第五話 結成!U.P.C! ~プロローグ~
――王都セントラリア。その名の通りこの星の中心に位置するこの街は、あらゆる大陸とつながるこの世界有数の大都市であった。
情報が。商品が。人が。――様々なモノが行きかうここを、アサヒたちは訪れていた。
「アサヒー、そっち持ってて」
「おう」
そして、彼らは一つの家屋の屋根に、何やら看板のようなものを取り付けていた。
昇る太陽の中に逆三角形を描いたシンボルマークには、こう書かれていた。
『U.P.C 』と――
第五話
結成!U.P.C!
氷結怪魔人 レイス
登場
※
「ねぇ」
「ん?」
数日前。きっかけは、カグヤの一言だった。
「あたしたち、そろそろ何か始めない?」
「何かって?」
「自分たちの生活は自分たちでなんとかできるようにならないと。つまり仕事よ」
セントラリアに何とかたどり着いたアサヒたちだったが、彼らには異世界人であるが故に身寄りも何もない。ミズキやユウキの厚意で今の生活には困っていなかったが、このままではまずいと思い始めていた。
「あー、確かにな」
アサヒが同意する。彼もまた、このまま世話になり続けてはいられないと考えていたのだ。
「でも、何するんだ?俺たち、下手に普通の仕事できねぇぞ?」
「うーん、そこなんだよね。あちこち動き回れないと厄介だし」
彼らには大きな目的がある――それは、次元奴隷商を壊滅させることだ。
本来ならカグヤと再会できた時点でもう、アサヒがこの世界に留まる理由は無い。
あの時一緒に連れ去られた人々も、青い戦士――おそらくはルナだろう――の手で、地球に帰されたそうなのだから。
ソルの力を使えば、地球への帰還など造作でもない。すぐに平和な日常へと戻ることができるだろう。
けれど、それで本当にいいのだろうか。
操られたヌシ様。わが子を人質に悪事に加担させられた魔鳥の母親。それに今この時も奴らに連れ去られている人々もいるだろう。
自分たちが助かったから、苦しむ命を見捨ててはいさよならなんて、あまりにも無責任すぎるのではないのか。
そこで彼は決心した。帰るのは次元奴隷商を叩き潰してからだ、と。
それがエヴォリュートという『力』を手に入れた自分の責任だと。
「情報を集められて、自由に動き回れるようなもの、か……」
「いっそ僕たちみたいに、冒険者ギルドに所属するのはどうですか?」
「ユウキさん……無理ですよ、それ。忘れたんですか?」
ユウキの提案をミズキが却下する。
何故、アサヒたちが冒険者ギルドに所属できないのか――?
その理由は、ギルドへの登録資格だった。
それは、『武器』、もしくは戦闘に要することができるだけの『魔法』が扱えるのかどうか。
危険なモンスターを相手取る以上、どちらかを扱えるのは最低限必要な条件だ。
まず『武器』だが、ただ買えばいいという訳ではない。
武器を所有するには、登録が必要なのだ。
一般人でも護身用に短剣などを持つことは許されている。
しかし、それ以上――モンスターに渡り合えるほどの剣や槍などを所有するには、ギルドを通して国へ申請しなければならない。
当然、その武器を人間に振るうようなことがあれば重罰だ。
アサヒたちの目的は次元奴隷商――生物兵器相手ならモンスターと言ってもまだごまかせるが、構成員相手だとそうはいかない。
異星人とはいえ、奴らの姿はさほど人間と変わりないためだ。戦っているところを見られれば大問題だ。
加えて武器を登録するにも扱うにも、魔力が必要なのだ。
この世界に住む人間は皆、大なり小なりの『魔力』を体に宿して生まれてくる。故に出生時、戸籍情報とともに魔力の情報も国へ登録され、管理される。
ギルドに所属している者は皆、その情報と武器とを紐づけて許可証をもらい、武器をギルドへ預けることとなる。
そして使用時、武器はギルドの保管庫から所有者のもとへと魔力を用いて転送される。
そのため、誰がいつ武器を使用したのか、という情報はギルド側で知ることができるのだ。
依頼を受けていない冒険者が武器を使用した場合、ギルドの検証員は武器に付着したわずかな血痕や肉片などから『何に使われたか』を調べ上げる。
そして本人を呼び出して証言させ、照らし合わせるのだ。
「えっ、じゃあ前提からしてダメじゃん」
カグヤの言葉は的を得ていた。
異世界人であるアサヒたちは、そもそも魔力なんて持っていない。
故に武器の所有も、魔法を扱うこともできない。
冒険者ギルドへの登録は不可能なのだ。
さらに彼らにはもう一つ、大きな問題があった。
それは――『エヴォリュートの力を公にはできない』ということだ。
シールドン。アイアンス。ブラード。今まで戦ってきた生物兵器は、この世界で言う『モンスター』の基準からはかけ離れていた。
以前酒場の主人に聞いたように、この世界のモンスターはすべて、まだ人間の手に負える範疇――あくまでも『生物』なのだ。
しかし生物兵器は違う。討伐隊を幾度となく全滅させたブラードがいい例だ。
この世界の人間にはまだ、奴らを倒せるだけの戦力はない。例え軍の全戦力を導入したとしても、生物兵器には敵わないだろう。
文字通り『次元が違う』のだ。
そんなものと渡り合い倒してしまうエヴォリュートは、この世界にとって異質な存在。
それを公にしてしまえば最悪の場合――
「俺たちが追われる側になる、ってことか」
そう。アサヒたちもまた危険とみなされ、命を狙われる可能性があったのだ。
「ええ。だからその力はあまり大っぴらにしないほうがいいかと思います」
「ああ……」
ミズキの言葉に頷くアサヒ。
「うーん、ギルドに所属できないとなると、どうしたものか……」
皆が頭を悩ませる中。
「あっ!」
カグヤが何かを思いついたように叫び、膝を叩いた。
「何か思いついたんですか?」
「うん!だったら、作っちゃえばいいのよ!」
彼女の提案――それは怪奇現象を専門に調査する団体を作ればいい、というものであった。
ギルドが警察なら、こちらは探偵のようなものと言えば近いだろうか。
「なるほど、あくまで一般の人々から依頼を受けて調査、解決するだけの団体に見せかけるわけですか」
「そうそう。武器は持たないから目をつけられにくいし、何より自由に動けると思うんだ」
「けどよ、許可下りんのか?」
「それは――ユウキさん」
「え?」
アサヒの言葉にミズキはユウキの方向を向いて、にっこりと笑う。
「貴方の家のコネで、何とかしましょう」
「そんなぁ!?」
「えっ、ちょっ、どういうことだ!?」
二人にしかわからない会話についていけないアサヒが、思わずツッコミを入れる。
「何を隠そうユウキさん、実は結構いいところのお坊ちゃんでして。家を継げるような強い男になれ、って言われて冒険者してるんですよ」
「へぇー……」
「あ、あんまり家のことは言わないでくださいよ……恥ずかしいです」
「というわけで、お願いしますね」
えげつない無茶ぶりを見た――アサヒはそう思ったが、言葉を飲み込んだ。
そして話は現在へと至り、ついに。
『Unknown Phenomenon Chasers』通称『U.P.C』が、結成された――!
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