変貌
「ハァ……ハァッ……!」
横殴りの大雨の中、アサヒは身一つで森の中を走り続けていた。
「俺、探しに行ってきます!」
「私も行こう」
「ダメです、ティムさんはここにいてください!」
「何故だ?私はあの子の父親だ!」
「だからです!探しに行ってあなたが巻き込まれでもしたら、ユウナちゃんはどうなるんですか!?」
「とにかく、貴方はここで待っていてください!」
「アサヒ君!」
――半ば強引に話をつけて飛び出したはいいものの、予想以上の豪雨、そして強風で、彼の歩みはなかなか進まない。
しかし、向かうべき場所は何となくだが察しがついていた。
彼女の向かいそうな場所、それはただ一つ――あの湖だ。
「頼むぜ俺の勘、当たっててくれよ……!」
※
「何だよこれ……!」
――数十分ののち。やっとの思いで湖にたどり着いたアサヒが見たのは、想像を絶する光景だった。
空は分厚い雲に覆われ、そこからいくつもの電が降り注いでいる。
水面は激しく、かつ大きく渦を巻いている。
岸辺のあちこちで竜巻が発生し、木々の一部をなぎ倒している。
まるで、世界の終わりのような光景だった。
「いたっ!ユウナちゃん!」
そんな光景の中に、一人佇む少女――ユウナを発見したアサヒは、急いで彼女のもとに駆け寄る。
「アサヒさんっ……!」
「何でいなくなったりしたんだ!……とにかく、早く帰ろう!ティムさんが心配してる!」
そう言って彼女の手を握り、引こうとするアサヒ。しかし、彼女は動こうとしない。
「……もしかして、ヌシ様が心配で?」
アサヒの言葉は大当たりだった。ユウナはその言葉に無言ながら強く、頷いた。
そんな時だった。
「グオォォォォーーン!」
大気を揺らすほどの雄叫びが轟いた。そして同時に、水面が大きな水柱を立て、そこから巨大な何かが飛び出した。それは――
「ヌシ……様っ?」
全身を機械仕掛けの拘束具、いや鎧で包まれたような、真っ赤な瞳の魚の怪物。
ヌシ様の変わり果てた姿――奇械水棲獣アイアンスが現れた。
「んだよ、これ……!」
《アサヒ、奴の額を見ろ!》
ソルが叫ぶ。アサヒがアイアンスの額に目をやると、そこには――
(あのマーク……!)
《間違いない、奴らの仕業だ》
天使を思わせる、一対の翼のレリーフ――この世界に来る途中、ソルから教えてもらった次元奴隷商のシンボルマークが、刻まれていた。
(あいつらっ……許せねぇ!)
アサヒが怒りの炎を燃やした、その瞬間。
バシュン……ッ!アイアンスの口から、彼らめがけていきなり光弾が放たれた。
「危ないっ!」
アサヒはとっさにユウナを抱きかかえて飛び、なんとか回避に成功する。地面に直撃した光弾は、大きく大地をえぐり取った。
「ヌシ様っ、やめて!私たちがわからないの!?」
「きゃあっ!」
「うわっ!」
少女の悲痛な叫びを意にも介さず、次の攻撃を放つ怪物。
もう、黙ってはいられない。
《アサヒ、戦うんだ!》
(……ああ!)
アサヒは腕輪を天に掲げ、叫ぶ。
「ソル――――ッ!」
宝石が眩い輝きを放ち、アイアンスの、ユウナの眼がくらむ。
そして光がやんで現れたのは――
「ハアァァ……」
『太陽の勇者』――エヴォリュートソルだった。
彼はユウナの方へ顔を向けると、「逃げろ」という旨のジェスチャーをする。
それをのみ込んだ彼女は、森の奥へと走ってゆく――
が。
「!」
そんな彼女を狙うかのように、アイアンスの口からまたしても光弾が放たれる。
「トアッ!」
しかし、ソルもまた手のひらから光弾を放ち、それを空中で撃ち落とした。
赤い瞳がぎょろり、と彼を見た。彼を『敵』だと――そう認識したのだ。
ここに、戦いの火ぶたが切って落とされた――
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