俺様と私(現代恋愛)
いっそ朝礼の壇上で叫んでしまいたい。
全校生徒の皆様。
スポーツ万能で成績優秀でイケメンで生徒会長な相模先輩は「俺様な変人」ですよ。
* * *
「すみません、トマトジュース置いてないんですか?」
セットのケーキをどれにしようかな、とカラフルなメニュー見ながらうきうきしていた私の気分は相模先輩の一言によって一蹴された。
「あの……当店のドリンクはメニューにあるものだけになるのですが……」
「えー、ミネストローネがあるのにトマトジュース出来ないの? トマトあるんでしょ? だったら絞ってもってくればすむ話じゃん。お金はちゃんと払うからさ」
オーダーを取っているウェイトレスが泣きそうな顔で私を見る。
彼女でしょ、なんとかしてよ。すでに潤んでいるように見える瞳が、確実に私の瞳をとらえて訴えている。
たぶん、錯覚なのではない。
「……先輩。トマト好きなのは解ってますが、ここは紅茶専門店です。紅茶を楽しみましょう」
「だって俺、紅茶の種類とか知らないもん」
確かに店選んだのは私だけど、ちゃんと紅茶専門店とは説明したはずなのですが。
さては、生返事していやがったな、このお人は。
(だったら最初から自分で店えらべっつーの!)
……という文句を飲み込んで、とりあえず無難な「店長のお勧め」マークのついた紅茶を適当に選んであげた。
* * *
「おいこら、橋本。お前さっきの店で俺様のオーダーに文句つけたろ」
「してません」
「いや、あの顔はしてたね。ハートで」
さも当然かのように決め付けてくる相模先輩は、ニヤニヤとした笑みを向けてくる。
木枯らし吹き付ける冷え込みも、そんな相模先輩へのやるせない怒りで跳ね除けられそうだ。
いや、ごく最近。怒りだけではないことが解りかけてきたのだけれども。
「何でそんな事わかるんですか。超能力者ですか。へーすごーい」
「お前、うそつくときに……いや、なんでもねーや」
「何ですか言いかけてやめるなんて男らしく、にゃっ」
そっぽをむいている私を、相模先輩は強引に自分の方に向けさせた。
よりにもよって、両ほほを思い切り引っ張って。
痛さと怒りで血が上る。顔が思い切り熱くなっているのが、自分でもよく解った。
「スポーツ苦手で成績は中の上で背丈が超可愛い、おニブさんな橋本に教えてやろう」
それはもう憎たらしい程に、端正なお顔に微笑を携えて、得意気に相模先輩は言う。
「それを言ってしまったら俺様の楽しみがなくなってしまうからだ」
「な……そんなず」
ずるい、とそういうはずだったのに。
ほほから手を離してくれたと思ったら、今度は口を塞がれた。
うーうー、叫んで抗議する私をよそに、先輩は夜空を仰ぐ。
「細かい事は気にするな、橋本。今宵の月の美しさに免じてな」
なんだ、その雅っぽいようで全然通らない自分勝手な理屈は。 だけどその怒りを忘れてしまいそうになるくらいに、月は綺麗に見えた。
その月を背後にした先輩のイケメンさには心底ムカついたけれど。
* * *
全校生徒の皆様。
スポーツ万能で成績優秀でイケメンで生徒会長な相模先輩は「俺様な変人」です。
だから、付き合いたいと思っても私以外の人には手には負えませんよ。
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