対決!護衛獣シールドン!
――数時間後 艦内 ブリッジ
ガガァン! 突如、強い揺れが艦を襲った!遅れて警報が鳴り響く。
「な、何事だ!」
小太りの男――隊長はこの異常事態に驚きを隠せないでいた。
「艦内で爆発が起こった模様!場所は……廃棄処理室です!」
「何だと!?」
「調査班、それに警備班の二組に分かれろ!重力変更装置の装着を忘れるな!」
「「了解!」」
号令と同時に、部下たちはそれぞれに散ってゆく。
ある者は商品の――奴隷たちの保護へ。またある者は原因究明へ。
「くそう、いったい何が……!」
そうして部下たちが出払ったのち、男は憎々しげに吐き捨てた。
※
――艦内 廃棄処理室内
「トアーッ!」
雄々しい雄叫びが響いた。直後、鋼鉄の扉が音を立てて内側から大きくひしゃげる。
そして二度目の衝撃により、ついに扉は粉砕された。暗黒のブラックホールから、一人の勇者が蘇る。
アサヒ――否。今の彼は、ソル。
『太陽の勇者』、エヴォリュートソル。
「ムンッ!」
彼は後ろを振り向くと手をかざし、眩い光を放つ。光はなんと、たちまちのうちにブラックホールを消し去ってしまった。
「おい、何だあれ!?」
「う、撃ち殺せっ!」
直後。部屋の扉が開き、慌てた様子の男たちがふたり、駆け込んできた。
彼らはソルの姿を見るや否や、一斉に銃を放ち始める。
轟音とともに、銃弾の雨がソルに迫りくる。
「タッ!」
しかし、そんなものは通用しない。銃弾を浴びながらも、一歩また一歩と力強く地を踏みしめながら前進する、ソル。
「こんのぉ!」
銃弾を意にも介さず突き進む彼に対し、ナイフでの応戦を試みる男。
「!?」
だが、それも虚しい抵抗だった。カン、と金属音を立て、腹筋部分に突き立てた刃はへし折れてしまった。
「う、うう……」
なすすべをなくした男は、ソルに見つめられ、ただ怯えるばかりだった。
そんな男に対し、ソルは。
「ハアァ……」
その眼前に手をかざし、光を放つ。それは全身を包んで輝いたかと思うと、男は膝から崩れ落ちた。気を失ったのだ。
「ア、 アワワ……」
その様子を見ていたもうひとりはもはや戦う気力を無くし、腰を抜かしてへたり込む。
それを無視し、ソルは部屋から立ち去った。
※
――艦内 ブリッジ
「ぬうぅ……」
鳴りやまぬ警報の中、男は苛立ちを込めた唸り声をあげていた――そんな時。
「ひいっ!?」
ゴガシャアン!
轟音とともに、扉が粉々に砕け散った。ソルだ。
「な、何なんだ貴様っ!」
男は迷わず発砲する――アサヒの足を撃ち抜いた、あの拳銃だ。
銃弾はソルの胸の中心めがけて突き進む。
「ハッ!」
その銃弾はかざした手のひらに受け止められ、ぐしゃりと握りつぶされた。
(カグヤはどこだ!)
男の頭の中に、アサヒの叫びが響く。
「その声……貴様、あの小僧かっ!?」
(答えやがれっ!)
「……これを見ろ」
男はソルを見据えたまま、片手でパネルを操作。すると――
(カグヤ!)
巨大なモニター一面に、ある部屋の様子が映し出された。
そこには首輪をつけられ、両手両足を枷に繋がれた人々の姿があった。そしてその中に、彼女の――カグヤの姿もあった。
「探しているのは、この女だろう……?」
(その人たちを解放しろ!)
男に詰め寄ろうとするソル。だが、
「おおっと、動くんじゃない!」
男が叫び、それを制止した。
「いいかよく聞け……あの首輪にはな、爆弾が仕掛けてある」
「私が起動すれば、たちまちボカン、だ」
(!)
その言葉に、足が止まる。この力なら、数秒あれば人々を助け出せる。
しかし部屋の位置がわからない以上、うかつに動けない。犠牲を出すわけにはいかないのだ。
《おのれ、卑怯な真似を……!》
ソルの人格がつぶやいた。
「動くな、動くなよ……」
男はそう言いながら、別のパネルを操作。すると――
ブゥンッ、という電子音とともに、ソルの周囲を見えない壁が覆った。
(何をするつもりだ……!)
「こうするのさ!」
男がパネルを操作し終えると、ソルの姿は、一瞬にして消え去った――
※
――小惑星帯 地表
ブンッ!
暗闇の中を浮かぶ小惑星帯の地表。空間に歪みが生じ、突如としてソルの姿が現れた。
(ここは……?)
《小惑星だ。どうやら、転送されてしまったらしい》
辺りを見回していると、前方で再び同じように空間が歪む。現れたのは――
「キャオオォーン!」
巨大な頭殻を持つ、恐竜のような怪物だった――
※
(何だあれ、恐竜?)
