風繰る魔鳥

「おわっ!」

突然船が揺れ、転びかけるアサヒ。どうやら急旋回を試みたらしい。彼の見た竜巻を、船の乗組員たちも確認していたのだ。

船は方向を変え、竜巻を右から大きく迂回するように移動し始める。しかし。


「ミズキさん!」

「ええ!」

彼はある違和感に気づき、ミズキに向かって叫ぶ。

彼女も――いや、この場にいるすべての人間が同じことを考えていた。


――あの竜巻は、意志を持っている――


と。


「む、向かってきます!」

ユウキが叫ぶ。竜巻は進路を変えた船に合わせるかのごとく右へ移動していた。


「俺が何とかします!」

アサヒはそう言い残してソルに姿を変え、飛び立つと竜巻に向かって一直線。

そして50メートル程進んだそこにいたのは――


「鳥!?」


竜巻が掻き消え現れる、体長30メートルを優に超す怪物――大魔鳥ウィンザード。


「キィ――ッ!」

鋭い嘴を開いて叫ぶその様子は、威嚇であることは明らか。

ソルは戦闘態勢を取り、魔鳥を見据える。

それは相手も同じ。黄色い目を光らせ、敵を睨みつける。

今ここに戦いが、始まった。


「!」

先に仕掛けたのはウィンザードだ。その両翼を前方へ力強く振るうと、水面と水平方向に二つ、竜巻が発射され直進する。

ソルは上昇してそれをかわし、すぐさま右拳を突き出す。

(シャインメーザー!)

拳が光を放ち、頭部に向かって一筋の光線が放たれた。

だが魔鳥の眼が輝いたその瞬間、頭部周辺に円形の魔法陣が出現し阻まれる。

《器用な真似を》

(鳥頭ってわけじゃないみてぇだな!)


「トァー!」

ならば、と近接戦闘に打って出るソル。相手を大きく飛び越し、背後を取ると炎を纏った飛び蹴りを浴びせようとする。

「ウッ!?」

しかし、そう簡単にはいかない。再び翼を振るうと海面が波打ち、水を伴った竜巻がソルを襲う。

加速をつけてしまっていた彼はまともにそれを喰らってしまい、大きく吹き飛ばされた。

(くそっ!)

10メートル程吹き飛ばされたのち、回転とは逆方向に力を入れることで何とか脱出するソル。目線を下へやると魔鳥はその場をすでに離れ、どこかへと向かっていた。


《まずいぞ!》

(ああ、わかってる!)

ソルの警告にアサヒが答え、二人は全速力で下降、後を追う。

怪物の行く先は――アサヒたちの乗っていた船だ。


「!」

追う者の気配に気づいた魔鳥はその方向を見やると一旦停止し、振り向きざまに左翼を横へと振るい、鋭くとがった羽の弾丸を複数打ち出した。

(うぉっ!)

攻撃をかわし追跡を続けるソルだったが、なおも背後から聞こえる風を裂く音に振り向く。

《追尾弾か!》

小さな刃はそれぞれが別の意思を持つかのごとくバラバラに拡散、再び標的目掛けて飛来する。

「タッ!トァ!」

それを上下左右にかわしつつ光線や拳、蹴りで叩き落とすものの、如何せん数が多すぎる。ソルは完全に足止めを喰らってしまった。

そんな彼を横目に、魔鳥は悠々と船に向かって再度向かい始める。


(くそ、待ちやがれ!)

アサヒが叫んだその時だった。


ドォン!

轟音が響く。

右方向から放たれた何かが直撃したウィンザードの体を、爆発が包んだ。全く予想だにしなかった方向からの攻撃に怯む魔鳥。


ドォン!ドォン!

怪物が息つく暇もないほどに、次々と爆発が続く。


《砲撃……?いったいどこから》

全ての羽に対処し終えたソルが、魔鳥への攻撃――船から放たれたであろう砲弾の出所を探る。

《あれか!》

少し遠くへ視線を向けると、そこには彼らが乗っていたものとは違う、一隻の船が見えた。

その船は次々に砲弾を打ち出し、ウィンザードに直撃させ続けている――


(……嘘だろ)

アサヒは驚愕していた。

その射撃精度に、ではない。もっと大きな衝撃が彼を襲っていた。それは――

《アサヒ、あそこにいるのはまさか……》







船の最前方に腕を組み立つ一人の人物。

緑と青を基調とし、金の装飾がついたコートを着た一人の女性。

長い黒髪をポニーテールにまとめ、口元に自信に満ちた笑みを浮かべるその顔を、彼はよく知っていた。

忘れもしない、忘れようがない。あの人物の名を、彼はつぶやいていた。







(カグヤ……!?)







アサヒがこの世界に来た最大の理由である彼女が。

次元奴隷商に連れ去られたはずの彼女が。

テルツキ・カグヤが、そこにいた――

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