【ラカムSIDE】冒険者ギルドでトールたちの行方を聞く

「トールさんの行方ですか!?」


 ラカム達。自分を勇者だと思っていたパーティーはアレクサンドリアの冒険者ギルドに来ていた。


「は、はい! あ、あの荷物持ち(ポーター)の……じゃなかった。トールの居場所を聞きたいんです」


 身の程を知って随分と大人しくなったラカム達は受付嬢にトールの居場所を聞く。


「トールさん達なら、エルフの国の近くにある神殿へ向かいましたよ。目覚めた邪神を討伐するために」


「マ、マジですか!? あ、あんな奴が邪神を倒しに」


「『あんな奴』!?」


 受付嬢は首を傾げた。


「馬鹿」


 メアリーに小突かれる。


「そ、そうなんですか! あ、ありがとうございます!」


「いえいえ」


 ラカム達がエルフの国の方向かおうとした時だった。


「マ、マジかよ! それ!」


 冒険者達が騒ぎ始めた。何かあったとでもいうのか。


「本当なのかよ!?」


「ああ! 本当らしいぜ! あのトールっていう新参の冒険者がいるパーティーが復活した邪神を倒したらしいぜ!」


「マジかよ! ドラゴン退治に続き、本当にすげぇな。本当に新参の冒険者パーティーなのかよ!」


 冒険者ギルドが活気づいていた。


「ほ、本当なのか? ……あのお荷物トールが本当に邪神を倒したのか? あんなやつが」


 ラカムは思わず呟く。今までただの荷物持ち(ポーター)だと思っていたトールがそんな大手柄を立てたのだ。事実だったとしてもとても信じられない。いや、残っている無駄なプライドが邪魔をして信じられなくなっている。


「ん? なんだとてめぇ! 世界の危機を救った英雄に向かってなんて口を!」


「ふっ。てめぇは、勇者ラカムのパーティーじゃねぇか」


 冒険者達はラカム達を鼻で笑い始めた。実情を知らない彼らはラカム達を現在でも勇者パーティーだとは思っている。だが、それでも最近のラカム達の低落っぷりは認知していたのだ。有名であったが故に猶更その低落っぷりが目立っている。


「どうしたんだ? 今まで飛ぶ鳥を落とす勢いだったのに、最近は随分音沙汰ねぇじゃねぇか」


「くっ!」


「なんか悪いもんでも食ったのか? それとも今までの勢いがただのまぐれ当たりだったのかもしれねぇな」


「ありえるなっ」


「「「はっはっはっはっはっはっはっはっは」」」


 冒険者数名が哄笑し始める。嘲るような笑みはラカムの怒りを買うのに十分すぎるものであった。


「て、てめぇ!」


「なんだ? やるのか?」


「やってやろうじゃねぇか!」


 ラカムは食って掛かろうとする。


「ば、馬鹿! や、やめなさいよ!」


「くっ……」


 メアリーに諫められ、ラカムは拳をおさめる。


「へっ。なんだ? やらねぇのか? 随分と腰抜けになっちまったな、勇者ラカムのパーティーも」


「へへっ。これじゃ勇者じゃなくてただのチキン野郎だな」


「くっ!」


「挑発に乗っちゃだめよ……ラカム」


「行くぞ……エルフの国を目指すんだ」


「うん……」


 ラカム達は覇気のない足取りで冒険者ギルドを後にした。身の丈を知った今、無茶な喧嘩などできない。ボコボコにされる未来があるだけだ。痛い目を見るだけ損である。


「へっ。とぼとぼと歩きやがって。見る影もねぇな、あいつ等」


「あの様子じゃこのまま落ちぶれていくだけだな。くっくっく」


「ちげぇねぇな。くっく」


 冒険者達の嘲りを背にラカム達は冒険者ギルドを後にした。





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