アサヒの抱いた感想はもっともだった。目の前の怪生物は、かつて地球上に存在した生物――トリケラトプスに似た容姿をしていたのだ。
《違う。あれは護衛獣シールドン……奴らの作り出した生物兵器だ》
しかし、ソルが即座にそれを否定する。
《……来るぞ、アサヒ!》
精神内での会話を遮って、先手を打ったのはシールドンの方だった。頭殻から生えた巨大な二対の角を突き出して、一直線に突進を仕掛ける。
「トアッ!」
それに対し、ソルは腰を落とした正拳突きで迎え撃つ。
ガツン!
鈍い衝撃音が――(宇宙空間のため実際に出ているわけではないのだが)――響き渡る。
ぶつかり合いを制したのは、ソル。シールドンがよろめき、少し後退する。
が。
(かっ、てぇ~っ!んだよコイツ!)
拳をさするジェスチャーをしながら、アサヒの人格が愚痴をこぼす。
《奴の頭殻は恐ろしく硬い、正面からの突破は困難だぞ》
(そういうの、先に言ってくんない!?)
《最初から答えを言ってしまったら君のためにならんだろう》
(実戦でぶっつけ本番かよ……)
呆れたような声のアサヒ。
《考えるんだ、アサヒ。戦うこととは、そういうものだ》
(オッケー……!)
ソルは後方へとジャンプ、シールドンと距離をとる。
(なら、まず観察だな……)
相手の出方をうかがうことにしたのだ。構えをとり、気を張り詰める。
次の瞬間だった。思いもよらない攻撃が飛び出したのは。
ズガン!
飛んできた硬い何かが、地表をえぐる。後ろに飛びのいてそれを回避するが、前方には何と――
(伸びんのかよ、それ!)
中心から真っ二つに分かれた、シールドンの頭殻の片割れが迫っていたのだ。
ソルはすぐさま上体を反らして後方に一回転。
(あっぶねぇ……)
着地と同時に、上半身をかすめて飛んで行った頭殻を後方に見やり、安堵するアサヒ。
しかし同時に、あることに気づくことができた。それは――
(あれ、あいつ……なんか小さい頭……みたいなのねぇか?)
再びシールドンの方へと目をやると、伸び切った頭殻を戻している最中だった。よく見ると、頭殻があったであろうくぼみの奥に、小さな頭部らしきものが見えたのだ。
(もしかして)
《気づいたようだな》
アサヒの勘は当たっていた。あれこそ、シールドンの弱点なのだ。
《硬い甲殻で身を守る生物ほど、それが無くなると案外無力なもの。なら、どうする?》
「キュオーン!」
問答の間に再攻撃の準備を終え、先ほどと同じように頭殻を伸ばして攻撃を仕掛けるシールドン。飛ばしたのは、左の頭殻だ。
横にステップすることでそれを回避するソル。
(伸びたところで、)
そして頭殻と体とを繋ぐ蛇腹状の部位を左腋に抱え込む形で捕まえると――
(叩っ斬る!)
ブチリ!肉の引きちぎれる音とともに、右で繰り出した手刀が頭殻の根元部分を切断する!
痛みに悶えるシールドン。その隙を逃さず一気に間合いを詰めると、
「デェヤアアア……」
体に残ったままだった右の頭殻を上半身全体を使って捕まえると、左足をシールドンに押し付けて渾身の力を込めて引っ張る。
「ヌアァ!」
ブチブチと音を立て、ついに頭殻が引っこ抜けた。それを放り捨てると、全体重を乗せたタックルをお見舞いする。
地表に溝を作りながら、シールドンは勢いよく後退。再び間合いが離れた。
《よし、止めだ!》
もはや身を守る術を無くしたシールドンを前にして、ソルが合図する。
(おう!)
アサヒがそれに答えると、
「ムンッ!」
腕を体の前で交差し、力を込める。
「ハアァァァ……!」
続いて右腕を腰に、左腕を胸の前に持っていきながら上体を右に捻り、さらに力を集中させる。
そして全身が金色に輝いた瞬間。
勢いよく上体を戻しつつ、左腕と右腕で『L』の字を作る。
(プロミネンスストライク!)
アサヒの掛け声とともに、直線に輪をまとわせたような黄金の破壊光線が放たれた。
「グ、ググ……」
光線の直撃を受けたシールドンの体は赤熱化していき、
「トアーッ!」
「ギエェェーーッ!」
ソルの叫びとともにさらに威力を増した光線の威力に耐え切れず、ついに崩壊。断末魔の叫びをあげながら爆発、四散。
こうして、勝負はついたのだった。
(すげぇ……すごすぎるぜ、ソル)
自分のしたことが現実の出来事だとは思えず、手のひらを見つめたまま何度も開閉させるアサヒ。
《これが、君と私の力だ、アサヒ》
そんな様子の彼に、優しく語り掛けるソル。
《さぁ、奴らを追おう。どうやらどこか別の次元に飛んだらしい》
(ああ!待ってろよカグヤ、絶対に助けてやるからな!)
そう言って、ソルは小惑星から飛び去ってゆく。
こうして、彼らの物語は始まりを告げた。
果たして、彼らを待ち受けるものとは?
アサヒは、カグヤを助け出すことはできるのだろうか――?
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