第三話 月夜のツルギ ~プロローグ~

「ううっ……ああっ!ぐあぁぁーーっ!」


ベッドに横たわり、悲痛な叫びをあげながらのたうち回るアサヒ。

その全身には、紫色のシミのようなものがじわじわと広がりつつあった。


何故、彼がこのような状態に陥ったのか?それは数時間前に遡る――


第三話


月夜のツルギ


劇毒刃獣ブラード

登場



「よう、あんちゃん。何にする?」

「んー、じゃあコレひとつで」

「あいよ」


――5時間ほど前、朝。情報取集と腹ごしらえのため、アサヒは小さな町を訪れていた。

西部劇に出てきそうな雰囲気のその町にある酒場は、多くの人々で賑わっていた。


「ほれ、おまちどう!」

「っしゃ、いただきます!」

アサヒが注文したのは、『巨鳥の足焼き』と呼ばれる料理。

見た目そのものは地球の鶏肉の足部分と何ら変わりはなかったが、そのサイズは段違いに大きい。

こんがりと焼き上げたそれは、食欲をそそる匂いを放っていた――


《こんな時間からそんな濃いものを食べて大丈夫なのか?》

(次いつまともなもん食えるかわかんねぇだろ?今のうちに食っとくんだよ)

《まぁ、それもそうか》


「そういや聞いたか?また例のバケモノが出たんだってさ」

彼が料理に舌鼓を打っている最中。他の席に座る客がそんな話をしているのが耳に入った。


「ああ聞いた。でっかいムカデみたいなやつのことだろだろ?」

「何とか逃げ帰ったやつの話だと、頭を切り飛ばしても平気だったとか」

「なんじゃそりゃ!?まるっきりバケモンじゃねぇか」

「だからバケモノだって」


「なぁ、おっちゃん」

「どうした?」

アサヒはしばらく聞き耳を立てたのち、店員の男に話しかける。

「ムカデのバケモノって?」

「何だあんちゃん、知らねぇのか?」

「ここには来たばっかで」

「教えてやってもいいが……どうしよっかなぁ」

男はわざとらしくもったいぶると右手の指で丸を作り、軽く目配せをする。

アサヒはしばらく考えたのち――


「ちぇーっ、わかったよ」

袋から食事代の銀貨を3枚、さらに追加で情報代分の3枚を取り出し手渡した。日本円換算にして1枚200円――しめて1200円。手痛いものの、必要な出費と割り切った。

「まいどあり」

男はにんまりと笑みを浮かべてそれを受け取ると、話を始めた。


「最近、この近くの洞窟あたりで出てくるようになったバケモンのことさ。なんでも、普通のモンスターとはわけが違うらしい」

「どういうことだよ?」

「異様に強いんだよ、そいつ。あんちゃんが今食ってる巨鳥の足だって元は鳥型のモンスターだ」

男は皿の上の料理を指さしながら言う。

「だが人間の手に負える範疇だからこそ、こうやって食材として出回ってる」

「けどそいつは違う、ってことか」

「ああ。行商人が結構な数襲われててな……まずいと踏んだ王都が軍から討伐隊を出したが、ものの見事に全滅したぐらいだ」

「なるほど」

「けどよ……」

そこまで言うと男は一呼吸置く。


「おかしいとは思わねぇか?」

「何が?」

「考えてもみろよ。そんなバケモノが突然湧いて出てくるなんて、普通はありえねぇだろ」

「……確かに」

「これは俺の想像だが、思うんだ……あれは、誰かが持ち込んだものなんじゃねぇか、って」

「!」

その言葉に、確信めいたものを感じるアサヒ。


「ま、想像に過ぎないけどな。第一、そんなバケモンどこから持ち込むんだー、って話だしよ」

男はそう言って笑い飛ばす。


「いや、ありがとおっちゃん。いい話聞けたよ」

「そうかい。ま、あんちゃんも旅人なら気ぃ付けなよ」

「ああ!」

そう言うと、アサヒは席を立ち、店を出ていこうとするが――


「待ちな」

男が彼を呼び止める。アサヒが振り返ると、

「おわっ!」

銀貨が3枚、彼の手元めがけて放り投げられた。慌てて受け止めるアサヒ。

「そんな素直じゃ、いつか足元すくわれるぜ」

男はにやりとした笑みを浮かべたまま、そう言った。

「あんがと、おっちゃん!」

それを袋にしまうと、アサヒは改めて店を出た。

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