面倒くさがりな少年が勇者に選ばれてしまった話

善 椎太

第1章 魔王討伐の旅

プロローグ 旅立ちの朝

「こらぁぁ!そろそろ起きないと遅刻するわよ!」


1階から聞こえる母の声を目覚ましに、重い目をこすりながら布団から出る。

片手でメガネをかけ、もう片方の手でカーテンを開ける。

まぶしいくらいの朝の日差しが、私目掛けて降ってきた。


ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!


着替えをすませて階段を駆け下り、いつもの食卓の椅子に座る。


「今日は王都に呼ばれてるんでしょ?そんな日に遅刻なんてしたら王様になんて言われるか…」


母がそんな小言をつぶやきながら、料理を私の目の前に並べていく。

子供の手のひらサイズのパン。ガルーの卵で作った目玉焼き。

森で採った山菜のスープ。そしてヌモーのミルク。

ココ、≪マティーナ村≫では質素な朝食だ。


「こんなものしか作ってあげられなくてごめんね」

「いいよお母さん、わたしが大魔道士になって、いつかきちんと恩返しするんだから!」


私は母の料理を食べながらそう宣言した。


私はまだ魔術師見習い。普通なら王都に呼ばれるような立場にはない。

でも魔王討伐のメンバー募集があると知ってから、それに選ばれるために猛勉強した。

本で魔術の知識を覚え、森の木を削って杖を作り、1ヶ月ほどで簡単な魔術も使えるようになった。

そんな努力の甲斐あって、私は見事勇者メンバーの一人に選ばれたんです!


全ては私の憧れ、ミレイユさんのような大魔道士になるため。

100年前、勇者と共に勇敢に戦ったあの人みたいになりたい。私の小さい頃からの夢だ。


「あ、ほら!もうこんな時間じゃない!」

「え、嘘!?ホントに遅刻しちゃうよぉ!」

「さっきから言ってるじゃない!食器は片付けてあげるから早く支度しなさい!」


急いで2階の自分の部屋に戻る。

ポールにかかった白いローブ(これも自作)を着て、昨日のうちに準備しておいた荷物を持って再び階段を駆け下りる。


「ほら、コレも持って行きなさい」


渡されたのは、大量の薬草だった。


「持ってく!ありがと!」


母の手から掻っ攫うように薬草を受け取り、玄関のドアを開ける。


バタン!


「きゃ!」


小さい悲鳴を上げた。

ドアを開けたら、貴族衣装を身に纏った男性が、鎧の兵士2人を連れて立っていたからだ。


「ええと、どちら様でしょうか?」

「突然失礼。王都からお迎えに上がりました、キース=フォルスと申します。

 フェルム様のご実家で間違いありませんね?」

「は、はい…。わたしがフェルム、ですけど…」


まさか王都から直々に迎えが来るなんて…。それ知ってたら遅刻だなんだって慌てる必要なかったんじゃ…。


「これから王都へ向かうつもりなのでしたらちょうどよかった。我々の馬車で王都までお送りいたします。さあ、こちらへ」

「あ、は、はい」


家を出て数秒、目の前で起きたことに頭の整理がつかないまま、私はキースさんに連れられていく。


「フェルムー!しっかりお役目果たしてくるのよー!」


声にハッと振り返ると、母が手を大きく振って見送ってくれている。

私は馬車への歩みを一度止め、右手を大きく振りかえす。


「わたし、絶対大魔道士になって帰ってくるからねー!」


魔道士見習いフェルム、旅に出ます!

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