公園にモンエナの空き缶が落ちていた

 夕食前の散歩をしているとき、モンスターエナジーの空き缶が、堂々とした佇まいで飾ってあった。

 公園の入り口にある大きな石の上、まるで「ここが俺の居場所だ」と言わんばかりの目立ち具合だった。


 汚くはないが見苦しいゴミ。私はそういうのを拾って家に持ち帰るようにしている。

 単純に、無視すると何だか苛立つし、自分に対して延々と見逃した言い訳を考えなくてはならなくなる。


 しかし、そこにあるのはモンスターエナジー。私はそういう系の飲料を全く飲まない人間だし(一度だけ友達に勧められて飲んだことはあるが……何も言わないでおこう)あまりよいものだと思っていない。

 私は根っから「水」「麦茶」「牛乳」人間であるから、そういう味の濃い飲み物に対して、一種の……侮蔑に近い感情を抱いている。その感情が不当であるにしても、私はそういうのを飲む人間だとは思われたくなかった。

 だから、見逃した。頭の中では、恐れていたように言い訳が駆け巡る。

 私はしょっちゅう散歩をするから近所の人に顔を知られている。真面目で落ち着いた女の子として通ってる私が、モンスタエナジーなんて持って歩いていたら、びっくりさせてしまうかもしれない。

 いやいや、皆それほど私に興味を持っていないし、そんなのは偏見だ。そして偏見を持っている人間にとやかく言われたところで、私には関係のない話だ。

 そもそも私がそれを持っているからといって、自分で買って飲んだと勘違いされるとも限らない……しかし、散歩中落ちているゴミを家に持ち帰る人はあまり多くない。だからこそ、人通りの多い時間帯にも関わらずあんな場所にモンエナの缶が放置されていたのだろう? しかしそれは誰かが持って帰らなくてはならない。それを飲んだ人間がどのような人間であったにせよ、その尻ぬぐいは誰かがしなければならないし、それをするべきは、それを喜んでできる人間であるべきだ。

 もしそれが「午後の紅茶」とか「おーいお茶」とかのペットボトルなら、私は迷わず拾って家に持ち帰ったことだろう。私はそういう小さな社会的な貢献を喜ぶ人間だから、もしそれがモンエナでなければ……


 私は、なんだか自分自身に腹が立って、振り返ってダッシュで戻った。息を切らして、モンエナの缶を掴んだ。すると、笑いがこみあげてきた。

 誰も周りにいなかったと思うけれど、もし見た人がいれば、私のことを「ポイ捨てしようとして良心の呵責に囚われ、慌てて戻ってきた女の子」だと思うことだろう。

 でも、そんなことはどうでもよかった。なぜならばその瞬間、私はくだらない自意識に勝利したからだ!


 堂々とした面持ちで、左手でその細長い缶を握りしめ、帰路についた。よくよく考えてみれば、最初からこうすればよかったのだ。

 勝利の余韻を味わいながら、このことを記事にしようと思った。缶ゴミを捨てに行くときお母さんがこれを見て「誰が買ったの?」と聞いてくるかもしれないが、どうでもいい。いや、そもそも私がしょっちゅう落ちている缶やペットボトルを拾って持って帰ってくることを母は知っているから、それもまったくの杞憂だ。

 あぁ、愉快だ。缶の中を水で注いでしっかり潰す。父が飲んだお酒がたっぷり入っている缶用のゴミ箱に投げ入れると、カコンと気持ちのいい音がした。

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