第133話条件

 真田幸隆が仁科盛能との交渉を終え……。




真田幸隆「仁科が殿の傘下に収まることについて了承しました。」


私(村上義清)「そうか。よくやってくれた。」


真田幸隆「有難き幸せ。ただ幾つか条件を提示して来まして……。」


私(村上義清)「申してみよ。」


真田幸隆「はい。まず居住地や所領につきましては。」


私(村上義清)「問題無い。向こうの言う通りで構わない。」


真田幸隆「兵の配置につきましては。」


私(村上義清)「あの(飛騨)山脈を越えてまでして越中から攻め込むことは無いであろうから、接しているのは実質越後のみ。あそこは景虎の土地であるからこちらで防備を固める必要は無い。これまで通り(仁科)盛能に任せる。」


真田幸隆「租税につきましては。」


私(村上義清)「ほかと同じで良い。」


真田幸隆「割譲されることを覚悟していましたが。」


私(村上義清)「(松本平における)直轄の大変さが身に染みているので、そのまま。」


真田幸隆「それでありましたらすぐにでも交渉をまとめ上げます。」


私(村上義清)「ただなぁ……。」


真田幸隆「如何なされましたか。」


私(村上義清)「千国街道と姫川の通行料収入は維持したいのか……。」


真田幸隆「それはそうでしょう。」


私(村上義清)「そうなんだけどさ……。あそこは塩と魚の輸送が多いんだよな……。あれが無ければ正直な話。」


真田幸隆「必要ない。」


私(村上義清)「それは言い過ぎ。言い過ぎなんだけど……。国境を抑えることにより防備を容易なものとすること以外に使い道が無い……。」


真田幸隆「それでしたら弟(矢沢頼綱)を連れてもう一度交渉に……。」


私(村上義清)「お前のところの兄弟が揃うと交渉では無くなるから止めてくれ。」


真田幸隆「でも仁科は渡しませんよ。」


私(村上義清)「そうなんだよな……。なら……1つだけ条件を付けてもいいかな。」


真田幸隆「なんでしょうか。」


私(村上義清)「うちが輸送するものについては非課税にしてくれないかな。それを認めてくれるのであれば、通行料収入の権利を認める。と……。」


真田幸隆「わかりました。再度交渉に行って参ります。もし駄目と言って来ましたら……。」


私(村上義清)「保科と四郎を突っ込ませる。」


真田幸隆「わかりました。」




 再度、保科と四郎の部隊を率い交渉に向かった真田幸隆。


「従うことになるのでありますから。」


と渋々ながら条件を受け入れる仁科盛能。こうして村上義清は、仁科盛能の権益にほぼ手を付けることなく安曇郡を傘下に収めたのでありました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る