万年桜と私の秘密
平 遊
第1話
『万年桜』
そう、呼ばれている桜の木が、私の実家の近くにある。
良くも悪くも「万年」桜。
私が生まれたくらいの頃からは、【いつでも花が咲いているから、万年桜】。
その前は、【春になっても花が咲いたことがないから、万年咲かない桜、略して【万年桜】。
春になっても花の咲かない桜なんて、私は見たことないから、本当かどうかは知らないけれど、確かにその桜は、私が物心ついてからは、いつでも花を咲かせていた。
満開ではないけれども、ポツリ・ポツリと、どこかしらの枝には花を咲かせていた。
万年桜は、町の外れの小さな丘の上にあった。
本当に町の外れだったし、春になっても満開にはならないし。
万年桜を見に行こうと、わざわざ出かける人は、ほとんどいなかった。
私を除いて。
私は、何故だかわからないけれど、この万年桜が好きだった。
まだ3つか4つくらいの時に、1人で万年桜を見に来てしまって、家中で大騒ぎになったことがあったとか。
誘拐されたのか、事故にでも遭ったのか。
なんて、家族が心配していた頃、私は1人で万年桜を眺めていた。
小さい頃の記憶だから、ほとんど憶えていないのだけど、だぶんそうだと思う。
そして、その日の夕方になって発見された私は、桜の木の下で眠っていたそうだ。
桜にはやっぱり、夏の終わりだったというのに、季節外れの花がいくつも咲いていたと、後で母から聞かされた。
小学校にあがると、私はわざわざ遠回りをして、桜の木を見に行った。
中学・高校になっても、それは変わらなかった。
親に怒られたり。お友達とケンカしたり。テストで悪い点を取ったり。
イヤな事、悲しい事があった時は、木の幹に顔を押しつけて泣いた事もあった。
作文で賞を取ったり。リレーの選手に選ばれたり。好きな人と少しだけでもお話ができたり。
楽しいこと・嬉しい事があった時も、誰よりも先に桜の木に話していた。
誰にも言えない秘密の話も、桜にだけは話していた。
《誰にも言っちゃダメだよ。》
なんて、念押しまでして。
高校2年の3月。
私が初めて恋をした、3年生の先輩の卒業式の日。
私はやっぱり、万年桜に会いに行った。
大好きだった先輩に勇気を出して告白したのに、振られてしまったから。
振られてしまったショックと、もう先輩には会えなくなってしまうという現実に、私の心は悲しさで一杯だった。あふれてしまいそうだった。
早く万年桜に会いたい。
会って全部聞いてほしい。
そんな思いで、小さな丘を登ると、そこには先客がいた。
見た事のない、少し年上に見える男の子だった。
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