第九話 お金の稼ぎ方と服屋

 私はレミリエルさんの後に続く、迷いなく歩いている所からこの国の土地勘があるんだろうか。

 なら安心してついて行っていいのかな。


「あの、洋服屋って何処なんでしょう」


「え、知らないで歩いてたんですか?」


 困り果てた様子でこちらを振り返るレミリエルさん。さっきまで一体何処に行こうとしていたのか。


「とりあえず街の人に聞いてみましょうか」


「私、こう見えて全く知らない人に話しかけるの苦手なのでエルノアさんお願いします」


 私の提案にレミリエルさんは、私に縋り付くように懇願してくる。人見知りには見えなかったけど、断る理由もないので了承する。


「あの、すみません。お洋服屋さんってどちらにありますか?」

 適当に通行人を捕まえて声をかける。


「服屋は真っ直ぐ行ったら直ぐにあると思うけど⋯⋯。君、すごい格好してるねぇ」


「ありがとうございます。まあ、お気になさらず」


 通行人の方に服装を指摘されたが、だから服屋に行く必要があるんだと察して欲しい。

 私はレミリエルさんに、通行人から頂いた情報をそのまま伝え、服屋に向かって歩いた。


「アレじゃないですか?」

 レミリエルさんが指さしたお店には確かに、ガラス張りに服が展示されている。

 ただ何となく高級そうな予感がする⋯⋯。


「まあ、お金はあるんですし入ってみましょうよ」


 レミリエルさんは、店の扉を開ける。

 店内に入ると、直ぐに店員さんが私たちの元へやってきた。なんだか煌びやかな装飾品が沢山着いた服を着た、貴婦人のような方だ。


「いらっしゃいませ〜。本日はどのようなお召し物をお探しで?」


「ああ、この子に似合う服を探しに来ました」

 そう言って私を指すレミリエルさん。


「あらまぁ!なんて粗末な格好をしているの!女の子なんだからきちんとしたお洋服を着ないと!」


 店員さんは散々驚いた素振りを見せた後に、「直ぐに似合う物を持ってくるわ!」と店置くへとパタパタと駆け込んで行った。


「騒がしい店員さんですね」


「めちゃくちゃ粗末な格好って言われたんですけど⋯⋯。この世界ではアレ、普通なんですか?」


 私の問いかけに、レミリエルさんは「んー」と考え込んでから、「普通に異常ですね」と言った。


 やっぱり⋯⋯。


 程なくして、店員さんが慌ただしく息を切らしながら幾つか服を持ってきた。

「厳選してきましたわ!」と私に幾つか服を手渡してきた。


「これ、全部フリルの着いたやつ⋯⋯。可愛い子が着るやつじゃないですか?」


「何言ってるの。アナタは可愛いわよ、顔だけかもしれないけど」


 店員さんは至って真面目な顔をしている。普通に貶してきたかと思った。

 私は厳選されたであろう服を幾つか見やる。どれにしよう⋯⋯。

 レミリエルさんは「私と同じ道を往くのなら黒服ですね、吸血鬼っぽいですし」と黒をゴリ押してくる。


「まあ、吸血鬼っぽいですけど⋯⋯。露骨に吸血鬼ってわかり易いのは⋯⋯」


「吸血鬼とバレるのは嫌ですか?吸血鬼差別をする国は少ないと思うんですけど」


 例え吸血鬼差別をする国は少なくとも、一度奴隷にさせられている身だし、あまり全面には出したくない。

 だから私としては吸血鬼らしからぬ色合いで攻めていきたい。


「この白い服、可愛くないですか?」


「可愛いと思いますけど、私の好みでは無いですね」


 私が掲げて見せた服をレミリエルさんは不貞腐れたように否定する。白い服に恨みでもあるのか。というか天使なら好んで着る色味では。


「まあ、エルノアさんの好きな色を着るといいですよ、私は気にしませんので」


「はぁ⋯⋯。じゃあお言葉に甘えて」


 何故か絶対に気にしているであろうレミリエルさんを放っておき、私は店員さんに服を見せる。


「これがいい⋯⋯です」


「白のワンピースね。貴女、自分に似合いそうな服を見つけるのが上手いのね!」


 店員さんは私を一通り褒めると、「一度試着してみるといいわ」と試着室へと案内してくれた。

 私は試着室の扉を閉め、ボロボロの服、服と言っていいか分からない布切れを脱ぎ捨て、白いワンピースを身に纏う。

 肩が出るから夜は少し寒いかもしれない。


「どう、着れたかしら」


「あ、はい、今行きます」


 私は試着室の扉を開け、店員さんの前に出る。レミリエルさんも見ているせいか少し気恥しい。


「あら、とっても似合うじゃない!可愛いわ」


「まあ⋯⋯白もありなのかもしれませんね。考えを見直します」


 謎に考えを見直してくれたレミリエルさん。そして安定に褒めてくれる店員さん。

 悪い気はしないが、やはり気恥しいので早くお会計を済ませて立ち去りたい。


「あの⋯⋯お会計お願いしてもいいですか?」


「はいはい、ちょっと待ってね」


 私が幼女さんの母親から頂いたお金から支払おうとすると、レミリエルさんが「私からのプレゼントです」と私の手を止め、代わりにお金を支払ってくれた。


「あの、ありがとうございます⋯⋯。大事に着ますね?それと、黒じゃなくてすみません⋯⋯」


「ああ、いえ。別に気にしなくてもいいですよ?」


 何故か謝り、何故か許されたのでこれで心置き無くこの白いワンピースを着れる。そう思って店員さんに「ありがとうございました」と告げて店を出ようとした。

 しかし、後ろから「助けて⋯⋯助けてください⋯⋯」とレミリエルさんの死にそうな声が聞こえてきた。

 え、何事、と思い振り返って見るとレミリエルさんが店員さんに肩を掴まれ動けなくなっていた。


「貴女のお買い物がまだじゃなくて?レミリエルさん?」


「べ、別に私は洋服には困っていないので⋯⋯」


 買わないなら死ね、とでも言いたげな店員さんにレミリエルさんは愛想笑いで返すが、どうやら通じなかった様で、次から次へとレミリエルさんの腕に洋服が積まれていく。


「ちょ、重、やめてください」


「んー、貴女に似合うのはそれくらいかしら。あ、お会計はねぇ⋯⋯」


 店員さんが私に聞こえないように、ボソリとレミリエルさんの耳元で呟く。

 呟かれたレミリエルさんは途端に顔色が青ざめて、「は、はははは払えませんよ、私、そんなに。ご飯も食べられなくなるしお風呂にも入れなくなります」とガタガタと震え出した。


「フフフ、レミリエルさん?お洒落の為には節約しなくちゃ⋯⋯?」


「ひっ⋯⋯や、やめてください。買いませんよっ!私そんなにお金ないです!」


 涙目で抗議するレミリエルさんを圧倒する勢いで、店員さんは凄まじく、店を出る頃には両手に大量に服の入った手提げ袋を持つ羽目になっていた。


「くっ⋯⋯。あんなゴミみたいな店二度と行きません!巻き上げたお金の殆どを巻き上げられました!」


「ま、まあまあ⋯⋯」


 怒り、震えるレミリエルさんを宥めつつも、私は「ああいう稼ぎ方もあるのか」と感心していた。成程、時としては押しが大切。そしてレミリエルさんの様に強引な稼ぎ方をすると、強引にお金を消費されられる可能性があるということも肝に銘じておこう⋯⋯。


 また一つ、異世界での儲け方を学んだ私だった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る