ドラゴン退治へ向かう

俺と聖女となったエミリアは北の洞窟を目指していた。俺達のパーティーは何の実績もないという事でEランクの冒険者パーティーという事にはなっているが。


冒険者ギルドから特別クエストという事で、本来はАランク冒険者パーティーでなければ受注できない。


北の大地のドラゴン退治クエストを受注できる事となった。実際のところ、そのАランク以上の冒険者パーティーでもドラゴンを退治する事は手を焼いているそうだ。今まで幾多のパーティーが挑み、悉く失敗しているのである。


「よし……」


 まず俺は格闘王(モンクマスター)のスキルを自己返還した。俺は元のジョブ・レンダーに戻る。ドラゴン相手に格闘戦は有効ではないだろう。


「何とかなるかな」


 多少不安だった。パーティーは普通、四人や五人で構成するものだ。今の俺達は二人きりなのだ。


「どうして? トール」


「二人きりで大丈夫かと不安に思ったんだ」


「大丈夫よっ! トールならっ!」


 根拠ないな。


「それに私もついているわ! トール!」


 確かに聖女であるエミリアがいるのは心強い。聖女とは回復も支援もできる万能防御職だ。主に支援は守りの魔法を展開したりするものである。


 聖女となったエミリアがいれば割と何とかなりそうだ。


 俺達は北の洞窟にたどり着いた。『この先ドラゴン出現! 立ち入り禁止!』の看板があった。


 間違いない。この先にドラゴンがいるのだ。


「どうする!? トール!! この先立ち入り禁止だって! 立ち入らない方がいいんじゃない!?」


 エミリアは純朴すぎる少女だ。あまりに素直すぎた。


「俺達はドラゴン退治に来たんだ。この立て看板はそれ以外の人たちが入る事を禁じているんだ」


「なんだ、そうか」


 エミリアは笑った。大丈夫か。不安ではあるが、とにかく中に入るより他にない。


「怖いね……トール」


 エミリアが俺にしがみついてくる。柔らかいものが当たる。何が当たったかまでは言わない。


「お前は聖女の魔法でホーリーライト使えるだろ」


「そっか。ホーリーライト」


 聖なる光の玉が薄暗い洞窟を照らした。こういった支援魔法も聖女であるエミリアは使えるようになってたのだ。


「それでトールはどんな職業になるの?」


 職業の自己貸与(セルフレンド)。キャパシティの空いた俺は自分に職業を貸す事で闘えるようになっていたのだ。その戦略も凡そ考えている。


「相手がドラゴンだという事はわかっている。だから対策も練りやすい」


「へぇ……流石ね。トール」


 エミリアは感心していた。


「それより、お出ましだ。例のドラゴンが」


「うわっ。大きい」


 ドスン、ドスン、ドスン。洞窟内なので飛ぶことはできないが、ドラゴンが闊歩していた。俺達が対峙しているのは火属性の竜。火竜(レッドドラゴン)である。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 ドラゴンは俺達を視認すると咆哮をあげてきた。


「う、うわっ! うるさいっ!」


 エミリアは耳を塞いだ。


「やるぞっ! エミリア!」


「うんっ! トール! 支援(サポート)なら任せてっ!」


「ああ! 頼む!」


 俺はジョブ・レンダーとしてのスキルを発動する。


「自己貸与(セルフレンド)!」


 俺は自分で自分に職業を貸与した。

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