チンアナゴ差別主義

 久々に電車に乗ると、何かの団体の広告に『チンアナゴを尊重しよう』と書いてあった。

 なんだか気になって、知り合いになぜそんなことになっているのか聞いてみた。

「なんでチンアナゴを守らなくちゃいけないんですか?」

「えっなんでそんなこと聞くんですか? もしかしてあなた、チンアナゴ差別主義者なんですか?」

「え? 私もチンアナゴですけど」

「あ、そうなんですね。すいません。何のチンアナゴか聞いてもいいですか?」

「ニシキアナゴですよ」

「あー。きっと大変ですよね」

「え? 何がですか?」

「いやだって、チンアナゴって、みんなと違うじゃないですか」

「いやでも、別にチンアナゴじゃなくたって、人間ってそれぞれ違うものじゃないですか?」

「確かにそうですけど、やっぱりチンアナゴ差別って根強いじゃないですか?」

「そうなんですか」

「結構、多いみたいですよ」


『別にチンアナゴだっていいじゃないか』

『チンアナゴ差別をなくそう』

『チンアナゴが住みやすい社会に』


 まるで『飲酒運転はやめよう』みたいなノリで、チンアナゴのことが街中で言われている。

 今までそんなにみんなチンアナゴに興味を持ってなかったはずなのに、なんでこんなことになっているんだろう、と不思議に思った。

 私としては、別にチンアナゴであることをそれほど嫌だと思ったことはないし、差別されてると感じたこともない。まぁ多少、それが原因でからかわれたことはあるけれど、でもそんなの眉毛が太いとか、唇が厚いとか、ちょっと毛深いとか、そういうことでからかわれるのと大差ないことだし、そんなチンアナゴであることを特別扱いされても困ると思った。

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