凍てついた洞窟
「っだぁ――!」
そして一週間後のU.P.C。アサヒは書類の山を前に怒りの叫びをあげていた。
「どうなってんだよ!また猫探しの依頼じゃねぇか!?」
「まぁそうなるよねー。いいじゃん、こういうのの積み重ねは大事だと思うよ?」
「限度があるだろ……これで15件目だぜ?うちは何でも屋じゃねぇっての……」
結成したはいいものの、来る日も来る日も舞い込む依頼は猫探しや落とし物探しなど、未確認現象とは言えないものばかり。
「千里の道も一歩から、ってねー……ん?」
頭を抱えたアサヒの様子にけらけらと笑うカグヤ。そんな時、ドアに取り付けられた鐘が鳴った。一斉に目をやる二人。
「あの……」
入ってきたのは、黄色いドレスに身を包んだ妙齢の婦人。
「あれ、カオリさんじゃない。どしたの?」
彼女の名はカオリ。この組織ができた初日に依頼を持ち込んできた女性だった。
「また猫ちゃん、逃げ出したんですか?」
無論その依頼とは、猫探しだったのだが――どうも様子がおかしい。
黙りこくったまま俯くばかりで、その顔は暗い。そんな彼女の姿は、二人に「何かあった」と察せさせるのに十分であった。
二人は頷きあい、彼女へ向き直る。
「よければお話、聞かせてくれませんか?」
「はい……」
※
「うう~、さむ~」
体を縮こまらせて、カグヤがつぶやく。
「しっかし、こんなもんが一晩ちょっとでな」
アサヒが壁面を触りながら返す――その壁面は、見事に凍り付いていた。
天井からは氷柱が垂れ下がり、冷たい空気が満ちたそこはまさに――「氷の洞窟」。
彼らU.P.Cは、その調査に訪れていた。
――カオリの依頼は、こうだった。
数日前のこと。冒険者である彼女の夫、レイスは仲間とともに、洞窟に巣くうモンスターの討伐へと向かったらしい。
しかし、彼らが帰ってくることはなかった。
そしてその同日。何の変哲もないこの洞窟が、凍り付いてしまった。
ギルドからも調査隊を出したものの、行方は分からず。3日目を境に捜査は打ち切られてしまったらしい――
「……それはそうとなんであんた、平気そうなのよ」
カグヤが文句を口にする。
「さぁ?」
カグヤの不満は、彼のその格好にあった。上着を着込んだ彼女に対し、アサヒはいつものジャケット姿。
当初は彼も寒冷地用の装備でいた。
が、到着して早々、「いらねぇな」と脱いでしまったのだ。
その脱いだ分の上着は今、カグヤが着ているのだが――それでも寒さを塞ぎ切れていない。
かたかたと震える彼女が、アサヒの体をつつく。
《おそらく、私と一体化しているせいだろう》
ソルが二人にテレパシーを送る。
「何よそれ、ずるーい」
「って言われてもなぁ」
頬を膨らませてより一層つつく力を強める彼女にたじろくアサヒ。
「ん?」
そんな時。彼は足元に違和感を感じ、視線を向ける。何かを蹴ったようだった。
「これって……」
「コウモリ?」
彼が拾い上げたのは、小さな塊――それは凍てついたコウモリだった。
《まるで何者かから逃げてきたようだ……》
翼をはばたかせたままの姿で凍り付いたそれに、何者かの影を感じ取るソル。
そして次の瞬間。
「危ない!」
洞窟の奥から、強烈な冷気が吹きつけた!咄嗟にカグヤを抱えて地面に飛び込み、しゃがみ込むアサヒ。
「あれは!?」
カグヤが洞窟の奥を指さす。そこに佇むは黄色い目を光らせる、手をかざした人型の影――
「……」
胸に水色の結晶体を輝かせ、右腕に鋭い針、左腕に縦長の六角形をした氷の盾を身に着けた人型の異形。
それはまるで――
《エヴォリュート……!?》
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