共闘、二人の勇者
「タァッ!」
掛け声とともに先行したのはソル。駆け出した彼は真正面からブラードへと突っ込んでゆく。
振り下ろされた鎌を両手でしかと受け止めると、渾身の握力でそれを握りしめる。
「ドァ!」
相手の腕がことを確認したのち、ルナがすぐさま跳躍。空中で1度回転し、音もなく上半身と下半身との付け根の上に立つ。
ブラードはまとわりつく羽虫を叩き落とすかの如く上半身を伸ばし、顎をがちんと閉じる。
しかしそこにルナの姿はない。
「ふっ……こっちだ」
ブラードの眼がぎょろりと動く。視線の先には、いつの間にやら空中へと避難していた彼がいた。
魔獣は上半身を伸ばしそれを追う。
「どうしたどうした?」
ルナは誘うように体の周囲を飛び回り続け、ついには――
「ギ……ギギ……」
際限なく伸ばし続けた上半身が、全身に絡みついてしまった。
「お得意の戦法を喰らった感想はどうだ?……そうか、不満か」
威嚇するブラードをよそに、ルナは視線を地上へ向ける。
「ソル!」
(おっしゃ!)
《うむ!》
合図の声で手を鎌から離し、3度バク転。両の拳を打ち合わせ、右手に炎を纏わせる。
そして再び前方へ飛び出し、腰を大きくひねって振りかぶる。
(バアァァ――ニングッ!ナアァァックル!)
叫びとともに放たれたアッパーカットが、腹部へと直撃。その巨体が地を離れ、空高く打ち上がった!
「ドァッ」
空中に待機していたルナが頭頂部の装飾に手をかざす。その手に光が集まり、次第に形を作ってゆく。
フォンッ!
輝く満月を背にした彼の手元に風切り音を鳴らして現れたのは、巨大な半月状の刃。しかしそれは光の剣ではなく、実体を持った鋼鉄の剣だった。
「高熱が効かないのなら、質量で切り裂くのみ!」
「ドアアッ!」
彼は剣を構え、空を舞う。そしてブラードの周囲を飛び回りつつ、その体を切り裂いてゆく。
「タアッ!」
それを見ていたソルは全速力で空へ飛び、直進。すれ違いざまにアイコンタクトをかわした二人は、互いに頷き――
《ゆくぞ、ルナ!》
空中で急停止したソルが両腕を掲げ、待機。
「いつでも来い」
対するルナはそこへ下降。
「タアァ――ッ……」
彼の両足をしっかりと握ったソルは上半身を大きく反らし、力を溜める。
そして力を溜め切ったその瞬間。
「タアァーーッ!」
起き上がりこぼしの如く、しかし確かな勢いを乗せ、上体を戻し手を離す。
投げ出されたルナは縦方向に回転しつつ、前方に向かって直進。
その回転は次第に勢いを増してゆき、ついには――
その体は回転する一つの刃――風車のごとき姿――となり、標的に向かって一直線に突き進む!
「シャ、シャアア……」
怯むブラード。しかしその勢いは止まらない。
そして――
「ドアッ!」
一閃。ブラードの巨体は、真っ二つに切り裂かれた!分かたれた体は大爆発を起こし、闇夜を明るく照らす――
「やったぁ!」
戦いの様子をただ見つめるばかりとなっていたミズキが、歓喜の声をあげる。
満月を背に立つ二人の勇者はそれに応え、小さく頷く。
戦いは終わったのだ。
※
「はぁ……はぁ……これでよかったんだよね、兄さん?」
「ああ……弟よ。くくっ、やはり俺たちに悪事は働けぬようだ」
同じころ。修道院の床に横たわる二人の男の姿があった。彼らはすっかり息を切らしていたが、その顔に疲れた様子はない。むしろ――清々しささえ感じさせる、そんな表情だった。
がははは。がはははは。
けたたましい笑い声が、いつまでも夜の修道院に響き渡っていた――
※
(ありがとう。ルナ……だっけ?あんたのおかげで助かったぜ)
《君がいてくれれば心強い。これからも一緒に、奴らと戦おう!》
二人はそう言い、ルナに歩み寄る。
「……」
しかし彼は、沈黙したまま動かない。
(何だよ、照れてんのーー)
そんなことを言いながら、ルナに手を差し出すソル。
しかし次の瞬間、信じられないことが起きる。
なんと――!
ピシュインッ!
「グアッ!?」
その手から伸びた光の刃が、ソルの胸を切り裂いたのだ――!
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