ラカム達が泣きついてくる

「ん?」


 それはエルフの森を抜けて、王国アレクサンドリアに出向こうとした道中の事だった。


「「「「うわあああああああああああああああああああああああああ! 逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」


 聞きなれた声がする。


「あれは……」


「ラカム達じゃない!」


「ラカム達? お知り合いなのですか?」


 事情を知らないセフィリスは首を傾げる。


「まあな。ただあまり再会して嬉しい知り合いではないな」


 見ると森の主であるビッグ・ウルフに襲われているようだ。ビッグ・ウルフは巨大な狼型のモンスターだ。


 ラカム達を餌だと思って追いかけてきているようだ。


「か、可哀そうよ! 流石にトール! 助けてやりましょう」


「わかった。俺もそう思う。自己貸与(セルフレンド)剣聖」


 俺は自身に剣聖のジョブを貸与する。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そしてビッグ・ウルフを斬り伏せた。




 キャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


 ビッグ・ウルフは犬のような断末魔をあげた。


「はぁ……はぁ……助かったか。ありがとうございます! って、てめぇはトール!」


 ラカムは叫ぶ。


「ちょ、ちょっと! 流石に何なのよその口ぶりは! 助けてあげたのはトールじゃない!」


 エミリアは叫ぶ。


「エ、エミリア王女まで……へへっ。ご機嫌うるわしゅうございます」


 随分と態度が違うな。まあいい。


「それで何なんだ? お前達。俺に何の用なのか?」


「良い! ラカム! 堪えて下手に出るのよ!」


「わ、わかってるよ! わかってる! もう荷物持ちだなんだって馬鹿になんてしねぇよ! こほん!」


 ラカムは咳払いをした。そしてもみ手をして、下心見え見えの笑みを浮かべこちらいに近づいてくる。


「トールの旦那……へへっ。お久しぶりでした。肩でも凝ってませんか? よろしければマッサージでもどうでしょうか?」


「い、いや。別にいい」


「ほら! ルード! グラン! 揉んでやれ!」


「「はい!」」


 ルードとグランが俺の身体を揉み始めた。肩をもんでくる。


「へへっ。トールの旦那、随分凝ってますぜ」


「ええ。どうか僕にほぐさせてください」


 本来気持ちいい事のはずなのだが、こいつ等にされるとただただ気色悪い。


「な、何のつもりだ?」


「……ほら。メアリー」


「わ、わかってるわよ! えいっ!」


「う、うわっ! 何するんだよお前!」


 メアリーは割と露出している胸で俺の顔を挟んだ。


 そしてぱふぱふをしてきた。ぱふぱふ、ぱふぱふ。


「あっ! トール! 何喜んでるのよ!」


「トール様……そういうのが好きなのですね」


 エミリアとセフィリスが騒ぎ立てる。


「す、好きじゃない! これはこいつ等が勝手にやってきたことで!」


「ふう……これでトールのご機嫌取りは完璧だぜ!」


 ラカムはドヤ顔をした。どこが完璧なのか、聞いてやりたいところだ。


「一体何のつもりだ? ラカム、メアリー、ルード、グラン」


「じ、実はですね。トールの旦那にお願いがありまして」


「お願い?」


「ええ。気づいたんですよ。トールの旦那が言っていたことが本当だったんだって最近。それでですね、トールの旦那。どうか、俺達のパーティーに戻ってきてください! それでまた職業を貸して欲しいんです! お願いします!」


「「「お願いします!」」」


 ラカム達が泣きついてきた。


「なっ!?」


「な、なに言っているのよ! あんたら! 図々しいにも程があるわよ! だってトールを追い出したのはあんたたちじゃないの!」


 エミリアは憤る。


「そ、そこはわかってますぜ。エミリア王女。だから、そこを何とか。また職業をお貸し頂きたいなと。もうトールの旦那には酷い扱いもしません。酷い事も言いません」


「そ、そうよ! ま、また私もぱふぱふしてあげるし!」


「俺もマッサージさせてもらいます!」


「僕もです!」


「だからどうか俺達に」


「「「「また職業を貸してください!」」」


 ラカム達は土下座で俺に頼んできた。全く、こいつ等にはプライドがないのか。俺はため息を吐く。


「用件はわかった。自分達の身の丈を知って俺に戻ってきて欲しいってことだな」


「え、ええ! その通りです! トールの旦那」


「だが、俺はもう既にこう、エミリアとそれからエルフ国の王女セフィリスとパーティーを組んでしまっている。もう元には戻れない」


「そ、そんな! トールの旦那! そこを何とか!」


「無理なものは無理だ。諦めてくれ」


 俺は告げる。


「行くぞ。エミリア、セフィリス」


「く、くそっ! 俺達はこれからどうやって生きればいいんだ! うわああああああああああああああああん!」


 ラカムは泣き始めた。


「お、落ち着きなさいよ。ラカム」


「ええ……僕達もまた身の丈に合った生き方を考えましょう」


「うむ……そうだな。俺の本来の天職は農民だ。鍬を振るう生き方っていうのも悪くないかもしれない」


「何諦めてんだ! お前ら! ……あんなに注目浴びて良い生活ができてたのに、今更村人として、平凡な生活をしろっていうのかよ! ええっ!?」


「仕方ないじゃない。私も遊び人として遊んで暮らすわよ」


「それでいいのかよ! お前ら!」


 嘆いているラカム達を後目に、俺達は本来の目的地、アレクサンドリアの冒険者ギルドへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る