エルフ姫を救った英雄として歓迎される
「トール様とエミリア様とおっしゃいましたか。お二人のおかげで命を救われました」
「トール様、エミリア様。命を助けて頂きありがとうございます」
そう俺達にエルフ王と王女が礼を言ってきた。
「ええ……どうやら人間の起こした不始末のようですので気にしないでください」
そして俺はその不始末を起した連中に心当たりがあった。恐らくはあいつ等であろう。勘違いをしているが故に猶更たちが悪い。問題を解決する力を失っているのに、わざわざ問題を起しに行くのだから。
「ですが邪神から命を救われたことには間違いありません。誠にありがとうございます」
「ですが、邪神は復活し、今もなお健在なのです。ですから安心はできません」
根本的な解決にはなっていない。だから安心するのは早すぎた。
「邪神はどこにいるのでしょうか?」
「恐らくは神殿に戻ったのでしょう。神殿には多くの魔力(マナ)が集まってきます。その力を集める事で邪神はかつての力を取り戻していきます。復活したばかりの邪神はかつての邪神ではなく、ある程度力を失った存在なのです」
「そうなんですか……」
それであの力なのか。侮れないな。流石は邪神だ。1000年前、人間達が大いに苦しめられた存在らしい。
「トール様、助けて頂いておいてなんですが、どうか邪神を倒しては頂けないでしょうか? あなた様の力が必要なんです」
「私からもお願いしますっ! トール様っ!」
エルフ王と姫に頼まれる。
「最初からそのつもりです。俺達は冒険者ギルドから復活した邪神を倒すように要請されてここに来たのですから」
「ありがとうございます。勇者様。邪神は恐らくは力を回復している途中。すぐには襲い掛かってはこないと思います。ですので今晩はエルフ城でお休みください」
「ありがとうございます。言葉に甘えさせてもらいます」
こうして俺達はエルフ城で寝泊まりする事となる。
◇
「はぁ…………」
俺はエルフ城の大浴場で入浴をしていた。それは食事の後の出来事であった。
湯気の中から誰かが現れる。まさか、エミリアか。ありえそうだ。いくら幼馴染とはいえ、混浴はまずいだろう、そう思っていた時だった。
「エミリア……いくら幼馴染でも俺とお前はもう15歳なんだし」
しかし、湯気の中から現れた人物は俺の予想を裏切る人物であった。
「セフィリス王女!」
俺は慌てた。セフィリス様はその彫刻品のように美しい整った身体を惜しげもなく晒していたのだ。
それほど凹凸のない体つきをしていたのだが、それでも俺の心臓の鼓動を高まらせるには十分すぎる程のものであった。
「どうしたのですか! セフィリス王女」
「我がエルフの国をお救いになった英雄。そして私の命の恩人であるトール様のお背中をお流ししたいのです。ご迷惑でしょうか?」
顔を真っ赤にしてセフィリス王女が聞いてくる。相手はエルフ国の王女だ。「はい、迷惑です」なんて言えるわけもなかった。
「も、勿論、迷惑なわけがないですけど」
「では、トール様。お背中を流させてくださいませ」
こうして俺はエルフ国の姫。セフィリス王女に背中を流される事になる。
◇
「……いかがですか? トール様。かゆいところなどは?」
「い、いや。特にはないです」
「そうですか、では、前の方を」
「そ、それはいいです!」
俺は断固拒否する。
「? そうですか?」
セフィリスはそう言って首を傾げていた。
――と、俺がセフィリスに背中を流してもらっていた時の事だった。
ガラガラガラ。浴場の戸が開かれる。
「な!?」
そこに入ってきたのは幼馴染。そして今では俺のパーティーメンバーとなっているエミリアの姿であった。
「トール、背中を流しにきたよ! あっ! トール! 何をやってるのよ!」
「あっ」
俺はエミリアに見られてはまずいところを見られてしまった。
「な、何をやっているのよ! トール! まさかエルフのお姫様とあんな事やこんな事とか、いけない事をしていたんじゃないでしょうね!」
「そ、そんな事するわけないだろ! ただ背中を流してもらっていただけだよ」
「なーんだ。背中を流してもらってただけか……。って! それはそれで大問題よ!」
エミリアは叫んだ。風呂場なのでよく声が響く。
「もういい! こうなったら私もトールの身体を洗う! 隅々まで!」
「い、いいから!」
「遠慮しないでトール! だって、私達幼馴染じゃない!」
幼馴染というだけでなんでもしていいというわけではないだろう。俺は溜息を吐く。
こうして俺はエルフの姫と人間の姫に背中を流される事になったのである。
慌ただしい入浴時間。エルフの城での時間が過ぎていく。そして翌日となる。
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