最強魔道士の必殺技は浮遊魔法、あらゆる魔法が使えるけどボス戦のトドメは浮遊魔法で

第27話・スロス、仲間のピンチに焦る

「は！？　スロスのセクハラが私を守ってくれたの！？」

　イラは俺の行為の全てをセクハラ扱いするつもりなのかな？

「そだよー。ついでにお尻の方も捲（まく）し上げておこう」

「きゃあああああああ！！　なんで後ろまでスカートを浮遊させんのよ！！」

「俺がパンツを見たいから」

「ぶっ殺す！！」

　イラが涙目になって俺を怒鳴り散らす。

　だけどイラも気付いたらしいね。

　アンデットの一体が彼女に魔法を放ったことに。イラの表情が急変したんだ。

「俺のお尻ちゃんに魔法を放つなんて万死に値する」

「……助けてもらってお礼を言いたいのに、言うと屈辱しか感じないと思うのはなんで？」

　イラも素直になって良いんだよ？

　さあ、俺にお尻を向けちゃいなよ。

　YOU、俺にお尻を向けちゃいなYO♪

「イラちゃん！！　アンデットがドンドン増えてるんだよ！！　きゃは♪」

　まあちゃんが状況の変化を伝えてくる。

　まあちゃんの攻撃は破壊力が凄いな。

　クレイモアの一振りで数体のアンデットを沈めていく。

　そして、その度にまあちゃんのボンキュッボン！！　がプリプリと揺れるんだよね。

「どうして俺はデジカメを持ってこなかったんだ」

「スロス！！　こっちの支援を忘れんな！！」

　イラが大声を上げている。

　イラがアンデットに囲まれている？　少しだけ目を離した隙にどうして？

　俺は急いでイラに浮遊魔法を使う。だが間に合わない。

　イラは防御が嫌いだからな。ピンチになると寧ろ、その渦中に飛び込む癖がある。

「ダメだ。イラ、そっちに活路はない」

「無かったら作れば良いだけでしょ！！　あんた、寝ぼけてるの！？」

「うーん。イラは単細胞だからな」

「スロス！！　聞こえてるんだからね！！　本当に後で覚えてないさいよ！！」

　良く観察するとアンデットの配置がイラに集中している気がする。

　いや、気のせいじゃない。

　イラがピンチ。この状況はさすがに見過ごせない。

　久しぶりに本気を出すか？　俺の『奥の手』を出すべきだろうか？

「スロス！！　キレたらダメよ！！」

　イラが叫ぶ。

「イラ？」

「あんた、今『あれ』をやろうとしてたでしょ！？　こんな密閉空間でやったらダメだからね！！」

「……分かった。イラを信じる」

　俺の浮遊魔法でイラにしがみ付くアンデットを引き剥がす。

　だが、それすら間に合わない。イラの周囲には数え切れない程のアンデットが集まっている。

「スロスちゃん！！　この部屋のアンデットは歴代魔王だから人間に恨みを持ってるかも！！　きゃは♪」

　なるほど。魔王と言えば人間と対立したモンスターたちの統率だからね。

　人間に恨みを持っていても不思議ではない。

　さらにイラは信仰系職業の最高位。その身から常に聖なる気配を発している。

　この状況になる材料は揃っているな。

　しかし、それを前提にすると、まあちゃんは本当に異質な存在だな。

「だけど、いくら状況の整理ができてもね。イラを助けないと」

　俺ができる事はイラの周囲を取り囲むアンデットを浮遊魔法で引き剥がす事。

　俺は運動は得意じゃないから。

　アンデット蠢（うごめ）く中には飛び込めない。

「やあ！！　こんの……どりゃああ！！」

「正拳突きからの頭を掴んで膝蹴りって……イラは本当にセージなのかと疑っちゃうな」

「どこからどう見たってセージでしょうが！！　スロスには私が遊び人にでも見えるの！？」

「バニー姿で客引きしてたじゃん」

「それは即刻忘れなさい！！　じゃないと膝蹴りで強制的に記憶を消すわよ！！」

　イラの膝蹴りか。太ももは男のロマンなんだけどさ。

「今はイラの命に勝るものはない」

「……まったく、うちのメイガスは真剣になるとカッコいいんだから」

　イラが小さく呟いてから掴んだアンデットを後方へ投げる。

　後方にいたアンデットを一掃することに成功するも、左右から別のアンデットがイラに接近する。

「そいつらは俺が振り払おう」

　俺の浮遊魔法でアンデットを吹き飛ばす。だが足らなかった。

　意識の死角。

　イラの足元から、地面から新しいアンデットが這い出て来ていた。

「くっ！！　アンデットになってまでセクハラするんじゃないわよ！！」

「イラ！！」

　俺は珍しく大声で叫んでいた。仲間のピンチ。

　如何にめんどくさがりの俺でも焦るには充分な理由だ。

　だが一瞬にして俺の焦りは驚きに変化する。

「ガウウウウウウウ！！」

　イラの後ろからソリッドが姿を現した！！

「ソリッド！？　いつの間に！？」

　先ほどまで部屋の片隅に大人しくお座りをしていたソリッド。彼は透明化スキルを使って渦中に飛び込んでいたらしい。