第197話本領安堵
10月。
真田幸隆「殿。」
私(村上義清)「どうした?」
真田幸隆「(神保)長職が輝虎と和睦しました。」
私(村上義清)「攻め滅ぼすことも出来たと思うのだが。」
真田幸隆「(長職が)畠山に仲介を依頼したようであります。」
畠山氏の本貫地は武蔵。足利家が将軍になってからは畿内に勢力を誇り、管領を輩出するなど隆盛を極めるも、一族の内紛が応仁の乱に発展するなど内輪揉めを繰り返した結果。将軍家における主動的な地位を失った一方、分家として立ち上がった能登の畠山氏は、京との騒乱の影響が小さかったこともあり、本拠地七尾に数多くの貴族が京から避難。小京都として発展を遂げたのでありました。
私(村上義清)「ところでその内容はどうなっている。」
真田幸隆「それが……本領安堵であります。」
私(村上義清)「ん!何で!?」
真田幸隆「何で?と言われましても某にもわかりませぬ。想像しますに、長職の背後に居る一向宗を輝虎は気にしているのかもしれません。」
私(村上義清)「種子島と玉薬の供給路を持っているからなあいつら……。」
真田幸隆「もし長職が居なくなり、輝虎と一向宗が直接相対しました場合。今は物資の支援に留まっている一向宗が輝虎に挑んでくることになります。加えて彼らは種子島を自由自在に操ることが出来ます。そしてなにより彼らの教えが地域の隅々にまで浸透しています。そうなりますと輝虎は誰を倒せばいくさを終えることが出来るのかがわからなくなってしまう危険性がありますし、仮に統治することを考えているのでありましたら国人の協力は不可欠でありますので根絶やしにすることは出来ません。」
私(村上義清)「たとえ偽りの降伏であったとしても、長職が前面に出て来るほうが輝虎にとってもわかりやすい。」
真田幸隆「はい。その長職と畠山は良好の関係にあります。関白様が居なくなった輝虎からしますと、京との繋がりを持つ有力者を敵に回すのは得策ではありませんし、越中と加賀の一向宗のことを考えましても(両国の北に位置する能登の)畠山の協力は必要となります。」
私(村上義清)「上洛を志向しているが全てをいくさで解決することが出来ない以上、輝虎も妥協しなければならないことがある。」
真田幸隆「そうなるかと思われます。」
私(村上義清)「しかしどうする?長職は今後も輝虎の邪魔をするだろう。そうなっても輝虎は許すのかな?」
真田幸隆「長職が単独で動いているのであれば、流石に輝虎と戦うことは無いと思います。一向宗を味方につけても勝つことが出来ないのでありますから。加えて畠山の顔に泥を塗るわけにはいきませんので。」
私(村上義清)「裏で糸を引いているものが居た場合は?」
真田幸隆「一向宗だけでありましたら、輝虎に勝つことが出来ない以上一向宗も無理攻めを強要することは無いと思います。一向宗以外のものであったとしましても今回。直接的な軍事支援がありませんでしたので、長職はその人物に踊らされることは無いと思われます。」
私(村上義清)「越中はこれで安泰?」
真田幸隆「ただ……椎名がどう思っているかが気になります。」
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