凍てついた洞窟

「っだぁ――!」


そして一週間後のU.P.C。アサヒは書類の山を前に怒りの叫びをあげていた。


「どうなってんだよ!また猫探しの依頼じゃねぇか!?」

「まぁそうなるよねー。いいじゃん、こういうのの積み重ねは大事だと思うよ?」

「限度があるだろ……これで15件目だぜ?うちは何でも屋じゃねぇっての……」


結成したはいいものの、来る日も来る日も舞い込む依頼は猫探しや落とし物探しなど、未確認現象とは言えないものばかり。



「千里の道も一歩から、ってねー……ん?」

頭を抱えたアサヒの様子にけらけらと笑うカグヤ。そんな時、ドアに取り付けられた鐘が鳴った。一斉に目をやる二人。


「あの……」

入ってきたのは、黄色いドレスに身を包んだ妙齢の婦人。

「あれ、カオリさんじゃない。どしたの?」

彼女の名はカオリ。この組織ができた初日に依頼を持ち込んできた女性だった。

「また猫ちゃん、逃げ出したんですか?」


無論その依頼とは、猫探しだったのだが――どうも様子がおかしい。

黙りこくったまま俯くばかりで、その顔は暗い。そんな彼女の姿は、二人に「何かあった」と察せさせるのに十分であった。

二人は頷きあい、彼女へ向き直る。

「よければお話、聞かせてくれませんか?」

「はい……」



「うう~、さむ~」

体を縮こまらせて、カグヤがつぶやく。

「しっかし、こんなもんが一晩ちょっとでな」

アサヒが壁面を触りながら返す――その壁面は、見事に凍り付いていた。

天井からは氷柱が垂れ下がり、冷たい空気が満ちたそこはまさに――「氷の洞窟」。

彼らU.P.Cは、その調査に訪れていた。


――カオリの依頼は、こうだった。

数日前のこと。冒険者である彼女の夫、レイスは仲間とともに、洞窟に巣くうモンスターの討伐へと向かったらしい。

しかし、彼らが帰ってくることはなかった。

そしてその同日。何の変哲もないこの洞窟が、凍り付いてしまった。

ギルドからも調査隊を出したものの、行方は分からず。3日目を境に捜査は打ち切られてしまったらしい――


「……それはそうとなんであんた、平気そうなのよ」

カグヤが文句を口にする。

「さぁ?」

カグヤの不満は、彼のその格好にあった。上着を着込んだ彼女に対し、アサヒはいつものジャケット姿。

当初は彼も寒冷地用の装備でいた。

が、到着して早々、「いらねぇな」と脱いでしまったのだ。

その脱いだ分の上着は今、カグヤが着ているのだが――それでも寒さを塞ぎ切れていない。

かたかたと震える彼女が、アサヒの体をつつく。


《おそらく、私と一体化しているせいだろう》

ソルが二人にテレパシーを送る。

「何よそれ、ずるーい」

「って言われてもなぁ」

頬を膨らませてより一層つつく力を強める彼女にたじろくアサヒ。


「ん?」

そんな時。彼は足元に違和感を感じ、視線を向ける。何かを蹴ったようだった。


「これって……」

「コウモリ?」

彼が拾い上げたのは、小さな塊――それは凍てついたコウモリだった。


《まるで何者かから逃げてきたようだ……》

翼をはばたかせたままの姿で凍り付いたそれに、何者かの影を感じ取るソル。

そして次の瞬間。


「危ない!」

洞窟の奥から、強烈な冷気が吹きつけた!咄嗟にカグヤを抱えて地面に飛び込み、しゃがみ込むアサヒ。


「あれは!?」

カグヤが洞窟の奥を指さす。そこに佇むは黄色い目を光らせる、手をかざした人型の影――


「……」

胸に水色の結晶体を輝かせ、右腕に鋭い針、左腕に縦長の六角形をした氷の盾を身に着けた人型の異形。

それはまるで――


《エヴォリュート……!?》

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