旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。

第65話口説き文句

　尼ヶ淵。

真田幸隆「ハハハ。」

私（村上義清）「笑い事じゃないよ。全く……。」

真田幸隆「すみません。思わず。いやぁ。（山内上杉に）してやられましたね。」

私（村上義清）「そうなんだよなぁ……。」

真田幸隆「で。殿は如何なされるのですか。」

私（村上義清）「飯富が本国（甲斐）に替地を用意しているにも関わらず断りを入れ。絶縁状をチラつかせられても揺るがず。山内上杉が兵を率いて接収に来ても追い払う。それも相手の兵を損ねることなく。」

真田幸隆「……となりますと目的は、殿といくさをしたい。と……。」

私（村上義清）「だろう。そんなところに俺が接収にあたったところでうまく行くわけは無いし、仮に兵を率いてでもしようものなら『休戦協定違反』と咎められ、いくさの口実を与えてしまうことになる。」

真田幸隆「飯富はそれを狙っている？」

私（村上義清）「いや。それは無い。調べて見るとどうやら本当に絶縁状を突き付けたらしい。」

真田幸隆「……そうですか……。」

私（村上義清）「どうした。」

真田幸隆「それでしたら……もしかすると……。」

私（村上義清）「何か策があるのか。」

真田幸隆「えぇ。まぁ……。」

私（村上義清）「奥歯にものが挟まったような物言いをしておるが。」

真田幸隆「この手を使っても殿が大丈夫であれば……なのでありますが……。」

私（村上義清）「なんだ。申してみよ。」

真田幸隆「言ってしまいますと『駄目。』と言われるのが目に見えておりますので……。」

私（村上義清）「……そう言う時が一番怖いのだが……。その方法であれば武田を刺激することなく接収することが出来ると言うのか。」

真田幸隆「まぁ彼（志賀城の城主）の考えが、今私が想定しているものと一致しているのでありましたら可能かと思われます。」

私（村上義清）「……わかった。お前に任す。」

　しばらくして、葛尾に真田幸隆がとある人物を連れ登城。

私（村上義清）「びっくりしたぞ。無事接収することが出来たと。」

真田幸隆「有難き幸せ。」

私（村上義清）「して横に居る人物は。」

春日虎綱「春日虎綱と申します。」

　のちの高坂昌信。

真田幸隆「彼は志賀城の城主を務めておりまして、此度の件で我がほうに加わりたいとの申し出がありました。」

私（村上義清）「飯富からの絶縁状は本当の事であったのか。」

春日虎綱「はい。」

私（村上義清）「ところで。」

春日虎綱「はい。」

私（村上義清）「そなたは志賀城の明け渡しを拒否し続けていたと聞いておったが。」

春日虎綱「武田の家臣は腰抜けどもばかり。たった一度のいくさに敗れただけで、亡き御館様が心血を注いで獲得した土地を手放すなど言語道断。絶縁状をこちらから叩きつけてやりたい気持ちでありました。」

私（村上義清）「（……ん！？）その春日殿は何故城の明け渡しに応じ、我が村上に属することを決意されたのだ。」

春日虎綱「それは……真田様の一言が突き刺さったからであります。」

私（村上義清）「何と言ったのだ。」

真田幸隆「『亡き殿の無念を晴らしませんか。』と申し上げたところ二つ返事で了解をいただくことが出来ました。いやぁ我ながら会心の交渉でありましたよ。」

私（村上義清）「（……えっ！？）」