というか、俺より高いのなんてアオイぐらいしかいない。
そのアオイも、おそらく170ぐらいだろう。
身体計測も無事終わり、制服への着替えもトイレでした。
なんだか、精神的にどっと疲れが来たな。きっと、朝にカオリの奴が女子なんかと合わせるせいだ。
今日は幸い、あと一時間のホームルームで返れる。さっさと帰って寝よう。
「身長体重、いくつぐらいでした?」
「女子に体重を聞くものじゃないよ。」
さすが、女装が徹底しているだけあるな……。
「身長は、151センチ去年から2センチも伸びたわよ。
でも、やっぱりカヅキとかアオイみたいな、すらっとしているのあこがれるわ。」
「身長は低くても、女の子っぽくていいと思うけど?」
ここはさっきやられた仕返しに、徹底的に女子として扱ってやる。けれども、
「そうかな?ありがとう!」
と、見事に
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