書籍化記念 特別編

特別編1話

※書籍第1巻の発売を記念した特別編です!

 5月10日に電撃文庫さんから書籍版1巻、6月10日に書籍版2巻が発売です!

 特別編は、内容的にはカクヨム版準拠になっています。



 これはまだ、“冬野とうの雪季ふゆ”が“桜羽さくらば雪季ふゆ”だった頃のお話――


「あのさ、桜羽。俺、ずっと前からおまえのこと――気になってたんだ!」

「は、はぁ……」


 中学三年生に進級したばかりの、放課後。

 私は同級生でバスケ部の山下くんに呼び出されました。


 ここは、私が通う中学の校舎裏。

 私は入学して二年間で、何度もここに来ました。


 もはや、実家のような安心感です。

 いえ、私は普通に実家住まいでこの先も家を出る予定はないですけど。


「ああ、こんな言い方じゃダメだな。そうじゃなくて――俺は、桜羽のことが好きなんだ!」


 山下くんは真剣な顔で、叫ぶように言いました。

 なにかの罰ゲームで言わされているようには見えません。


 決まりでもあるのか、皆さん校舎裏に呼び出して告白してきます。

 前言撤回しましょう、あまり安心できません。

 私をここに呼び出す男の子たちは、みんな必死でちょっと怖いです。


 でも、相手が本気なら私も失礼な態度は取れません。

 だから――


「ご、ごめんなさい」


「……他に好きなヤツとかいるのか。いるなら、誰なんだ。絶対に誰にも言わないから、教えてくれ」

「えぇ……そ、そう言われても」


 ぐいぐい食い下がってきますね……。


「いや、もしいないのなら、お試しってことでもいい。友達よりちょっとだけ進んだ関係っつーか」

「そ、それもちょっと……」


 悪いのですけど、山下くんとはお友達でもないと思います……。

 ほとんどお話ししたこともありませんし。


 つまり、私の見た目だけ見て、好きとか言ってるってことですよね。


 私、桜羽雪季はオシャレ大好き。

 洋服と化粧品にお小遣いをつぎ込んでますけど、だからといって見た目だけで判断してほしいわけでもないんです。

 我ながら面倒くさいですね。


「ごめんなさい、山下くん。私、今は誰ともお付き合いするつもりはないので……」

「そ、そうなのか……」


「は、はい。だから……ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げる私。

 とにかく、こういうときは頭を下げるしかありません。

 どう言っても、相手を傷つけることになりますし……。


 お兄ちゃんは、私がスマートに告白を避けてると思ってるみたいですけど。

 実はけっこう、必死なんです。


「……わかった。いきなり悪かったな、桜羽」

「いえ……」


 私は頭を下げ続け、山下くんが遠ざかっていくのを確認してから――


「はぁ……今日はなかなかの緊張感でした」


「なかなかしつこかったっすねえ、山下の野郎」

「わっ、れーちゃん?」


 校舎裏の木の陰から、ひょこっと姿を現したのは。

 ボブカットに赤いフレームの眼鏡。

 私の親友、冷泉れいぜん素子もとこちゃんでした。


「あと一歩で、殴り込みに行くところだったっすよ。大丈夫っすか、フー?」

「れ、れーちゃん、どうしてここに?」

「馬鹿が強引に迫るかもしれないのに、フーと二人っきりにはできないっすよ」


 れーちゃんは以前は上級生にだけ体育会系みたいな敬語でしたが、いつの間にか私たち同級生にも同じ口調になってます。


「それに、山下は強引そうっすから。悪いけど、監視させてもらったっす」

「は、はぁ……」


 告白の現場を覗くのは、あまりお行儀はよくありませんが……。

 れーちゃんは私を心配してくれたみたいですし、正直ありがたいです。


 今まで変なことしてきた男の子はいませんけど、この校舎裏は人気がないですしね。


「しっかし、フーは進級してから告られまくりっすね」

「すみません、急に増えましたね……」


 まだ三年生になったばかりなのに、山下くんで三人目です。

 漫画じゃないので、そうポンポン告られるわけではないんですが。

 でも、このペースは異常です……。


「二年のときまでは、桜羽先輩がいたっすからね。先輩、背ぇ高いから男子どもにビビられてたっすもんね」

「お兄ちゃん、全然怖くないですよ?」

「そりゃ、フーを怖がらせるわけないっすよ。ボクらもちっとも怖くないっすけどね」


 れーちゃんは、ふーっとため息をつきました。


「これから怖いのは一年っすよ。なにしろ、桜羽先輩を知らないんすからね」

「そ、そんなに告白されることは――」


 ない、とは言えません。

 でも、一応否定してる風を装っておきます。


 私は自分が可愛いと思っていますが、口に出すほど偉そうでもありません。


「フーがオッケーするはずもないのに。まあ、知っててもダメ元で挑戦するっすね。困ったもんっす」

「あ、でもれーちゃんだって何回も告られてますよね? 全然オッケーしないじゃないですか」

「ヤツらはボクの恐ろしさを知らないんすよ。もし付き合ったら、恐ろしさを知ることになるってわけで。OKしたら可哀想っす」


 ニヤリ、と不敵に笑うれーちゃん。


 れーちゃん、私のボディガードを買って出るくらいケンカは強いですけど。

 でも、自分から暴力を振るうタイプではないです。


「けど、山下も命知らずっすね。あいつバスケ部なんだから松風先輩を通して、桜羽先輩にバレるだろうに」

「私が言っちゃうかもです」

「フーは隠し事できないっすからね。さっさと自分から言ったほうが早いっすよ」

「山下くんには悪いですけど、そうですよね……」


「先輩と一緒にゲームでもして、適当なタイミングで話せばいいっすよ。先輩も、別に山下を殺したりはしないっす」

「そうですね、お兄ちゃんが人殺しに手を染めては困ります……」

「もしそうなったら、ボクらが全力で証拠隠滅しないといけないっすね」


「ツッコミ不在かよ!」


「あれ、ヒカ」

「あ、ひーちゃんもいたんですか」


 今度現れたのは、同じく親友の氷川ひかわ琉瑠るるちゃん。

 ショートカットに小麦色の肌で活発そうに見えますが、成績トップの秀才さんです。


「まったく、こいつらは……桜羽先輩に甘すぎなんよ」

「そうでしょうか……?」

「そうっすか?」


 私は、れーちゃんと同時に首を傾げます。


「ふーたんとレイが先輩を甘やかして、先輩が二人を甘やかして、甘々の過剰相互作用が起きてるやん」


 ひーちゃんは頭が良すぎて、余計な心配をしがちなんですよね。


「もう、ふーたんは帰って先輩と遊んでストレス発散してきなよ」

「そうっすね。まったく、野郎どもは告られてフることがフーにどんだけ負担になってるかわかってないんすよね」


「……ありがとうございます、ひーちゃん、れーちゃん」


 親友たちは、内に籠もりがちな私のことをよく理解してくれています。

 私こそ、二人の親友に甘えすぎているんでしょうね。


 だけど、たぶん――

 私が、ひーちゃんれーちゃんの二人と同じ学校に通えるのは中学三年の今が最後。


 甘えてばかりではいられないけど――今は二人と、楽しい学校生活を送りたいです。






※本編はほぼ春太視点ですが、せっかくの特別編なので雪季ちゃんたちの視点にしてみました。

 あと、3章後半がシリアスだったので、のんびりしたお話をゆるーく楽しんでもらいたいというのもあります。

 特別編は3、4話ほど公開予定です。

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