第410話未遂
将軍足利義昭の要請を受け、近江へ出兵した徳川家康。その家康が不在となった遠江で動きが……。
春日虎綱「申し上げます。気賀の民が井伊谷に侵入しました。」
私(村上義清)「日常行き来している連中だろ?」
春日虎綱「確かにそうなのでありますが、今回は様子が異なりまして……。」
私(村上義清)「何かあったのか?」
春日虎綱「はい。井伊谷に入るなり各所を荒らした挙句、龍潭寺に火を掛けようとしました。」
私(村上義清)「被害は?」
春日虎綱「幸い駐屯している者共が気付き、追い払う事が出来ました。」
私(村上義清)「それは何よりであった。先年の事が原因?」
春日虎綱「否定する事は出来ません。(気賀の民が信仰していた)寺は無くなり、祭りも制限され。大事な節句の日にあのような出来事がありましたから。」
私(村上義清)「それに対し、すぐ横の井伊谷の様子が彼らにとっては気にくわなかった。」
春日虎綱「そうなるかと。」
私(村上義清)「しかしいくさの前から気賀は徳川で、井伊谷はうちであったわけであるし、今川から奪った時家康は気賀の民に危害を加えたわけでは無い。氏真に対する忠誠心が厚かったが故の立て籠もりではあったのではあるが、抵抗した以上は家康も戦わざるを得なかったのは事実。」
春日虎綱「その点うちは幸いしました。」
私(村上義清)「どう言う事?」
春日虎綱「井伊谷が氏真と揉めていましたので。」
私(村上義清)「たまたま分裂していた家中の非主流派になっていた連中の跡取りを抱えていただけの事だけどな。そうなると逆恨みの反抗か……。」
春日虎綱「そう見て間違い無いかと。」
私(村上義清)「そうなると家康の差配では無い?」
春日虎綱「今、うちが報復に動いて困るのは家康でしょう。主力の大半が近江に行っているのでありますから。」
私(村上義清)「ただ単独で荒らし回ろうとするのは考え難いであろう?」
春日虎綱「はい。様々な規制が課せられていますが、彼らの安全を保障しているのは家康でありますので。その家康が居ない時に危険を冒す事はあり得ません。」
私(村上義清)「そうなると裏で手を回している者が居る?」
春日虎綱「恐らく。」
私(村上義清)「住民同士の諍いを演じさせてうちと家康を仲違いさせようとしている奴が居る?」
春日虎綱「そうなるかと。」
私(村上義清)「そうなると……義信か?」
春日虎綱「確証はありませんが。」
私(村上義清)「交通の要衝であり、家康に対し思う処のある気賀の民を義信は試した?」
春日虎綱「その誘いに気賀の民は乗ってしまいました。ただ今回は気賀の民だけでありましたのでこれで済みましたが、もし義信が本格的に兵を展開した時の事を想定しなければなりません。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます